見出し画像

あなたは神を信じますか?

「あなたは神を信じますか?」

駅から少し離れた路上で、僕は二人の裕福そうな男性に話しかけられた。

彼らは外国人で、ユニフォームのように同じスーツを着ていた。

「神を信じますか?」

神とは何だろう。

世界にたくさんの宗教があるが、
それぞれにちがう神様が存在する。

目の前の二人の男性も、
おそらく何らかの神を信じる宗教団体に所属しているのだろう。

彼らがいう「神」とは、
彼らの神のことである。

他国に来て、その国民に、
自分たちの神を唯一のものであるかのように
神を信じるか、と問うのは、
いささか無礼ではないか、と僕は感じた。

「神ってナニ?」

僕の後ろから、くぐもった声がした。

振り向くと、汚れた作業服めいた服を着た初老の男性が
中華まんにかぶりついていた。

「信じるかどうか聴く前に、神の定義を教えろや」

二人の育ちの良さそうな外国人たちは、顔を見合わせ困った様子である。

「神とは…
全知全能とか、絶対的なもの、とか言われるけど、
ここで神を定義してみよう」

男は勝手に語り始めた。


「世界じゅうに、たくさんの宗教があるけれども
 そのほとんどで、神とは、その中で最上級に位置する存在だ。
 
 政権争いしたとか、何かで優勝したとかじゃなく、
 最初から一番上にいるのが神だ。
 
 いま「いる」って言ったけど、
 神は、人じゃないんだ。
 
 何なのかわからない。
 
 とにかくスゴイのが神だ。
 
 神は、人じゃないから、
 人の姿をしてない可能性もある。
 目に見えないかもしれない。
 とにかく誰も見たことがないんだから
 神の姿は誰も知らない。
 
 誰も見た事がないけど、
 おそらくこんなんじゃないかって想像して
 作ったのが像だ。
 
 神様は、なんでもできる。
 雨を降らせたり、台風を起こしたり、
 大波を起こしたりできる。
 
 人の力では、どうにもならないような大きなことをやれるのが神だ。
 
 神の意思は、誰にもわからないし、
 人は、それを受け入れるしかない。
 神が起こした災害によって、何万にも人が死んだとしても、
 神が罪に問われることはない。
 
 別の言い方をすると、
 自然や世界そのもののを
 「神」と呼ぶことにしたのだと
 考えることもできる。
 
 われわれ人間や、すべての生き物、地球をふくめすべての惑星、
 太陽、銀河系、全宇宙、そのぜんぶを内包するのが神だと言えるだろう。
 
 なので、
 神はいるのか?
 神を信じるか?
 
 という質問は意味が通らない。
 
 世界全体を神と呼んでいるとするならば、
 われわれは、神の中にいる。
 
 信じるも何もない。
 われわれが存在しているならば、
 神も存在する。

 世界そのものが神であり、
 われわれも神の一部なのだから。
 
 言葉遊びと言うなかれ。
 
 そもそも宗教とは言葉遊びにすぎない。
 
 概念をつかった遊戯にすぎないのだ。

 わかるか、若者よ」

気がつくと、二人のエリート外国人はいなかった。

むさい初老の男性は、僕に向かって話していた。

(了)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?