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救急初療コースT&A

【総合医育成プログラム研修記録】
医療現場ではさまざまな患者が訪れ、軽症から重症までさまざまです。一定の割合で緊急処置が必要な症例があり、適切に優先度を選別する(Triage)ことを念頭に置く必要があります。疾患によっては、緊急度や重症度が高いものがあり、初期診断から初期治療介入までを迅速に行動(Action)しなければ、生命に危険を及ぼしてしまいます。いち早く「これは、おかしいぞ!」と急いで行動する必要があると頭のスイッチを切り替える必要があります。若手医師だけでなくベテラン医師も、救急初療に携わっていなければそのスキルは衰えてしまうのは事実です。今回、救急初療コースを学ぶべく「救急初療コースT&A」に参加しました。


生命維持の基本を知る

生命は「意識ABC」のサイクルで維持されています。脳が正常に機能することで、呼吸と循環が正常に働きます。気道(Airway)が正常であれば、呼吸(Breathing)で酸素が取り込まれ、体中に酸素が循環(circulation)することになります。酸素が細胞に取り込まれることで、細胞は生きることができます。

このサイクルのいずれかに大きな破綻が生じたとき、生命維持ができなくなります。細胞に酸素が届か無くなれば最終的に、
 呼吸:呼吸促拍→呼吸不全→心肺停止
 循環:代償性ショック→非代償性ショック→心肺停止
に至ります。

異常を察知する

患者とのfirst touchから「意識ABC」に異常がないか確かめます。

「大丈夫ですか?」と問いかけ、返答があれば気道(Airway)は開通し、脳に酸素が供給される状態(起動・呼吸の確認)は維持できています。同時に、手を触れ、脈拍を確認し、冷汗・冷感の有無を確認します(循環の確認)。

異常を数値化することで、より異常の認識ができます。医療スタッフにも共通の認識(「これはおかしいぞ!」)が得られます。

初期対応の『OMI』

「意識ABC」で異常があれば、処置ができる場所に移動します。その後、「OMI」を行います。

O:酸素
M:モニタ
I:静脈ルート(+採血)

です。これはどこの医療機関でも同じ行動をするはずです。

内容

頂いた資料には、ショック、胸痛、呼吸困難、吐血、腹痛、頭痛、けいれん、麻痺の8項目があります。今回、オンラインで参加し、6項目をシミュレーションで経験しました。

モニタの音(SpO2のピコンピコン)が緊迫感を演出しています。受講者としては、モニタの音だけで、病態が悪化しているな、と分かるので、かなり追い込まれた感覚に陥ります。

10分程度実践し、フィードバックを受ける。これを繰り返しました。

個人的な学び

・4つのショックの鑑別は、
 ①血管分布異常性ショック
 ②心原性ショック(急性左心不全)
 ③循環血漿量減少性ショック
 ④閉塞性ショック
 の順。もちろん同時並行でもいい。分からないショックほど丁寧に鑑別すること。多くのショックは2つ以上の原因が混ざっているので、1つに絞らなくていい。

・徐脈の鑑別 ‘VF AED ON’
 V:迷走神経反射
 F:低体温
 A:心筋梗塞(右心梗塞)、不整脈(SSS、AV block)
 E:電解質異常(高K、高Ca)、副腎不全、粘液水腫
 D:薬剤(A:抗不整脈薬 B:β遮断薬、C:Ca拮抗薬、抗コリン薬、D:ジギタリス)
 O:低酸素血症
 N:神経原性ショック(脊損)

・4 killer chest pain
 急性冠症候群(STEMI+NSTEMI+UAP)
 肺塞栓
 大動脈解離
 緊張性気胸

・緊張性気胸の緊急脱気
患者を半坐位にして鎖骨中線第3肋骨上縁から50mlシリンジと三方活栓をつけた18Gサーフロを挿入し外筒のみ留置する。(もちろん消毒する)

・神経筋疾患がある患者では、気道閉塞にみられる陥没呼吸ができなくなる(筋力弱いので)

・出血直後はHb低下はない。
 Hbは濃度であり、出血直後に濃度が変化することはない。
 しばらく時間が経過すれば濃度は下がる。

・内臓痛と体性痛
 ①内臓痛:鈍くて局在不明瞭
  虚血、うっ血、炎症、伸展で痛みが誘発
  自律神経症状を伴う
  管腔臓器は間欠痛、実質臓器は持続痛
  炎症を起こしている臓器を刺激すると痛みが誘発する(=圧痛のこと)
 ②体性痛:鋭くて局在が明瞭
  膜の痛み(壁側腹膜、血管外膜)
  自律神経症状は伴わない

・基本原則:消化管の痛みは真ん中に集まる
 ①腹腔動脈支配:前腸由来の臓器(食道~十二指腸、肝胆膵脾)
  腹腔神経節→心窩部痛が発生する
 ②上腸間膜動脈支配:中腸由来の臓器(十二指腸下部~横行結腸)
  腸間膜神経節→臍部痛が発生する
 ③下腸間膜動脈支配:後腸由来の臓器(加工結腸~直腸)
  下腸間膜神経節→下腹部痛が発生する

・関連痛
 心筋:心臓神経叢(Th1-4)
 心膜:横隔神経(C3頚部、C4肩、C5上腕)

・脳梗塞 超急性期のCT所見 early CT sign
脳溝の左右差、皮髄境界不明瞭、基底核の不明瞭化、Hyperdense MCA sign

所感

救急現場で働いていれば簡単な内容。すべての医師がそのような場所で働いていない。そのため日々訓練は必要。定期的な知識の見直しとアップデートは行っておきたいところ。

受講:2024年6月2日

参考図書

内科レジデントの鉄則
研修医の定番。
臨床現場で一番大事なこと―備えた知識を最大限に活かし、緊急性・重要性を判断し、初療につなげられる一冊。

動きながら考える!内科救急診療のロジック
「動きながら考える」ことに特化した1冊。これあれば、たいてい乗り越えられる。血ガスの勉強も便利。

研修医当直御法度
「赤本」と呼んでいた記憶があります。林先生の著書で、研修医は誰しも読んだことがある本。読みやすいのが助かる。

救急外来 ただいま診断中!
坂本先生の著書。これも、神がかっている。他よりちょっとお高め。
ただ、意識障害、頭痛、胸痛、吐下血など多岐にわたる症候への対応が学べる一冊。


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