パソコンの中で、にじみ出る色。

1年目から一緒に仕事をしている、ヘンテコな先輩がいる。

50歳くらいで、雰囲気が独特で、話すと気さくなお兄さんだ。


彼は支援はちゃんとやる人なのだけど、とにかくIT機器に弱いことで有名だ。

仕事上、パソコン操作が避けられないのは彼にとっても不幸だろう。両手の人差し指で、ポチポチと入力をする姿には哀愁が漂っている。

「この文字を大きくする方法がわからない」
「クラウド上の変な場所にファイルを上げてしまって消し方がわからない」

このくらいの質問はときどき私に来るし、いくつかの伝説もある。

計算式を壊されるから彼にExcelをいじらせては駄目だとか、
支援の報告をする入力ツールで年単位で日付を間違えたとか、
システム更新のためにデータのバックアップを取るとき、デスクトップの「ごみ箱」まで保存していたとか。

これまでの仕事でだってパソコンは使ってきたはずなのに、よほど相性が悪いんだろうなあ…と思っている。


上司も当初から私に「彼はパソコン苦手だから」と言っていたのだけれど、彼の中でもアップデートを重ねて、仕事に差し支えない範囲では操作できるようになっている。

だけどちょこちょこと「え……なんでこれがこうなるの」ということもあって面白い。たとえばExcelで作った会議資料に不自然な空白ができているとか、身内の職員だけが見られるクラウド上に彼個人の資料が上がっているとか。

そういうのは彼の『色』のようなもので、仕事に差し支えないことであれば積極的に放置している。無機質なシステム上で、彼の仕事はほかの大勢よりも色濃く人柄が現れる。


誰が打っても同じ文字ができるシステム上。全員がまったく同じものを作ることもできるはずだけれど、どこかに必ず個性がにじみ出る。たとえば記録文の言葉選び、スペースや数字を全角にするか半角にするか、などなど。

支援記録を残すという目的のためのシステムで、その程度のズレは問題ないからこそ出てくる個性なのだけど。

無機質なシステムの中に現れる『色』を見つけるのが楽しい。

2年前でも最近でも、自分やずっと居る人の支援記録は名前を見なくても分かるのが面白い。

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