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SyuRoのまわり.3 「旅」編


生活道具をそのものがもつ「周辺」とともに紹介していく「もの・の・まわり」。今回の主役はブリキの角缶ですが、1回目の「産業」。2回目の「季節」と「手入れ」に続き、3回目の今回は「旅」。そのものが考えられたり、売られたりする現場を僕、ナガオカとライターの西山薫さんと、なんだか楽しそうだぞ、ということでくっついてきたスタッフとで巡ってきました。


「もの」には人と同じようにふるさとがあります。そして、私たち人間がそのふるさとにある風土や環境に影響されながら育っていくように、ものも、言葉すら話しませんが、その場所にある様々な要素を受ける人や場所の要素で育つと言えます。

東京の下町。ものづくりの町として賑わう台東区。今回のブリキの角缶が生まれ育った環境を私たち使い手としての生活者が訪ね体感することで、より大切に使いたいと思えるようになれたらと思います。


角缶の生みの親、宇南山加子さんが主催するSyuRoは、東京都台東区鳥越にある。台東区鳥越は、大江戸線と浅草線の蔵前駅から徒歩10分ほどの場所にあり、浅草や御徒町、浅草橋、馬喰町にも近い。そんなSyuRoのある街を宇南山さんとともに巡った。


鳥越神社の創立は651年と伝えられている歴史ある神社で、毎年6月に鳥越神社の例大祭「鳥越祭」が開催される


 
SyuRoのある台東区鳥越界隈は、家族経営の小さな工場が集まるものづくりの街で、宇南山さんの地元でもある。

「友だちの家のほとんどが自営業で、お父さんの仕事をお母さんが手伝っていました。近所の商店街は『おかず横丁』と呼ばれているのですが、それは『ごはんのおかず』を売っている店がたくさんあったから。

お母さんはお米だけ炊いて、おかずは商店街で買ってくるんです。私が子どもの頃は、そんな忙しい家が多く、商店街も活気がありました」


おかず横丁や和菓子屋「港家」


おかず横丁にある和菓子屋「港家」では夏季限定でかき氷を販売している。写真は「宇治あずきミルク(500円)」。氷がフワフワ、サラサラ。和菓子屋仕込みのあずきも、ほどよい甘さで人気がある。遠方から訪れる人も少なくないという。

店舗を建て替えるため、今年のかき氷の販売は8月31日まで。建て替え工事が終了後、お店は再開する予定だという。


中華料理店「幸楽」。ランチタイムには近隣で働く人たちや地元の方々が次々と訪れる人気店だ。写真は限定メニューの冷やしラーメンと定番メニューのナシゴレン(ハーフ)
 
 
古いものと新しいものが入り交じる文化度の高い街
 

「こんにちは! 今、街歩きしているんですけど、ちょっと見せてもらえますか」
宇南山さんがそう声をかけると、工場の人たちは「どうぞ、どうぞ」と作業の様子を見せてくれる。

「扉が閉まっていると、中でどんな作業をしているか分からないですよね。私もSyuRoをオープンさせた当初、街中を自転車で巡りながら看板から『きっとここは、こんなものづくりをしているはず』と推測しながら訪ね、具体的にどんなことをしているか教えてもらっていました」


 小さな工場はいくつも残っている。業務用のガラス食器を製造販売する水崎硝子や、製品活版印刷の活字を扱う大栄活字社、箔押しを中心とした印刷加工を手掛ける田中箔押所、革をなめす工場、ボール紙や糸、金属加工の専門店、江戸時代から続く臼と杵をはじめ木工製造業を営む青木木工など。巡っていると、職人が働くものづくりの街であることが実感できる。


この界隈の特徴は、懐かしさのある街の中にSyuRoのような洗練されたショップや、個性的なヘアサロンやカフェ、工房、ギャラリーなどが点在していることだ。その多くは、古い建物の良さを生かしながら改装して使用している。「建物のタイルや窓枠などのディテールをそのまま活用するなど、みんなセンスよくリノベーションしています」



流行に流されず、自分のやりたいことを実現する店をつくったり、古いものの中にある価値を見い出したりする。そんな考え方や生き方に影響を受けた人たちが、自分もここで起業しようと集まってくる。いい循環も生まれてきているという。


カキモリは、2010年にオープンした「書く」ことをテーマにした文具店。表紙や中紙、リングの色、留め具などを自分で選んでオリジナルのリングノートをつくることができる。書き終えたノートは、有料で中紙を交換することも可能だ。今回、平日の昼間に訪れたが、店内は多くのお客さんで賑わっていた。蔵前を代表する人気店の一つだ。オリジナルのインクがオーダーできるインクスタンドという系列店も近くにある。


台東区は2004年に、起業を目指すデザイナーやクリエイターを支援する施設「台頭デザイナーズビレッジ」を設立した。台東デザイナーズビレッジは、廃校となった台東区立小島小学校を施設として活用。ワークショップやクリエイター起業塾が開催されたり、台東区で創業予定のクリエイターに安価で事務所スペースを貸し出したりしている。

そういった支援があることも、ものづくりを志す若者が台東区に多く集まって来る理由の一つだ。2011年からは、ものづくりの街の魅力を発信する「モノマチ」というイベントが毎年5月に開催されている。

http://www.monomachi.com


誤解をしている人たちは意外と多い
 

デザイン事務所としてスタートしたSyuRoは当初、東京・目黒に事務所を構えていた。目黒で仕事をしていたからこそ、地元の魅力を客観的に見ることができたという。その後、地元の台東区にも事務所を構えた。すると

「なぜ、そんな土臭い下町に事務所を構えるのか」

と言われたことがあったという。

「同じ台東区の上野は、東京藝術大学をはじめ、数多くの美術館や音楽の文化などが集まっています。国立西洋美術館の本館はル・コルビジェが設計を担当したことでも有名ですよね。浅草には日本独自の食や芸能、祭りなど、昔の文化がいくつも受け継がれている。私は地元なのでそういったことを当たり前のように知っていましたが、実は文化度が高いことを知らない人がいるんだと分かりました。

誤解している人って意外と多いんですよね。だからこそ、かっこいい街の魅力を伝えるために、お店は青山や六本木ではなく、あえて下町に出そうと思いました」。
そうして、2008年にSyuRoをオープンした。
 


誤解を解くためには、どうしたらいいのか。宇南山さんは
「まずは近くにいる人たちに、自分の言葉で伝えていくことが一番大事なこと」だという。


「もし誤解している人に会ったら、そうじゃないんですよ、素敵なところなんですよと魅力を伝えていく。すごくシンプルなことなんですけどね。SyuRoに来店してくれる人たちも、国内外問わず、友だちから聞いたから来てみたという人が圧倒的に多い。自分の身近な人のおすすめの店には、行ってみたくなりますよね。訪れてもらえれば、街に対する印象も変わるはずです」

購入はこちら
https://www.d-department.com/item/2015000100156.html


さて、ここからは毎回、取材を終えた僕ら「ナガオカ・ニシヤマ」の「ナガ・ニシ・後記」です。取材を終えてカフェで一息、みたいな、本音で締めくくる原稿化前の、リアルやり取りをそのままお楽しみください。

その前にお知らせです。次回「SyuRoのもののまわり」で最終回なのですが、(もの・の・まわりのマガジンは続きます!!) 次回は「仲間」がテーマで、「SyuRoの角缶」を使っている方々に「SyuRo」に集まって頂き、お茶を飲みながら、感想など聞かせて頂き、それをここに掲載したいのです。ぜひ、宇南山さんと一緒にお茶しませんか?
ということで、参加したい方は、連絡ください。3名くらいを募集します。先着順にて失礼します。
https://www.facebook.com/groups/1248662208645176/


◉ニシ
宇南山さんに半日案内していただいて、下町ファンになりました。SyuRoの角缶のように、経年変化を価値として受け入れていましたね。ナガオカさんは、いかがでしたか??

○ナガ
やっぱりもののふるさとを訪ねると、そのものがものじゃなく感じてきました。
角缶を見ると、台東区の風景を思い出します。それって、とっても大切なことだと思いました。

◉ニシ
「ふるさとを訪ねて、ものがものじゃなくなる」「風景を思い出す」大切さって具体的にどういったことだと思いますか??

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