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「ザ・ファー・イースト」を読む その1-2

鐘楼 (しょうろう)

 ファーイーストの 1870年7月16日 第1巻4号 「鐘楼」 記事全体を訳しました。 


 日本は昔から鐘が有名で、その多くはとても大きく、アンベール氏*1によると、京都の「33,333の寺*2」の鐘は、ヨーロッパで最大の鐘を日陰に隠す程の大きさで、世界最大の鐘だとのことです。この鐘はクラプロート氏*3が「高さ5m25cm、重さは909トン)*4でモスクワの大鐘のおよそ5倍の重さ」と記した鐘と同じものだと思われます。

 鐘は寺院に設置され時を告げるために使用されています。通常、写真のような鐘楼に吊るされていて、鐘突き棒で音を出します。鐘楼はとても立派ですが大きな寺院のものでも全体的なデザインは同じです。

  横浜の南東の丘が外国人に宅地として売られる前は、丘の上から反対側のホモコ谷*5に続く魅力的な木陰の散歩道があり、その片側には農家が1、2軒建っていました。その反対側には成長した森の木から細い竹まで多くの種類の木が生い茂り、木の幹も葉も様々な形と色合ういで目を楽しませてくれました。この場所の麓には道から少し離れて小川が流れていて、その両岸には様々な種類のシダが茂っています。しかし、不思議なことに、この道をよく通る住民の半分は丘の斜面に沿った小道から伸びる高くて広い石段の上に大きな寺院と僧房があることに気づいていませんでした。

 しかし、今その美しさはすっかり失われてしまいました。小道は拡張され、小川は汚れた溝となり、道の両側には質素な日本家屋が建てられてしまいました。美しかった小道は今や泥道となり、射撃場への近道として作られた道路の両脇に広がる汚い村によって醜悪なものになっています。丘の上の寺院の敷地は外国人が絶えず押し寄せているため、すでに荒らされています。ブラフ・パブリック公園(山手公園)とその境界に隣接している寺院敷地の木々の管理を公園委員会の手に委ねる取り決めがなされています。外国人住宅や公園に四方が囲まれているにもかかわらず、寺の存在を知っている外国人は限られていて、たくさんの木々で視界から隠され、その全ての寺の建物はどこからも見えません。 

 鐘楼はその寺院の施設です。昼夜12回、この寺の存在を知らない多くの人々にも時を告げるその梵鐘の音色の豊かで深みと丸みのある音に多くの人が感銘を受けてきたのに違いがありません。この鐘とその茅葺き屋根の鐘楼の写真を撮る目的で私たちがこの寺院を訪れたとき、私たちの耳に楽器の騒がしい音が聞こえてきました。寺院に近づくと、寺の建物の中でたくさんの日本人の若者が笛やラッパでイギリスの曲や招集ラッパなどの様々な練習しているのが見えました。(次の記事「薩摩バンド」に続く)


*1 アンベール氏とは「幕末日本絵図(Le Japon illustre 1870年刊行)」の著者「アンベール・エルエ(Humbert Aime 1819-1910) 」のことと思われます。
*2 「33,333の寺」は京都、三十三間堂(千体千手観音立像)のこと、梵鐘は「方広寺(ほうこうじ)」の鐘。方広寺の境内に三十三間堂はありました。
*3 クラプロート氏とは東洋学者の「ユリウス・ハインリヒ・クラプロート(Julius Heinrich Klaproth 1783-1835)」のことと思われます。
*4 高さ17フィート2.5インチ(5m24cm61mm)、重さは200万6千ポンド(909.9トン)とありますが、「909トン」は何かの間違いと思われます。方広寺の鐘は高さ4.12 m、重量82.7 t です。
 *5 ホモコ谷(Homoko valley) の場所は特定できません。
*6 アンドリュー・スタインメッツ(Andrew Steinmetz 1816-1877)


 クラプロート氏が「重さは909トン」と記したのは「Klaproth, Ann. Des Emp. Du Jap.; Asiatic Journal, Sep. 1831; Hildreth, Japan, &c. 」と思われますが見つけることができていません。Andrew Steinmetz *6著の「Japan and Her Peaple, 第1巻116ページ 」(別サイト)に「大仏殿の前にある別の建物には、世界で知られている最大の鐘があります。高さは17フィート2.5インチで、重さは170万ポンドあります。その重量はモスクワの大きな鐘の5倍、ウエストミンスターの大鐘の56倍の大きさです。」とありファーイーストの記述と重さに違いがあります。


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「ザ・ファー・イースト」を読む その1
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「ザ・ファー・イースト」を読む その6
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                       writer Hiraide Hisashi

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