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【マッチプレビュー】2022 J3 第31節 松本山雅FCvsAC長野パルセイロ

三度目の正直を

 10月23日、長野Uスタジアムで行われた2022 J3 第30節 AC長野パルセイロvsY.S.C.C.横浜の一戦に2-1で勝利した長野。昇格圏内に位置する2位の藤枝、追走する鹿児島がともに引き分けたため、第31節開始前時点で昇格圏との勝点差は12。得失点差も踏まえると、昇格には非常に厳しい現状だと言える。しかし、この一戦だけは順位表の位置、昇格可能性とは関係なく勝たなくてはいけない一戦。
 第31節の対戦相手は松本山雅FC。そう、今季3度目の"信州ダービー"だ。長野にとっては、非常にわずかな昇格可能性を繋ぐために勝利が必須の試合。松本にとっても、まさに昇格争いの渦中ということもあって、勝利が必須条件。シーズンの終わりが見え、第9節とは違った殺伐とした雰囲気が流れるのではないかと想像している。
 長野は今季2度の松本との対戦で未勝利。アルウィンでは既に1敗を喫しており、これ以上ライバルに負けるわけにはいかない。そして、長野の誇りを見せるべく勝つことが求められる。

通算対戦成績

 長野は松本に対して、J3通算0勝1分0敗を記録。長野はJ2昇格経験がなく、松本がJ3初年度シーズンであるため、このような数字になる。しかし、両者の熱い戦いはカテゴリーに関係なく行われてきた。
 私が確認できたところでは、リーグ戦の初顔合わせは1997年の北信越リーグ。初めてカテゴリーのズレが生まれたのは、2000年。松本が北信越リーグ、長野が長野県リーグという構図であった。その後、北信越リーグが2部制になり、長野が1部、松本が2部という時代もあった。常に鎬を削り、追いつき、追い越し、追い越され、熱い戦いを繰り広げてきた。
 2006年から2009年は4シーズン続けて同じカテゴリーで戦ってきた。しかし、2010年は松本が先にJFLに昇格し、長野は北信越リーグに残留。2011年に長野がJFLに昇格し、追いついたかと思えば、翌シーズンから松本はJ2へ。長野の方が後発クラブということもあり、松本の背中を見る時間が長かった。
 今季、松本がJ2から降格し、2011年以来のリーグ戦での対戦が決定した。お互いにとって、不本意な位置での再戦になったと言える。個人的にも、日本のダービーマッチにおいてトップクラスの熱量を持つこの対戦カードがJ3で開催されることは不満がある。ただ、それぞれにそうなるべくしてなってしまった原因はある。
 お互いに一刻も早くJ3から抜け出し、J2・J1へ階段を駆け上がりたい気持ちはあるだろう。今季だけではなく、来季以降の命運を握る重要な一戦である。

今季これまでの両クラブ

松本山雅FC

 まずはホームチームの松本。今季これまで30試合を消化し、18勝6分6敗。勝点60で暫定4位に位置している。
 選手層、資金力、サポーターの熱さ、どれをとってもJ3レベルではないクラブ。当然、昇格候補の本命として数えられた。
 開幕戦の相手は讃岐。先制を許し、J3の沼に早くも浸かるかに思えたが、確実に2得点を重ね、開幕勝利スタートを飾る。続くYS横浜戦も勝利を収めるが、ホーム開幕戦の鹿児島でまさかの敗戦。現在の順位からすると、「まさか」とも言えないが、当時はそんな印象であった。
 その後は、相模原・岐阜とのアウェイゲームで勝利。前回の信州ダービーで引き分けるまで、開幕からアウェイ全勝と勝つべきところで勝てる強さを見せた。一方、ホームでは4月末にようやく勝利を掴むなど、苦戦している様子も見られた。
 ダービーの後は、今治・鳥取・藤枝との対戦を2勝1分で乗り切ったものの、愛媛との対戦を2-3で落とした。しかし、直後の首位いわきとの対戦は、敗戦を引き摺らずに2-1と接戦を物にした。
 下位の八戸とのアウェイゲームを落としたり、鹿児島に被シーズンダブルを食らったものの、持ち味の堅守を生かしてウノゼロ勝利を積み重ねた。
 ただ、最近になってYS横浜に敗戦を喫したり、沼津とスコアレスドローで終わるなど得点力不足を感じさせた。それでも、直近の岐阜戦・今治戦では逆転勝利を収める。特に、田中選手の活躍が顕著で、試合の流れを変える役割を持つと考えられる。
 昇格圏内の藤枝とは勝点差2と肉薄した状況。他会場の結果次第では、今節で昇格圏内に滑り込むことも可能。ただ、松本自身が勝つことが必須であることに変わりはない。是が非でも勝点3が欲しいところだろう。

AC長野パルセイロ

 次に、アウェイチームの長野。今季これまで30試合を消化し、14勝8分8敗。勝点50で暫定7位に位置している。
 今季は昨季まで3シーズン続いた横山政権から一転。YS横浜でクラブ最高順位に導いた若き指揮官シュタルフ氏を招聘。開幕前は、監督交代初年度という点や昨季のスカッドからの大型刷新を実行できなかったことなどが絡み合い、昇格争いに絡むことは予想されていなかった。しかし、大方の予想を良い意味で裏切るロケットスタートを記録する。開幕から2ヶ月でわずかに1敗。大勝こそ少なかったものの、1点差の試合をものにしたり、ビハインドを終盤で追いついたりと勢いの良さを見せた。
 5月に入り急失速を見せ、6月の半ばまで勝利なし。リーグ戦での信州ダービーの盛り上がり直後の試合では、燃え尽き症候群なのか、終盤で勝点を逃す試合を連発。終盤の失点がなければ、現状の勝点に5つ上乗せできていたと考えると非常に厳しい時期となった。
 久しぶりの勝利となった八戸戦で復調の兆しを見せ、惜しくも敗れた富山戦では、多くの時間帯で相手の圧倒する攻撃を見せた。7月に入って以降は、6戦負けなし&4連勝を達成。2点ビハインドからの大逆転勝利や試合終了間際の土壇場先制点など印象的な試合も少なくなかった。7・8月の8試合で6勝1分1敗と急速な勝点増加を続ける上位になんとか食らいつく成績を残した。
 しかし、9・10月は順位表のトップハーフに位置するチームから勝点3を奪えず。月初にアウェイ2連戦が必ず予定されているという比較的難しい試合日程だったかもしれないが、直接対決で勝利できなかったことは重くのしかかった。ボトムハーフに位置するチームからは勝点3を奪えたものの、トップハーフに勝利できなければ、昇格争いからは突き放されてしまう。第30節終了時点で昇格圏内との勝点差は12。残試合数は4つと非常に厳しい状況に立たされている。
 ただ、非常に僅かながらも昇格への可能性は残されている。そして、今節の対戦相手は松本。お互いに昇格可能性を残す中での再戦となった。現実性の高い差であるのは松本だが、同県に本拠地を置くライバルクラブに負けるわけにはいかない。また、みすみすライバルの昇格を見送ることはあってはならないと考える。全身全霊でぶつかり、挑戦者として勝点3を貪欲に追い求めていきたい。

前回対戦の振り返り

 前回の対戦は2022 J3 第9節に行われた。その前週に天皇杯長野県予選決勝でも対戦しており、その試合を踏まえてどんな変更をしてくるかに注目が集まった。
 長野は起用メンバーは、ほとんど変えなかったものの、4-3-3のシステムから3-5-2のシステムに変更。松本は起用メンバーをリーグ戦仕様に変更して、システムは4-4-2(4-2-2-2)のまま変更しなかった。
 前半はターン制のような形での攻防が続く。長野は1アンカーに住永を置いて、細かなパスワークを志向した形。住永の脇に水谷が入るなどして、左サイドから攻撃の糸口を掴んでいく。ただ、アタッキングサードへの進入局面で精度を欠いたり、フィジカルで勝てなかったりとあと一歩が遠い印象もあった。
 対して、松本の狙いは簡潔。第一目標は前線のタレントを素早いカウンターで生かすこと。実際に、単騎突入であっても非常に脅威となっており、ゴールに迫る場面も見られた。また、4-2-2-2のような形で、長野のアンカー脇に人を配置することが多かった。菊井選手など繋ぎの役割を行なえるタレントがファジーなスペースで受けることで、攻撃の糸口となっていた。
 後半は、まさに一進一退の攻防が繰り広げられる。切り替えの局面での優位性を奪い合うかのように、激しく攻守が入れ替わり非常にインテンシティの高い試合になった。長野のお得意の形、戦術デュークを発動させるも、対人戦に優れた宮部選手が完全に対応するなど、隙を生み出すには至らなかった。
 松本としても、攻守の入れ替わりが多く発生したことも影響してか、若干間伸びした印象を受けた。ポストプレーヤーとして榎本選手を投入したが、空中戦では秋山・喜岡に分があり、なかなかリンクマンになれない。ハイインテンシティで進んだ試合であったが、得点は生まれず、0-0でスコアレスドローとなった。

試合の注目ポイント

トランジションの優位性

 まずどちらかがボールを握り、一方がカウンターを狙う形になるのか。それとも、双方ともにボール保持を狙い、攻守が激しく入れ替わる展開になるのか。いずれにしても、鍵になるのはトランジションの局面。
 間違いなく出場するであろう横山選手のスピード、個人クオリティは超J3レベルであり、トランジションで遅れを取ると一瞬で決定機を作られてしまう。1秒も気を抜けない激しい戦いになることが予想される。
 長野としては、ネガティブトランジションで細心の注意を払うことはもちろんのこと、勝つためにはポジティブトランジションにもこだわらなくてはならない。
 ポジティブトランジション、つまりはボールを奪った後にどう振る舞うかが非常に重要である。前節のYS横浜戦でも見られたが、奪った直後の"攻撃に移行する"意識になった瞬間に、ボールを失うと非常に危険な場面を招いてしまう。攻撃に移ろうとした瞬間の配置は崩れていることが多く、守備に急激に切り替えることは難しい。「リスクをとるな」というように聞こえてほしくはないが、勝つためにはこだわる必要がある需要な局面である。

まとめ

 ここまで2022 J3 第31節 松本山雅FCvsAC長野パルセイロのマッチプレビューをしてきた。
 細々と重要ポイントや戦術のポイントに焦点を当てたが、最後に勝負を分けるのは気持ちではないだろうか。最後の1cmの足を出せるか。パスの数cmのズレまでこだわれるか。そういったメンタル的な要因が影響することも多分にあると考えている。
 シーズンの終わりが見えている状況での対戦。燃えないわけがない。長野としては、松本の昇格うんぬんではなく、ライバルに勝つこと。一戦必勝で勝点を積むことにフォーカスしたい。
 さあ、三度目の正直。勝つぞ!

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。