LIFULLのグローバル開発体制強化に向けた挑戦
近年、LIFULLではグローバル開発体制の強化に注力しています。2017年にはベトナム・ホーチミン・シティに最初の海外開発拠点構築。昨年にはマレーシア・クアラルンプールに新たな開発拠点を設立しました。本記事では、この取り組みの背景や意義、そして未来への展望についてご紹介します。
2つの海外開発拠点と設立背景
2つの海外開発拠点の設立背景
現在、LIFULLには以下の2つの海外開発拠点があります。
1. LIFULL Tech Vietnam:ベトナム・ホーチミンシティ(2017年設立)
2. LIFULL Tech Malaysia:マレーシア・クアラルンプール(2023年設立)
まずは、それぞれの拠点設立の経緯についてご紹介します。
最初の海外の開発拠点 - LIFULL Tech Vietnam(LFTV)
LIFULLは2017年、海外初の開発拠点としてLIFULL Tech Vietnam(以下LFTV)を設立しました。
ベトナムでの開発を考え始めた2014年頃、世の中では海外の開発会社にシステムを納品型で発注するという所謂「請負型開発」から、専属チームを契約して開発するという「ラボ型開発」への変化が始まっており、LIFULLでもベトナムでいくつかのラボ型開発によるオフショア開発を試していた時期でした。
同時期、LIFULLではオンプレミス環境からクラウドへの移行が進んでおり、その過程でハノイの会社にサイト構築(リニューアル)を依頼していました。この取り組みで一定の成果が確認できたため、本格的に拠点設立を進めることになりました。その後、いくつかの国や地域を比較した結果、総合的にベトナムに拠点を作ることが最適だという結論になりました。
「海外(特にアジア)での開発」と聞くと、まず「コスト抑制」をイメージされるかもしれませんが、LIFULLの海外開発拠点設立の主目的はそこではありません。(短期的なコストメリットはあったものの、長期的にはコストが上がるという認識を持っていました)最大の目的は、今後競争が激化する「エンジニア人材の確保」でした。
いろいろな縁が重なり、LFTVの元となる会社と出会い、M&Aという形でLIFULLグループに迎え入れることになりました。
早いもので設立から6年が経ち、今年で7年目に突入しました。2017年と比較すると、LFTVの所属エンジニア数は約2倍に増加し、品質も大きく向上しています。現在では、LIFULLグループの非常に大きな力となっています。
2拠点目で2カ国目 - LIFULL Tech Malaysia(LFTM)
LFTVがLIFULLグループ入りして3年ほどが経とうとしていた2019年頃、次の拠点設立を検討し始めました。
その3年間の間に、LFTVでは社長交代や組織変更、体制変更などがありましたが、日々改善を重ね、社員のモチベーションは高く、開発も安定して進んでいました。この状況を踏まえ、本社(以下HQ)のCTOとして私は次なる拠点設置の構想を描いていました。
私は 「日本で働いているから優秀なエンジニアである」「アメリカで働いているので優秀なエンジニアである」というものではないと考えており、「優秀な人材は世界各地に存在する」と考えています。LFTVとの関わりを通じてその確信を深めました。そのような中、2020年初頭にマレーシアを視察する機会を得ました。この時期はCovid-19が世界的に流行する直前でした。
私が考えている海外拠点を広げていく上での拠点を設けるエリアの条件は、
・日本と同期的な開発が行えるよう、極力時差が少ないこと(目安は±2時間前後)
・日本からのアクセスが良いこと(フライト6時間前後以内)
・ITのレベルが一定以上であり、IT人材が市場にいること
・日本語もしくは英語でコミュニケーションできる人材が確保できること
・政治的に安定していること
・地域の生活インフラが整備されていること
などです。
これらの条件を踏まえ、視察したマレーシアは急速に整備される交通・生活インフラと安定した環境が非常に魅力的でした。ここに拠点を構えるイメージを自然に持つことができたのです。
その後、2021年頃からマレーシアでのトライアル開発を開始し、2022年には現在のLFTM CEO 松尾のJOINが決まり、具体的な拠点構築の準備を始めました。そして2023年3月、正式にLIFULL Tech Malaysiaを設立しました。これが2つ目の海外拠点設立の背景です。
グローバル開発チームの理想形
2017年にLFTVがグループ入りしてからもずっと「必ずしも日本で働いているから優秀なエンジニアであるということはない。仮にHQがLFTVよりも優秀なエンジニアが多いのであれば、それはただ経験の違いであり、経験を詰めばどの国にいてもキャッチアップできるものである」と考えていました。
今この瞬間だけをスナップショット的に切り取ってしまうとエンジニアリング能力の違いはあるかもしれません。ただ、今後の成長も踏まえたポテンシャルは同様であると感じています。
この考えから、HQや海外拠点でチームを分けるのではなく、「同じチームとして」、まるで「たまたま今日はリモートワークしている仲間」のように連携できる仕組みを目指すようになりました。
たとえば、あるプロジェクトチームにエンジニアが5名いる場合、3人がHQ、2人がLFTV、1人がLFTMという構成で、全員が一丸となってプロダクト開発に取り組む――これが目指すチームの理想形です。
以下のようなイメージです。※もちろんPJによっては各拠点のみで行うパターンもあります
ポイントは、
・国をまたいで1つのチームとしている
・必ずしもHQにチームリーダーがいるとは限らない
・3拠点(現状)で構成されるチームもあれば、2拠点で構成するチームもあり、必ずしもHQが絡むものばかりではない
というところです。
この構成に近づくと、「プロダクト(or プロジェクト)チームとしてエンジニアを1名増員したい」という要望があったときの採用の自由度が増します。HQ、LFTV、LFTM 全拠点で同時に人員の募集をし、決まったところでプロジェクトを進めるということができるようになります。
現在、エンジニアを採用しようと思った時、ポジションによって採用の難易度はかなり変わるのですが、募集し始めてから内定承諾までの時間を3つの拠点で比較すると、LFTM(クアラルンプール),LFTV(ホーチミンシティ)の募集→内定承諾の期間は、HQ(東京)の半分以下の期間しかかからないのです。採用のポジションの人材を1日でも速く採用することは、事業を推進するうえで非常に重要となります。この構成にようにすべての拠点で採用ができるということは、人員の早期強化にも繋がると考えています。
この構想は前々から考えていたのですが、LIFULLがそれをやっていける自信が持てているわけではありませんでした。
しかしながら、クアラルンプールに2番目の拠点を作っていく過程で、LFTM CEOの松尾とディスカッションを重ねていくうちに「すぐにはできないかもしれないが、この構想を実現していくことできる」と強く信じることができました。
そうして、2023年の7月頃からHQでグローバル開発体制構築に関わっていくメンバーを増やし、「エンジニアグローバル開発戦略推進タスクフォース」を立ち上げました。
グローバル開発を促進する「グローバル開発戦略推進タスクフォース」
3つの壁を超えていく
GDS-TFを進める中で、LIFULLの目指すグローバル開発を進めていくうえでは3つの壁を超えていくことが重要であるという結論に至りました。
3つの壁とは以下のとおりです。
・「意識・理解」の壁
・「仕組み」の壁
・「言語」の壁
これらを解決するため、それぞれの課題に対するアプローチを具体化しました。
分解した内容の以下のとおりです。
タスクフォースにはCTOである私(長沢)の他、LIFULL HOME'Sのエンジニアチームの部長、LFTVのCEO、LFTMのCEO、企画チームのマネージャーでコアチームを構成しています。また、多くのメンバーも協力してくれています。
それぞれの壁を超えるための戦略に基づく施策をいくつか紹介していきます。
「意識・理解」の壁を超えるために
「オフショア」とは呼ばずに「開発拠点」と呼ぶことを徹底する
簡単なことですが、プロダクト開発の現場において、オフショア(※)という言葉には、発注元と発注先といった関係を想起させるニュアンスを持つことがあります。そのため、言葉の使い方から統一することにしました。
※本来、辞書的な意味の「オフショア」にはそういう意味はありません
拠点文化の共有と仲間意識の醸成
社内コミュニケーションツールで拠点の様子や各国の文化、イベント情報を発信することで、社員同士がバイネームで認識し合える関係を構築しています。
エンジニア総会での情報共有
4半期に一度実施しているエンジニア総会で、LFTV、LFTMの発表パートを設け、定期的に情報をインプットしています。これにより、全体の方向性や連携課題を共有し、理解を深めています。
「仕組み」の壁を超えるために
各国でエンジニアのテクニカルスキルを共通化
お互いに身につける能力の方向性が違ってはいけいないので、HQのものを参考にLFTV、LFTMでも同じ方向性で作成しています。
グローバルで統一した肩書を導入
一緒にプロジェクトを進めたりエンジニア同士で関わっているとお互いのレベル感がわかると嬉しいことが多いです。普段見えにくい海外拠点のメンバーと働くとそれがより顕著になります。それをグローバルで共通した肩書を2024年の5月から導入しました。
ドキュメントの多言語対応
プロダクト開発において必要なHQのドキュメントを翻訳してLFTV、LFTMに展開する取り組みを実施しています。各種仕様書はもちろん、エンジニア総会の資料やエンジニア像の説明など、ビジョンやカルチャーを表現するようなドキュメントも含めて翻訳、展開しています。
「言語」の壁を超えるために
英語を共通言語としたコミュニケーション
LFTMには日本語話者がCEOのみのため、基本的に英語でコミュニケーションを行っています。初期段階では齟齬を防ぐため、LFTMのCEOが各プロジェクトをサポートとして入り、円滑に回り始めるまで伴走するという取り組みを行っています。
翻訳ツールなどを探したり、トライアルしてツールの力もたくさん借りる
このあたりの取り組みは、LIFULLエンジニアブログにも詳しい記事 があるのでぜひご覧ください。
オンライン英会話の受講
2024年2月からは英語教育の一環として、海外開発拠点のエンジニアと多く関わる部門のエンジニアに、オンライン英会話を受講してもらう取り組みもトライアル実施中です。またLFTMでは今期から日本語に親近感を持ってもらおうと、外部講師による日本語講座なども開始しました。
LIFULLの「グローバル開発体制」さらなる飛躍のために
これまで述べてきたように、LIFULLでは目指すべき未来を明確に定め、エンジニアグローバル開発を進めています。取り組みを始めて1年ほどですが、この取り組みに興味を持ってくれたり、能動的に協力してくれるメンバーも非常に多く、その結果、連携部門やパターンが増え、目標に向けた確実な進展を感じています。
私はこの路線をしっかりと進めるとともに、CTOとしては更に先を考えていかなければいけないと思っています。
現在のLFTV、LFTMはともに「既存の開発力の総和を増やす」ための、ある意味、開発量の拡張戦略とも言えます。厳密には実態と違いますが、すごくわかり易い例を上げるとすると、Webサイト開発のサーバーサイドができるエンジニアが100人から200人になりました、といった形です。(人数はあくまでも例です)
今後は、新たなLIFULLの開発におけるケイパビリティ(※)を獲得するような展開についても考えていくことも並行してやっていかねばならないと考えています。(ここは、内部、外部、国内外問わずだと思っています)
※ こちらも、あくまでの例ですが、「24時間昼間の時間で運用できるようにする」や「VRができるチームを作る」などです
そのようなことも考えながらLIFULLのビジョン実現のためのプロダクト開発をエンジニアリングの観点からもリードし続けていきたいと思います。
LIFULLのグローバル開発体制に興味ある方は是非ご連絡ください。
それでは最後まで読んでいただいてありがとうございました。