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【短編小説】三度目の正直(#青ブラ文学部)

《約1900文字 / 目安5分》


 平日の昼から僕は街を歩いていた。何も言わずに学校をサボった。こういうことをするのは高校生ってイメージだけど、小学生でも意外にできるもんだ。すごく簡単にね。

 いつもの街なのに、平日の昼ってだけで特別に見える。心が踊って、足が勝手にタップダンスを始めて、無意識にゲーセンへ向かっていた。


 ゲーセンの入口の前に立つと、妙に緊張した。もしかしたら、やってはいけないことをやってしまったのか。冷や汗が止まらなかった。

「何してんの? 小学生?」

 僕の心臓は大ジャンプした。きっと口から少しはみ出していただろう。

 逃げるか、逃げるのか……考えている間もなく、声の聞こえるほうから肩を掴まれた。

「もしかして、サボりでしょ」

 恐る恐る僕は、声の主のほうへ振り返った。

 そこには制服を着た、高校生の女の人が立っていた。おっぱいがでかい、とにかくおっぱいがでかい。第一印象はそれだった。

「ちょっとクソガキ。何見てんの」

 なぜバレたんだ。超能力かと一瞬疑った。


 僕と女はなぜか一緒にゲームをすることになった。

 黙りこむ僕を女は引っ張っていってくれたのだ。そしてクレーンゲーム、レースゲーム、バッティング、と2人で遊んだ。と言ってもほとんど女がやるのを僕はただ見ているだけだったが。それでも大きいおっぱいを眺められるので、幾分か許せた。と言うより、ぶっちゃけ楽しかった。

 でも何かが足りない、そう思っていたときに女は「メダルゲームやろうや」と言った。ドカドカと進んでいく女を前に、僕はトコトコついて行った。

 カップに注ぎ込まれる500円分のメダルを眺めて、僕はいま何が足りないんだろうと思った。

 ゲームをやらせてほしい。いや、違うだろう。女がプレイしているのを隣りで眺めるだけで楽しい。ただ1つ刺激が足りない。

 プッシャーゲームのイスに2人で座った。みんなが言うところのメダル落としだ。女は少しだけ僕にメダルを分けて、手伝わそうとした。仕方なく受け取り、押し板が丁度手前に来たときを見計らってメダルを送った。

「上手いじゃん」と女に褒められた。

 けれど僕の心は満たされなかった。ふと女のおっぱいを見た。これだ、と思った。


 学校を勝手にサボったことの罪悪感、それが僕を邪魔しているのではないか、と思っていた。けれどそれは違った。

 おっぱいだ。僕はただ、おっぱいを触りたいんだ。

 仕方ない、男子小学生なんだから。その一言で勇気が湧いた。

 簡単だ。ルーレットが回っていて女が集中しているときに、コソッと人差し指でおっぱいを突っつけばいいんだ。

 簡単さ。僕は人差し指を立てた。そしてルーレットが始まったとき、ゆっくりと女のおっぱいに目掛けて、指の先端を、おっぱいの先端に近づけた。

 あと数ミリ、そこで僕は一瞬迷った。

 なんでだろう。理性が働いたのか。おっぱいは尊いものだと間際で気づいたのか。

 その迷いがアダとなった。すかさず女は、僕の手を振り払った。

「このエロガキ。次やったらコロス」


 女がメダルを入れて一喜一憂している間、僕は考えた。なぜおっぱいを触れなかったか。

 そもそもおっぱいというのは尊いものだ。簡単に触ってはいけない。崇められるべき存在。おっぱいがあれば世界平和だ。原点にして頂点。おっぱいで僕たちは育ち、おっぱいを吸いながら衰えていく。

 つまり、初対面の人のおっぱいを勝手に触ってはいけないのだ。これを小学五年生で気づいた僕に拍手を送りたい。


 僕たちはゲーセンを出た。この日、僕は大きな成長をしたのだ。かけがえのない日となった。

 おっぱいを触ってはいけない。

 おっぱいを触ってはいけない。

 本当に、おっぱいを触ってはいけない?

 おっぱいは原点にして頂点。つまり神のようなものだ。神に触れることなんて許されない。でもどうだろう。身を清め、忠誠を誓い、徳を積めば、神に触れることを許されるかもしれない。

「今日は楽しかったな」と女は言った。

「あのさ。おっぱい触らせてよ」

「うーん。一言目がそれ? バカかエロガキ」と女は言って、自転車で颯爽と帰っていった。

 だめだ。今は無理だ。明日から学校をがんばろう。



 これが僕の、憧れのお姉さんとの出会いだ。

 高校生となった今、別にそこまで大したものではなかったと気づいた。もうほとんど思い出すことはない。小学生から見た高校生は大きい存在だ。そのせいでおっぱいも大きく見えただけ。

 相変わらず僕は、平日の昼から街を歩いていた。あの頃の思い出のせいで、サボり癖が染み付いた。巨乳に目をやりながら街を歩く。ただ今まで感動するほどの巨乳を見たことはない。

 けれど今日は違った。すれ違った人のおっぱいは異次元だった。

 三度目の正直だ。憧れのお姉さん。




全然800字に収まらなかった……筆が乗ってしまい……許して><


◆長月龍誠の短編小説

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