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SATSUMA’S BAND 薩摩藩軍楽伝習生

 神奈川県横浜市中区妙香寺台8番地の妙香寺(みょうこうじ)*1は、「君が代」発祥の地および日本吹奏楽発祥の地としても知られる日蓮宗の寺院です。
1869年(明治2年)薩摩藩の30人余りの藩士*2は、10月頃から妙香寺でイギリス陸軍第十連隊第一大隊軍楽隊長のジョン・ウィリアム・フェントン*3から洋楽指導を受けました。
 当初はイギリスに発注した楽器が届いていませんでしたので、調練と信号喇叭の訓練、そして五線譜の読譜訓練と日本製の笛・太鼓・喇叭を使った訓練が実施されました。1870年(明治3)6月にロンドンから楽器*4が届き訓練は、9月初旬*5まで続きました。


日本の吹奏楽は薩摩バンドから

「19世紀の日本における外来音楽の受容」(塚原康子 1990)を読む

 国立国会図書館デジタルライブラリーで読むことができる現東京芸術大学音楽学部学理科教授の塚原康子氏の博士論文には、薩摩藩軍楽伝習隊の吹奏楽伝習の開始についての記述があります。
・陸海軍の軍楽隊は薩摩藩軍楽伝習隊を母体に編成された。
・伝習隊は薩摩藩の事業であり文書史料はほぼなく、その知られている事実は大正から昭和初期になされた当時の関係者からの聞き書きに基づく記録である。
・「海軍軍楽隊沿革史(昭和12)」「中村祐庸遺録」「国歌君ケ代の由来(小山作之助 昭和16)」「音楽五十年史(堀内敬三 昭和17)」に記された記録が広く知られている。
・その記録は各人の記憶の食い違いから細部には異同がある。

塚原康子氏の「海軍軍楽隊沿革史」と「音楽五十年史」を抄録

 薩摩藩軍楽伝習生三十余名は、明治2年10月頃から横浜妙光寺にて「イギリス歩兵隊第十連隊第一大隊付軍楽長・フェントン(John William Fenton)」について伝習開始した。楽器不着のため調練と信号喇叭の訓練、つづいて五線譜の読譜訓練と様式を真似て作られた日本製の笛・太鼓・喇叭を使い伝習開始。明治3年6月にロンドンから楽器が到着しそれを使った伝習が開始され、8月12日には横浜の公園で初演奏が行われた。9月7日には西謙三の指揮で君が代(フェントン作曲)を演奏した。その直後には伝習が終了し、伝習生は鹿児島に帰藩した。伝習期間は約三ヶ月に満たず伝習曲は「君が代」「英国行進曲譜」「徐行進譜」等4,5曲であった。なお、翌明治4年4月には再び上京した。

塚原康子氏の「海軍軍楽隊沿革資料」(明治20) 他の史料による検討 を抄録

フェントンから伝習を受けた人員は三十二名と明記
・《英国女王ヲ祝スルノ曲》《早行進ノ譜》《遅行進ノ譜》および国歌《君ケ代》の4曲が伝習曲
・西洋楽器での《君ケ代》初演奏の期日が明治3年4月17日とあるがその日程ではロンドンからの楽器が不着であることから9月7日との記録違いか
・最初の伝習生が別の32人に伝習したとの記述があるが、軍楽伝習隊の帰藩時期についての明確な資料がなく、その実際は薩摩でのことか横浜等でのことか時期も含め不詳である。
・塚原康子氏は、最初の上京は明治2年9月、明治3年9月に薩摩帰藩、明治4年四4月に再度上京、明治4年9月に旧鹿児島藩軍楽伝習生11名と鼓笛隊経験者29名が上京と推察している。

塚原康子氏の資料編4-2「中村祐庸遺録」

「中村祐庸遺録」に記された薩摩藩伝修生氏名とその担当楽器

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脚注

*1日本吹奏楽発祥の地、君が代発祥の地の碑があります
*2薩摩藩士の鼓笛隊経験者が中心だったと言われます
*3ジョン・ウィリアム・フェントン(John William Fenton、1831-1890)
*4フェントンにより薩摩バンドのために軍楽隊で使われる全種類の最高品質の楽器がロンドンのディスティン社に注文されていました
*51870年10月2日(明治3年9月8日)越中島えっちゅうじま操練場そうれんじょうでの天覧練兵での演奏


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                      writer Hiraide Hisashi

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