北欧3カ国で見えた未来 ~キャッシュレス、電子行政を中心に~
はじめに
ここのところマレーシア、インドネシアと東南アジアのことを書いてばかりいましたが、2018年8、9月に行った北欧3カ国での経験も、私の「多拠点居住」に関する考え方に大きく影響を与えていますので、そのエッセンスを記したいと思います。
2018年に行った北欧3カ国とは、スウェーデン、フィンランド、エストニア。
「エストニアって北欧なの?」と考える方も多いかと思いますが、確かにエストニアにはロシアから独立した「バルト3国の一つ」という印象が強く、北欧の一つとして数えるのに違和感を抱かれる人もいるかもしれません。
ですが、行くと分かるのですが、フィンランドと言葉が似ていて(フィンランドの言葉は、スウェーデン、ノルウェーとは語族が違い、エストニアの言葉もラトビア、リトアニアと語族が違います)、フィンランドの首都ヘルシンキとエストニアの首都タリンはフェリーで2時間程度で、日帰り旅行も可能、という感じで、とても近しい関係にあるんです。
この3カ国とも、キャッシュレスが進み(進み度合いで言うと、スウェーデン>フィンランド>エストニア)、効率性を重視している点で共通点があるように感じました。
これらの国は、スウェーデン1100万人、フィンランド560万人、エストニア130万人、と人口が少ないがために効率性を重視する気風ができた、というところがあり、人口1億2000万人の日本で同じことができるか、というと難しいところがあるのですが、この、「(人が足りないことを前提としての)大人の知恵としての効率性」というものの考え方が、私にとってとても印象深かったポイントでした。
1.きっかけはe-Residency
上記の時期に北欧3カ国を訪れたきっかけは、その年の5月にエストニアのe-Residencyを取得したことでした(詳細は、下の投稿で)。
「電子住民」とか「電子国民」とか言われるe-Residencyの制度。せっかく「第2の祖国」ができたのであれば、一度は行かないといけないだろう、とその年の夏休みで行く計画を立てたのでした。
前後してある友人から「スウェーデンはものすごくキャッシュレスが進んでいて、勉強になった」という話を聞いたため、「じゃあ、せっかく行くならば、スウェーデンも一緒に回らないと、だな」と考え、飛行機を考えると、フィンエアーでフィンランドに入り、そのままスウェーデンに飛んで滞在した後、フィンランドに戻り、エストニアにはフェリーで行く、という旅程が一番良いかと感じたので、フィンランドも滞在地に選んだ次第でした。
そうそう、この旅関連で初めて使い、その便利さでその後も海外旅行時には毎回使っている「トラベロコ」というサービスのおかげで、とても学びが大きかったことについて触れておきます。
海外在住日本人の方に、現地でガイドしてもらったりするスキルシェアサービスの一つで、ガイドしてもらいながら、疑問に思ったことをその都度質問することで、その国の特徴を深く学ぶことができました(スウェーデンのことを教えてくれた友人もこのサービスを利用していて、その際にお世話になったトラベロコさんを紹介してもらいました)。
もし、これらの国々に行かれる方がいらっしゃれば(これらの国々以外に行かれる方でも)、オススメです。
ただ、どのトラベロコさんを選ぶかは、自分なりの自己責任で。正式に依頼するまでに何度かやりとりして、自分に合う方か見極めることが大事だと思います。
2.北欧のキャッシュレスはクレカ利用
中国を皮切りに、日本や東南アジアでもじわじわと広まっているキャッシュレス決済の手法としてQRコードがありますが、北欧で見ることはあまりなく、北欧での主流はクレジットカード決済です。
何か買い物なりをすると、下の写真のような機器がポンと置かれて、セルフサービスでクレカを差し込んで金額を打ち込むことになります。画面表示は何カ国語もありますが、英語表記も選べるので、だいたいはそれで十分だと思います。
スウェーデンでは、トイレのチップもクレカ決済でした。
スウェーデンでは基本、現金を使わずに過ごせたほどですが、ものは試し、ということで一度だけ、両替をしてみました。
ストックホルムにできたばかりのユニクロには、レジに現金専用のレーンができていて、そこでの買い物であえて使ったくらいでした。
エストニアでも、道端のジューサーでクレカ決済ができました。
ただ、観光施設で現金払いのみだったり、商業施設のトイレのチップはクレカを受け入れていなかったり、という感じで、「エストニアは意外と現金を使うんだ」という印象を抱きました。フィンランドは両国の中間、という印象でしたね。
ただ、エストニアでも一つ、当時すごく感銘を受けたキャッシュレス決済の仕組みがあって、この下の写真の右側に写っているmTaskuというもの。今や日本ではメルペイで同じようなことができますが、QRコードでもタッチでも決済できる仕組みがあるんだ、と驚いたものでした。
なお、クレカはクレカでも欧州では、日本でも最近じわじわと使えるようになってきたタッチ式クレカが幅を利かせつつあるようです。
あと、スウェーデンでは、国内の銀行11行が連携して使っているSwishというアプリがあり、私が今回依頼したトラベロコさんも娘さんとの個人間送金で使う様子を見せてくれました(決済でも使えるそうです)。
現地の銀行口座とひもづけされていないと使えないため、旅行者である私は登録できませんでしたが、日本ではパイの奪い合いで様々な決済サービスが乱立する中、どうして11もの銀行の連携が成立したのだろう、とトラベロコさんに尋ねると、「スウェーデンではパイが小さいから、奪い合うよりも協力し合って、違うところで勝負した方が良いんです」と教えてくれました。確かにそういう発想、大事ですよね。
3.エストニアの電子行政
「結婚と離婚と不動産取引以外は全部電子行政でできる」と言われるエストニア。そのアウトラインを学ぶには、e-Estonia Showroomという施設に行くのが良いと思います。予約制ですが、最近はなかなか予約が取れなくなっているそうなので、要注意。
エストニアのことは、前述の記事で触れているし、「ブロックチェーン、AIで先を行くエストニアで見つけたつまらなくない未来」という良著もあるので簡潔にするとして、ここで印象深かったのは、エストニアはこの電子行政システムをフィンランド、アゼルバイジャン、キルギスタン、ナミビア、フェロー諸島に輸出している、ということ。海外でのインフラ整備というと、道路とか橋とかをイメージしますが、こういう形でのインフラ整備もあるんだな、と感銘を受けました。
なお、エストニアにはスタートアップビザがあり、IT企業をどんどん増やしていきたい、という姿勢がうかがえます。LIFT99というスタートアップのためのコワーキング施設もあります。資源がなく、ITで生きていかないといけない国だから、というところもあると思いますが、今後の展開を注目していきたい国です。
4.フィンランドのWhim
最近、日本でもMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)についての話題が増えてきましたが、その草分け的な存在がフィンランドのWhim。私もヘルシンキで一度、使いました。
現在地からどこかに行きたいと思った際、Whimを開くとGoogleマップみたいな地図が出るわけですが、そことそこを結ぶためのタクシーを呼べたり、路面電車など公共交通機関を使う際にはそのままアプリ上でチケットを買えたり(路面電車に乗る際に、その画面を見せれば良い)、ととても便利です。
イギリスやアントワープでも使えるようですが、日本市場への参入の話もあり、今後がとても楽しみです。
あと、フィンランドで面白かったのは、こちらのOmenaホテル。ネットで予約してお金を払うと、現地では従業員と顔を合わせずにチェックイン、チェックアウトができます。北欧は物価が高いですが、こちらのホテルは程々の値段で泊まれます。効率性、ここに極まれり、という感じですが、日本のビジネスホテルよりは部屋は広いし、一度試されてみるのも良いかと思います。
なお、ヘルシンキを観光する際は、映画「かもめ食堂」のロケ地にできた「ラヴィントラかもめ」という食堂や、その隣の「アトリエかもめ」(現地の発音だとアトリア?)を初めに訪れると良いかもしれません。
ここで無料でもらえた「ヘルシンキマップ」がとても便利だったからです。
この投稿では「効率性」について色々と書いてきましたが、一方で北欧の人たちが持っている穏やかさ、ゆったりと心落ち着く様を感じられる、という意味でも、「ラヴィントラかもめ」「アトリエかもめ」はとても良い場所だと思います。
最後に蛇足ですが、ヘルシンキで見た看板。フィンランドでも、ドローンは市街地では飛ばせないようです(当たり前か)。
おわりに
私の「多拠点居住」は、日本とマレーシアのペナン島との2拠点を中心に考えていますが、日本は東京以外の地方部に拠点を持っても良いし(現に今、神奈川県三浦市でシェア別荘という取り組みもしています)、マレーシア以外にも海外拠点を持ってみたい気持ちがあります。
その点、8、9月の北欧3カ国は20℃くらいあって過ごしていて心地良かったですし、「暖かい時期は北欧。寒くなってきたらマレーシア」という暮らし方も魅力的だと思っています。e-Residencyを持っていると、最短18分でエストニアに会社を設立できる、と言われていますので、エストニアを拠点にEUを舞台に仕事をする、という選択肢も(まだまだ夢物語ですが)あるわけです。
もちろん、行ってみて、北欧よりも日本が便利だな、と感じたところもありますし、結局は、「どの国も、良いところも悪いところもある」ということなのだと思います。
それぞれの長所を組み合わせて、「いいとこどり」をすることが、この世知辛い世の中を生き抜く知恵なのではないか、と思うところがあります。東南アジアののんびりしたところも魅力だし、北欧の効率性も魅力だし、東京の情報の集まり度合いも魅力だし、日本の地方部の美味しい食べ物も魅力だし……。
こちらの投稿は無料公開していますが、「多拠点居住」をはじめ、各国の「良いところ悪いところ」に関する知見を共有することで、「この部分は取り入れてみよう」などと考えたりしながら、一人でも多くの人たちが生きやすくなる未来が来ると良いな、と考えています。