NHKラジオ放送での楽器名称
日本放送協会*1は、西洋音楽で使われる言葉の日本語訳と呼称についてまとめた冊子*2を1929年(昭和4)に出版配布しました。その中で吹奏楽に使用する楽器名も定めNHKの放送で用いることとしました。その9年後の1938年(昭13)には大日本音楽協会*3が編纂した「標準洋楽語彙*4」を共益商社書店*5から発行しラジオ放送での音楽用語の統一を図りました。
楽器名称の変化
1938年(昭13)出版の「標準洋楽語彙」で楽器名のいくつかが変更されました。中でも、その変更の理由は定かではありませんが「Double bass 、Contre-Basse、Kontrabass、Contrabasso」を「ダブルベース」から「コントラバス」に、「Euphonium、Euphonion、Baryton」を「ユーフォニウム」から「バリトン」に、変更したのが大きな点です。
1)「キ」が「ク」
「サクソフォーン」に変更されました。これは英語読み由来と思わます。ちなみに現在最も使用頻度が高いと思われるのは開発者アドルフ・サックスに由来する「サックス」なのかと思います。
2)「ベース」が「バス」
現在最も使用頻度が高いと思われる「バスクラリネット」に変更されました。これは米英語読み由来と思わます。
3)「ダブルベース」が「コントラバス」
「コントラバス」「ダブルベース」「ウッドベース」「弦バス」「ベース」など、現在も多様な名称で呼ばれている楽器です。「ダブルベース」は英語読み、「コントラバス」はドイツ語読み由来と思われます。
4)「ユーフォニウム」が「バリトン」
ドイツ由来での呼称の可能性が高いように思われますが、その変更理由は不明です。編集に関わった方々に尋ねてみたいのですが、今となっては出来ない相談です。
楽器の追加
いくつかの楽器が増やされました。木管楽器3種(コールアングレ、コントラファゴット、アルトクラリネット)、金管楽器がビューグル(フリューゲルホルン)、テナー(テナーホーン、アルトホーン)、バス、スーザフォーンの4種、打楽器がカスタネット、ハープ、支那太鼓(しな だいこ : 響き線のない中型ドラム)、 銅鑼(どおら : ドラ)*6の4種です。
*1 当時はラジオ放送のみで、テレビ放送の開始は1953年(昭和28)です。
*2 この冊子(東京中央放送局格定西洋音楽語彙)では、NHK放送に出てくる西洋音楽用語を統一するための訳語・呼称などが示されました。西洋音楽語彙(ごい)とは、西洋音楽で用いられる言葉のことです。
*3 大日本音楽協会は音楽・舞踊の振興を図る職域を越えた横断的組織として1936年(昭和11)に設立されました。1940年(昭和15)には大日本作曲家協会、日本演奏家連盟と共に解散し翌年、社団法人日本音楽文化協会として一元化されました。
*4 社団法人日本放送協会採定標準洋楽語彙 著者は大日本音楽協会楽語統一調査事業委員会
*5 共益商社書店は、共益商社(明治時代に創業)の音楽関連商品取り扱い部署で、現在のヤマハ銀座店の場所(京橋区竹川町14番地)で書籍(数学・唱歌等)の発行や楽器の販売などを行なっていました。1910年(明治43)には日本楽器(ヤマハ)が経営参加しています。
*6 「銅」の音読みは「ドウ」、訓読みは「あかがね」で、銅を「ド」と読ませるのは特殊な例です。文字ナビによると「ドウ・トウ・ズ・あかがね」の読みがあるとのことです。
writer Hiraide Hisashi