見出し画像

報道カメラマンは血だるまになり連れて行かれた

私の術後2日目に大部屋に入ってきたのが
「ボヤキ左翼」改め「報道カメラマン」です。
なぜそのようなあだ名を付けたのか気になる方は、
「病院の大部屋」をご覧ください。

彼は入院時から大騒ぎでした。
彼を取り巻く者たちの様子も少し大袈裟です。
男性の医者か看護師、声が若かったので多分医者では無いと思うその男性は、最初付き添いの身内か何かかと勘違いするほど彼の言いなりに様々な要求に答えていました。
足りない物を買い物に行かせたりしています。
彼の声はバリトンの堂々とした低音です。
威厳のあるいい声で様々な事を発信します。
まず自分がいかに危険な存在かをアピールしています。
血液サラサラの薬のおかげで、わずかな出血でも命取りなのだ。
その男性看護師が同意します。(医者ではないと感じます)
はい、もし転倒して頭を打ち、出血が骨の中ですと命取りです。
「そうだ、一発でお陀仏だ」
「私たちはその様な事がおきないように全力で〇〇さんをサポートさせていただきます」
そう宣言しました。
私はそんな風に言われませんでした。
彼は何者なのだ、大物か?
彼の事情がだんだんわかります。
一人暮らしである事。
何処かに強い痛みがあり、その痛みをとる注射がある事。
その注射はとても高い注射であるらしい事。
役所が、そんな高い注射を打つなと言っている事。
別の病院から転院してきた事。
本当の入院日より何日か早く入院を急かされてタクシーで飛んできた事。
その為に十分な入院準備ができなかった事。
それらの事を
「これはえらい事になった」
「いよいよえらい事になってしまった」
と言う口癖と舌打ちをしながらよく通るバリトンのいい声で話します。
彼の最初の悩みは、携帯の充電器がない事です。
docomoの携帯で、C端子だそうです。
最初からそれを訴えて、手先の様な男性にどうにかしてほしいと言いました。
家族に持って来てもらえないかと尋ねますが、一人暮らしで誰もいない。
院内のコンビニに売ってないか調べに行くもない事がわかります。
来るたび来るたび充電器が無い不便を訴えて、やがて、急がされて入院が早まった事が原因なのだと言います。
コンビニで携帯は有償で充電できる事が判明します。
「200円か随分高いな」
いい声で文句を言います。
テレビが見たいと言い、テレビカードを買いに行かせます。
テレビカードは、面会室の販売機で売っている様です。
その自販機は100円玉しか受付ません。
なぜ50円が使えないのだ。
「面倒臭いな」
小銭を渡して買いに行かせます。
テレビを見出すと静かになるのですが、点滴が邪魔だと言い、トイレにも行けないではないか。
どうやって外すのだ。
と尋ねています。
外してはいけません。
トイレには付添いますので行きたい時に呼んでください。
看護師が何人かかかって彼を車椅子に乗せてトイレに行きます。
「点滴を外していくのかと思っていたよ」
トイレから帰り血圧を測りながらその様に言いました。
血圧が130以下がいいなんて出鱈目だ。
50過ぎたら140以上は必要だ。
テレビは出鱈目ばかり言っている。
「そうは思わないか」
と女性の看護師に迫ります。
彼女は、人それぞれですからね、と軽くいなしていました。
女性の方があしらうのが上手です。
男性は真面目に受け答えしてしまい、おかしな方向にコントロールされてしまいます。
年齢は、50代の様ですが私より老けて見えます。
チラリと似た感じ、大学教授か左翼活動家か新聞記者かベストを着ればカメラマンに見えました。
彼は、なぜ点滴が必要なのか、邪魔なのだ、外して欲しいとずーとお願いしています。
あの注射でいいんだ。
あの高い注射が一番効くんだ。
痛みをとるにはあれが良い。
と言います。
私も痛みをとる為に要求する気持ちはよくわかります。
「まあ、今は全く痛く無いんだけどね」
と言いました。
なんやねん。
痛く無いんかいな。
そしてイビキをかいて寝てしまいます。
点滴が邪魔で一睡もできない。
外して欲しい。
点滴以外にも何か装置に繋がっている様です。
これも邪魔なのだ。
眠れない。
一度帰って寝たいのだが。
とステキな低音で来るたび来るたび訴えます。
月曜日の検査までこの器具は外せません。
検査に必要なんです。
そうして慰めながらも賑やかにしています。
彼の声がステキすぎて全く嫌な感じはしないのです。
演説をすれば皆を魅了するでしょう。
そんなボヤキの彼が、4日の深夜、5日の早朝でしょうか、点滴を引き抜いて大騒ぎを起こしていましました。
繋がっていた機器も引き剥がしたのでしょうか、ピーピ警報が鳴り看護師が駆けつけました。
見てはいませんが血だるまの様です。
部屋の電気が点けられて大騒ぎが起きたのです。
本当に「えらい事になってしまった」のです。
なんだかよく分からなかった。
夢を見ていた。
夢では家で寝ていた。
このベットを持って帰って家で寝ている夢を見ていたのだ。
私は、昔自転車に乗った爺さんが、矍鑠と自転車を漕いで止まっている自分の車の左横を強引に抜けようとした際自転車で車の脇腹を擦った時の事を思い出しました。
通行の少ない道で、車の右手をいけば良いのに、なぜ狭い左側に入り込むのだ。
そう思いました。
私はバックミラーで近づく彼と、左を行こうとしている事に、これは擦るなと感じて最初からずっと見ていました。
彼は強情な表情で自転車を怒り肩で漕ぎ、邪魔なんだよと言いながら狭い左側を抜けようとした際バランスを崩して私の車を擦りました。
案の定です。
車から降りて、何すんねんと言うや否や彼は先ほどの強情な表情が一変して身体も縮んだ様にヨボヨボのボケ老人を演じました。
アウアウアウと言いボケたふりをしています。
さっきまでしっかりしていたのに、耳も聞こえない何も分からない、そんなふりをして逃げてしまいました。
「ボヤキ左翼」改め「ボヤキ報道カメラマン」もその時のお爺さんの様に、夢なんだ、何もわからないと弱々しく言っています。
看護師さんは、良くある事ですよ大丈夫。
決して責めることなく、怪我をした子供をあやす様に慰めます。
〇〇さんの事が心配だから、もっと近くて見える病室に変更しますね。
ベットごと移動しますので、そのままでいいですよ。
動かないで。
騒がしさは20分ほど続いて彼は別の部屋に連れていかれました。
看護師さんが、私たち全てのカーテンを少し開けて、「騒がしくして申し訳ありません」
と謝ってまわっていました。
この「ボヤキ左翼」改め「ボヤキ報道カメラマン」の騒動のおかげで、私のイビキ問題は、それほど大きく取り上げられませんでした。

なぜこのような事が生じたのか経緯をお知りになりたい方は、「入院手続きとPCR検査」からご覧いただくとわかると思います。
ご興味のある方はご覧ください。

全容が知りたい場合は、「痔になったのか」から始まる長いお話をご覧ください。

いいなと思ったら応援しよう!

nagato
励みになります。