夢見た「子宝パラダイス」
多肉を育て始め、たった数か月しか経ってない超初心者だった頃。
園芸店で始めてそいつを見たときは、何だ?これ!?と思った。のっぺりした鮮やかな緑色の葉っぱの淵を、小さな芽がキレイに並んでいるという一風変わった風貌。少し異様なものを感じながら、思わず私は可愛いと思ってしまった。
だが、当時の相方さんは「これ、ちょっと気持ちが悪いよ」と冷静に言い放つ。確かに少しだけ異様な気もするが…そうはいっても、元々見た目が奇抜なものが私は好きなのだ。その上、可愛いんだから最高ではないか。そうに違いない!
彼の意見を軽くスルーし、何も考えずに直感で購入したカランコエ属の子宝草。調べてみると、葉っぱの淵にある小さな芽は子供だという。これが土に落ちて、根を張り大きくなるというのだ。そしてその子供たちが大きくなったら、葉の淵に小さな芽をつけていく。結果、恐ろしいほど増えるらしい。
ネットでは「助けてください!子宝草が増えて困っています!」という相談がいくつもあった。
これは面白い。
私も増えすぎて困りたい、と思った。
増えすぎて頭を抱えることが、子宝草を育てる醍醐味だと思ったのだ。早速、子宝草を30センチほどの大きな鉢の真ん中に植えかえた。そしてチビチビたち(芽)を葉から取り、別容器の水に浮かべた。水に浮かべると根が出やすいと書いてあったのだ。
2~3日すると根が出てきたので、チビチビたちを親の周りにそっと置くように大鉢に植えた。この小さな子供たちが、これからすくすくと大きくなるはずだ。そして、この大鉢はやがて『子宝パラダイス』になるのだ。
スカスカな大鉢を眺めながら、子宝草で一杯になることを想像してみた。
そして「こんなに増えちゃって子宝草どうしよう!」と言って困っている自分を想像したら、嬉しくなってニヤついてしまった。
しかし、数日も経たないうちに『子宝パラダイス』が無残にも荒らされてしまったのだ。このベランダによく来ていた近所のネコの仕業だった。今までイタズラされた事がなかったのだが、この30センチの鉢はネコにとって丁度いいトイレの大きさだったかもしれない。
ネコは嫌いではないが、これには参った。当然チビチビたちは土に紛れ込み、救出するのに一苦労だった。途中で面倒くさくなってしまい、半分救出した時点で辞めてしまった。また荒らされるのは困るから、ネコ除けのネットも作らないといけない。全くヤレヤレだ。
百均で買ったネットでお手製のネコ除けを作り、なんだか見栄えの悪い、『再生☆子宝パラダイス2』がとりあえず完成した。
ネコに荒らされたのが原因なのか?それとも成長速度が元々遅いのか?ぐんぐん伸びる予定だったチビチビたちは、私の意を反してなかなか大きくならないまま、夏に突入してしまったのだ。
この年は、タニラーになって初めての夏だった。夏の恐ろしさをまだ知らない私は、もちろん夏対策なんぞしていない。そのせいかどうかは兎も角、一代目(親)はあれよあれよと弱り、あっさりと枯れてしまった。
ただでさえ不格好な『再生☆子宝パラダイス2』が、さらに貧弱なものとなってしまった。1センチも満たないチビチビたちと無駄に大きい30センチの大鉢だけが残されたのだ。
挫折が早すぎるだろうと突っ込まれそうだが、一番の原因は景観だった。
作ったのは私だが、ネコ除けネットがどうしても格好悪く気に入らなかったのだ。二番目の原因は、チビチビたちが思った以上に成長が遅いことだった。元々成長が遅いのか。私が過保護すぎるのか。兎に角、大きめのチビチビたちを何個か選出し、小さい鉢に植え替えして、再度じっくり育てることにしたのだ。
あれからもうすぐ5年になるというのに、二代目は未だに親株の大きさに到達していない。チビチビらの葉の大きさは、一代目(親)の5分の1程度だ。しかし、こんな小さいサイズなのに、いっちょ前に葉の淵には小さな芽をつけるようになった。見た目と違い、もう大人になったらしい。
今思えば、相方さんがいうように一代目(親)は、やはり気持ち悪かったかもしれない。一代目ののっぺりした葉に可愛さは微塵もなかった。きっと可愛く感じたのは端に並んでいたチビチビの方だったのだろう。
あの頃の私は多肉植物に対して盲目で、初めて出会う多肉全てに心奪われていたのだ。だから何を見ても可愛く見えてしまうのは、仕方がないといえば仕方がない。
しかし盲目ではない今の私がみても、二代目の子宝草は、親になっても可愛く見えるから不思議だ。
違いはサイズと色目だろうか?大きければ良い、というわけではないのだ。
30センチは失敗したが、たった6センチの鉢で繰り広げられる『プチ☆子宝パラダイス』は成功ではないか?
増えすぎて困ることはなかったが、充分夢は叶ったのではないかと思う。