芝生とボールとスパイクがあれば

記事の初公開日:2016年 01月 19日

「大丈夫、芝生とボールとスパイクがあれば。」
⚪︎横浜中村俊輔20年目始動 シーズン10点超えだ(日刊スポーツ2016/1/12)

新しいシーズンに向けて、劇的に環境が変わったチームの一つに横浜Fマリノスがある。
Jリーグチームとしては理想の環境とも言えたマリノスタウンが昨シーズンかぎりで使えなくなって、日産フィールド小机に拠点を移した。ここがどんな施設かよく知らないが、少なくともマリノスタウンのような充実した設備を持った施設ではないようだ。
マリノスサポさんの練習見学のtweetなどを見ていても、天然芝のグランドは1面とか、見学する所は傾斜のある土手で座る所がないとか、グランドは川(?)の状況によっては水没する恐れがあるとか、食堂はあるのか?、トレーニング室は?クールダウンやトレーニング用のプールは?とか、いろいろと心配になることが多いようだ。

水際に天然芝のグランド1面って、なんだかVファーレン長崎の練習場のような感じだ。
Vファーレンの練習場だって、海のすぐそば、波打ち際といってもいい。ちょっと嵐になればグランドは潮かぶりだ。それでもクラブは練習見学者用に3段のベンチ席を作ってくれた。この点はマリノスのサポさんよりVファサポは恵まれた環境にいる。
長崎のクラブ屋敷の中がどうなっているかは知らないが、2年前まではクラブハウスはおろか練習場もなくて、毎日あちこちのグランドを転々としていたジプシーみたいなチームだったから今はかなり充実って感じに思える。しかしもし日本最高の施設から長崎の施設に来たら不便でしようがないだろう。
今、マリノスの選手たちやサポはそんな思いでいるのかもしれない。
マリノスの施設のことが気になるのは、そこに日本の至宝とも言える選手たちがいるからだ。
中村俊輔と中澤佑二
ともに37歳の大ベテラン。
すでにこの年齢の選手たちは多くが引退したりカテゴリーを落としたチームでプレーしているが、彼らがこのチームでスタメンで戦っていられるのは、十分な身体ケアができたマリノスタウンという施設があったことも要因のひとつだろう。マリノスタウンを失ったことは選手にもサポにも大きな痛手だろうし、今後のことは不安もあるだろう。

チームの始動日にマスコミから向けられたそのような質問への中村俊輔の応答がこの文の最初の言葉だ。

「大丈夫、芝生とボールとスパイクがあれば。」

なんだろう、この一言ですごく安心して前向きの気持ちになってくる。
おそらくクラブに対してはいろいろな改良案を出しているだろうし、足りないところも諦めざるを得ないところもあるだろうが、現実を見据えたうえで、こう言い切る中村俊輔の覚悟はすがすがしい。

中澤佑二も選手の価値を守るためにクラブと最後の最後まで交渉を重ねての契約更新となったのだろう。

俊輔がマリノスというチームの伝統やプライドを守り、ボンバーがサッカー選手のプライドや価値を守る。彼らは表向きにはお互いそれぞれのようだが、視線の先にはいつも同じものがある。
「サッカーが好きだから」

俊輔サポ仲間から送ってもらった新春の「キックオフマリノス」の映像もよかった。
箱根温泉での座談会はいろんな示唆を含んでいた。
「マリノスは無冠ではいけない」という言葉も、2桁ゴールを決めるという俊輔の決意も心に響くものがあった。それにも増して心に響いたのは、マリノスを離れて長野パルセイロで戦うことになったマリノス生え抜きの選手天野貴史に向けた言葉だ。
在籍年数に比べて出場機会が少なかった実績を申し訳ないと思うあまのっちにたいして、
「それを後ろめたく思っているなら間違いだよ。出場機会がない間も折れることなく献身的にクラブとチームに尽くしてきたあまのっちはクラブの本物のレジェンドなんだから、どんなことがあっても将来必ず帰ってこなければいけないよ」と言う俊輔。
18年前、シドニー五輪最終予選勝利で思わずこみ上げた涙を「おじいちゃんが亡くなったから」と言い訳していたか細い選手が、これほど頼もしい選手になってきたことが感慨深い。

サッカーが大好きだからという1点だけで、逆境も中傷も乗り越えて、先輩や周りの手助けに感謝しているから今があるんだなあと。

「芝生とボールとスパイクがあれば大丈夫」日本のサッカーの原点になるような言葉だなあ

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