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旅の話.17 カンガルー島④

アドミラルアーチ

突き出した岬の中腹が波に削られ穴が開き、アーチ状になったところに“ニュージーランド・ファー・シール”という、黒くて小さめのアシカが生息している。ツアーで来た時は、打ち付ける波の中でアシカ達は大騒ぎだったが、日も暮れた今は、陸地で静かに休んでいた。僕らも帰路につく時間だ。

スリルドライブ

帰りは僕の運転だ。半年ほど前にダーウィンで免許を取って以来、運転はしていない。でもまあ大丈夫だろうと気楽に考えていた。甘かった。
行きと比べて、帰りはやたら動物たちが道路に出て来ていた。日中もカンガルーやワラビーはしょっちゅう現れたが、近付く前に逃げてくれた。
しかし、夜は逆。向こうからこっちに寄って来るのだ。

突然ワラビーが飛び出して来て、咄嗟に避けたら、避けた先にもう一頭、別のワラビーがいた。ちょっと当たったような気がして、車を停めて確認すると大丈夫だった。こんなのは序の口だった。

ポッサムやハリモグラのグループを、右へ左へ避けたかと思うと、その先に
3頭のカンガルーがフォーメーションを組んで待ち構えていた。
「頼む動くな!」と祈りながら間を縫って、すり抜けて行った。

前方に現れてくれれば、なんとか避けられるが、怖いのは真横から突然飛び出してくるパターンだった。あたりは暗くなって、草も木も岩も、カンガルーやワラビーに見えた。

この後の予定が無ければ、ゆっくり走ればいいだけなんだけど、同行者2名が21時半からのペンギンツアーに申し込んでいると言うので、結構焦っていた。街灯などない、ヘッドライトの明かりだけが頼りの真暗な未舗装のダートを、90キロで飛ばした。

カンガルーバンパーと言うものが、オーストラリアにはある。動物を避けて事故を起こさない為、気の毒だが跳ね飛ばしてしまおうという発想から生まれた、頑丈なガードレールの様な物が、ボンネットの前に付く。でも、この車には付いていない。もしあっても、跳ねる覚悟ができたか自信はない。

そして最大のピンチが訪れた

大きなカンガルーが、左から飛び込んできた。咄嗟に右に避けた。避けた方にもう一回来た。それもギリギリ避けたところで後輪がすべった。咄嗟に逆ハン切ってアクセルを踏んだ。踏みすぎたのか、今度は逆に滑り出した。さらに逆ハン切って、体勢がもどったところでブレーキを踏んだ。停車した目の前は巨大な岩だった。危機一髪だった。

後ろに乗っていたしんさんは、はねたと思ったそうだ。
僕は、神がかり的なテクニックで避けたと確信していた。
ゆりさんも、「大丈夫、よけた」と言っていた。

その後、しばらくして舗装道路に入った。
まだドキドキしてるので、速度無制限だけど100~110キロで安全運転して、なんとかペネショーの街にたどり着いた。ペンギンツアーには15分遅刻してしまったが、無事帰って来れたよろこびを感じた。達成感と充実感と安心感を感じた。
カンガルー島に来てからずっと、夜は曇っていたので、晴れた夜空を見たのはこの時が初めてだった。すごい星空だった。天の川もはっきりと見えた。

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