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月光ジャズ Moon Light Jazz
「たこ焼き買ってきたよー。ほらほら慌てない慌てない。」
「ヴィトンの自転車ね、だって!」
「そりゃ目立つよ、あれ。」
「あはは。あいてて、笑うと腰が。」
「大丈夫?診て貰ったら?」
「ただの腰痛よお、歳よ歳、あはは。」
お袋が喜んでる。
ママチャリの前カゴに入れてたヴィトンの紙袋。
良く見ると【ニトン】と書いてあるヤツ。
お袋って平和だよなあ。
なんで?と本人に聞いたら、考えるのを止めたからって。
これ、悟りの核心を突いてない?。
俺がまだ赤ん坊の時に親父が死んじゃて、俺と姉ちゃんをひとりで育てて来たんだもんな。
あれこれ考えてたら身が持たんってやつかもね。
よくひっぱたかれたなあ。
昔のお袋は怖かったんだから。
姉ちゃんが子供達に優しいのはこの反動だよ多分。ははは。
「なあ親父、お袋こっち来るのいつごろかな。」「夏が終わる頃だね。」
「苦労の連続だったなんてボヤいて泣くのかな?」
「そんな気持ちにさせない為にこうやって二人で顔つき会わせてるんだろう?」
「だよね。」
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