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既存のFM音源はここがおかしい!

先日から複数記事に渡って、DX7(そして既存のすべてのFM音源)の問題点について議論してきた。筆者はFM音源が難しいのはDX7で示されたサウンドデザイン手法がFM音源の本質に合っていないからだと確信している。他のFM音源はその先駆者の軌跡を追っているに過ぎない。そしてその問題点の解決策も頭にある。それは後の記事で明らかにしよう。いつになるかは分からないが、このコンセプトをもとに勉強中のC++を使ってプラグインを作成、販売したいと思っている。むしろ誰かがアイディアを盗んでいただけたら楽なので嬉しいが

DX式FM音源の問題点

  1. 最初にオペレータ構成を念頭に置いて音色を作らなければならない。つまりゼロベースで音色を作るのが難しくなる。従って決め打ちでアルゴリズムを決定する人も多いはずだ。

  2. オペレータを入れ替えるのが著しく難しい。フィードバックをかけたいモジュレータが違うことに気づいたらオペレータ設定をメモして、フィードバックを付けられるオペレータにデータをその通りに打ち込まないといけない。そしてそのオペレータもメモして復帰しないといけない。メニューダイビングがメインのDXシリーズとしては骨折りである。

  3. アルゴリズムの並び順に規則性が無いし、使いづらいアルゴリズムが先に並んだりしていてユーザーフレンドリーではない。1番のアルゴリズムが何でいきなり4段積みで、フィードバックが4段側なのか、おそらくデザインした西元さんにも説明ができないのではなかろうか。

  4. 最初の記事で問題に上げた「モジュレータ共有」、そしてFM合成のコンセプトを無視した「サイン波のみ出力」などの使えないアルゴリズムが多々ある中で、Y字構成で1キャリアのアルゴリズムが無い(そもそも1キャリアが3つしかないのは不満)など、選定基準がやはり不明瞭

個人的には構成が硬直化していることが最大の問題である。音色のリファクタリングが気軽にできない。

そもそもなんでこんなにFM音源を複雑怪奇にしてしまったのか。それはFM音源を実用化したのが他ならぬYAMAHAだからだ。ROLANDやKORGならもっと分かりやすいものになっていたはずだ。いや、世界に名だたる一大コングロマリットをディスりたいわけではない。FM音源という未知の存在をLSIにパッケージできたのは、YAMAHAという会社が幅広い製品を作っていたからだ。それを作る開発設備を用意できるだけの力と、社運を賭ける心意気があったからだ。そして、DX7のサウンドデザインシステムはYAMAHAシンセの歴史的に仕方なかったのだ。その理由は以下の通りだ。

YAMAHAはモジュラーシンセを作っていない。だからいつも通り構成が決められたシンセを作ってしまった。

いや、正確にはFM音源などの研究開発用にYAMAHAが作ったシンセサイザーPAMS (Programmable Algorithm Musical Synthesizer)は間違いなく史上初のデジタルモジュラーシンセサイザーだ。しかし自由度があまりにも高かったことから世に出ることは無かったというのは変わりない。すでに確立された楽器メーカーの新規ビジネスとして、楽器として自己完結したハードワイヤードなシンセの名器を多数世に生み出してきた。それはエンジニアが一から立てた御三家の他の2社と違う点だ。ROLANDはSYSTEMシリーズ、KORGはMS/PSシリーズというモジュラーシンセの代表格を輩出した。

なぜこれが重要なのかというと、FM音源はオペレータが他のオペレータを変調するところに独自性があるからだ。つまりそもそもがモジュラーなのに、自己完結・スタンドアローン型のシンセを得意とする会社がFM音源を世に送り出したばかりに、全てをハードワイヤーするという方法を取らざるを得なかった。

だがこれは仕方ない部分がある。以前の記事で述べたとおり、全てのオペレータを開放して自由にパッチングしましょうというのはユーザーに多くをゆだね過ぎて混乱させてしまう。ハードウェアなら変なつなぎ方をしてしまいシステムエラーを起こしかねない。そう、ハードウェアならね

FM音源ソフトウェアはどうか

しかし、ソフトウェアならそのような制限は実質存在しない。ではソフトウェア音源はハードウェアのくびきを完全に脱したのか。残念ながらこれは反語である。

YAMAHAはMONTAGE及びMODXシリーズでFM音源を搭載しているが、これは今まで通りのアルゴリズム形式である。これはYAMAHAの歴史があるので致し方なかろう。

マトリックス(フリーアルゴリズム)形式は諸刃の剣だ

FM8やCytrus、OPSIXのフリーアルゴリズムモードなど、多くのFM音源で使われているのがマトリックス形式だ。EMSのVCS3のごとく、オペレータの組み合わせを表にまとめて、それぞれのオペレータの変調量を指定していく。一見すると直感的だ。6オペレータ用意されているので、DXのアルゴリズムを余すところなく再現できる。

しかし、自由度の高さは諸刃の剣になる。複雑な変調のせいでノイズしか鳴らないときもよくある。そしてつなげるのは簡単だが、つながりを理解するのはひと手間かかる。リファクタリングするとつながりが分からなくなることもあるだろう。

筆者はこれらの前例よりもFM合成(音源とはここで呼ばない)の本質をとらえたシステムを考案できる。これは大言壮語ではない。ある括りを外すことによって、FM音源のポテンシャルを真に発揮しつつ、かつてないほどのユーザビリティを獲得できるのだ。と最大限に煽ってこの記事を終える。次回も乞うご期待!

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