長靴の下の空
「雨やんじゃったね。」
「そうだね。お家帰ろうか、お母さん心配するし。」
「うん。」
雨が降ると父はよく散歩に連れ出してくれた。
カッパのフードを被って雨の中を歩くのが大好きだった。
水溜まりを歩くの、楽しかったな。
「空が踏めるね、お父さん。」
「あはは、そうだね。空が踏めるね。」
もう水溜まりは無い。
水はバスタブの詮を抜いたような勢いで地上から消えた。
最初に池が消えて、海水面が下がり始め、そして雨が降らなくなった。
気温も下がり続けていて、空気はカラカラに凍り付いている。
何もかも冷たい砂になり初めている。
ああ、雨が恋しい。
ねえ、お父さん。
こんど雨が降ったら散歩に行こうよ。
黄色いカッパと青い長靴、探しとくから。
ねえ、お母さん。
ひとりは寂しいよ。