ストレンジャー『(3)変死』
*
午前七時、火曜日の朝。あんまり寝てない。それは彼女と関係ないんだけれど。
神妙な面持ちをしている彼女は、きっと色々と思いだしたんだろう。
「おはよう」
「おはようございます、靭さん」
「その顔は、なんか思い出したんだな」
「はい……」
「い、言いたくない?言えないなら、まあ、いいけれど……」
「い、言えないです。でも、言わなきゃ、言わないと、でも……」
「わーった」
「え」
「じゃあ何も聞かずに置いてやるから、そのうち出てって」
「え……」
「できる?」
「はいっ、できます!」
「おーし、いい返事だ」
「ひとまず家事がんばります!」
「まあ別にどっちでも……」
さらっと美味しい朝食が出てきて、驚きながら褒めた後、出社した。彼女は使えるぞ。
会社でメールをチェックしていると、明らかに迷惑メールのようなのに、そこへ振り分けられていないメールがある。URLをクリックするか、添付ファイルをダウンロードしなければ問題ないはずだから、ひとまず内容だけ閲覧してみよう。
あの女は危険だ。早く離れた方がいい。
添付ファイルもURLもなく、僕のメアドから届いている仕様だ。
これは――
何か、得体の知れない危機に直面するかもしれない。
昼休みに、友莉から電話が来た。
「もしもし、靭さん?」
「うん、なんかあった?」
「アイロンってないんですか?」
「あ、いいよやんなくて。やってないから」
「ええー」
「うん」
「あとですね、不審者とか近くにいないですか?」
「まあ、らしい人はいないけれど……」
「もし身の危険を感じたら急いで帰ってくださいね。私が守りますから」
「……わ、私がマモル?」
「深いこと考えないでくださいね、大事な大事な靭さん」
「……んー、はい。また後で」
「はい」
電話を切った。何かに巻き込まれているな。これは覚悟しないといけない。
今日も残業なし。帰路に着く。
でも、嫌な予感は当たっていた。つけられている気配がある。
「そろそろ出てきてくれないか。後ろにいるんだろ?」
「へー、あの女、凄いのに助けられたなぁ」
住宅街の裏路地で、他には誰もいない。
茶色の瞳に黒髪のロングヘア―。高身長で、丈の長い黒のワンピースを着ている。
「あんたは?」
「こんな狙い易い道を選んでいるなんて、運がないと思っていたけど、わざとだったんだね。これは驚き」
「で、あんたは?」
「ふふふ、そう急かしなさんなって、お兄さん」
「おっちゃんでいいぞ」
「おっちゃん、変死ってあるっしょ」
「不審死、みたいなやつか」
「そうそう。あれをもし、意図的に起こすことができる力があったら、おっちゃんはどう使う?」
――そんなまさか。
「あの女、奥村友莉は記憶までしか殺せなかった。ま、免疫があるからね。でも、君は初体験だろう、この変殺し能力との対面、そして変殺し屋との対面は!」
感じたことのない恐怖が具現化する――
変死。
変死死体の一部で、医師によって明確に病死や自然死であると判断されず、かつ、死亡が犯罪によるものであるという疑いのある死体のこと。
ひとまず友莉に電話をかけて切る。これで何かあったと思うはず。
黒いカーテンが裏路地を這ったかと思うと、僕らのいた場所だけが切り取られ、気づくと白と黒を基調としたメルヘンチックな部屋にいた。
「行動が早いね、これで奥村嬢も異変に気付く」
「そうだね」
「ニ対一になる前に、死んでもらうよ」
どうやるんだろう。流石に見ただけで死ぬ、とかだとどうしようもない。
床から、大きなハサミを持ち黒いドレスを着た髪の長い女性の人形が、出現した。
「やるなら一思いにやってくれ。趣味が悪いぞ」
「ふふ、私の能力は、この空間へ呼び込めること。凶器も見つからず、出血の後もなく、斬殺されるの。あとには切り刻まれた死体だけが残る、斬殺空間」
「ゴスロリは嫌いじゃないけれどなぁ」
「え、そうなの?」
「え、あ、まあ」
「可愛いよね!」
「うん」
「でも殺す!」
やっぱり駄目か!
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