![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/25752123/rectangle_large_type_2_8353744b3ac7574c72196fcd126e7426.jpeg?width=1200)
2020年のGWがようやく終わったという話
それは146回目の勝利だった。
思えば、彼とはすでに300回近く出会っている。
こちらが近づけば逃げだし、倒してもなびかない。
どれだけの時を、彼のために費やしただろうか。
ついには、私の中の【仲間】という概念自体が揺らいできた。
これだけの時間を共にすごしているいま、すでに私と彼は仲間と言えるのではないか。
目に見える仲間ではないが、常に心は彼と共にあると言えるのではないか。
しかし、それが都合の良い言い訳であることもわかっていた。私にとっては、彼を文字通り仲間にすることが、ある種のイニシエーションなのだ。
大学生時代に途中で諦めた陸上競技。リーマンショックをへて辞めた投資銀行での仕事。仲直りせぬままに物別れとなったかつての友人。御礼の気持ちを伝えないまま他界された恩師。
これまで中途半端に終わらせてきたことが脳裏をよぎる。
私は彼を仲間にすることで、ドラゴンクエストというRPG的な価値観を自分のものにすることができるのだ。そしてそれは、自分自身の壁を乗り越えることにほかならない。
されども、彼は一向にこちらを見ない。
倒した数が100を超えた時、私はいっときスマホを置いた。
これは資格の話なのではないか。
私は彼を仲間にする資格を持たないのではないか。
そうして、1週間が過ぎた。
鹿児島県の緊急事態宣言が解除された。ゴールデンウィークもとうに終わった。
私は、この連休中に何かを為しただろうか。
否。
ひたすらに仕事をし、食事をとり、彼を仲間にせぬままにドラクエを放棄しただけではなかったか。
これからの未来、この国難と、その最中での連休の話をするたびに、私の中には耐えがたい敗北感が残る。
それでよいのか、ながやんよ。
私はあらためてスマホを握り直した。
敵は、彼ではない。
敵は、自分自身だ。
そして仕事を終えた27時からの旅が再開された。
朦朧とする意識。
震える指先。
意識と無意識の間で揺らぐなか、ついに、そのときがきた。
何故だか、涙がとまらなかった。
いま、私は、2020のゴールデンウィークを終えることができる。
ゴールデンならぬシルバーのメタリックボディを携えた彼と共に。
ありがとう、はぐれメタル。
そして、よろしくな、はぐりん。