【マッチプレビュー】2023 J3 第10節 AC長野パルセイロvs松本山雅FC
2023 J3 第9節振り返り
試合結果
5月3日、4日に行われた2023 J3 第9節、各会場の結果は上記の通り。ホームチーム勝利試合が3試合、アウェイチーム勝利試合が5試合、ドロー決着が2試合となった。天皇杯都道府県予選があるJ3クラブは、シーズン中で珍しいミッドウィークの試合。休養日程数や移動距離も各クラブ間で非常に大きな差があり、スカッド全体の層の厚さが試される3連戦の2試合目だった。
前節終了時点で1位だった富山は、アウェイ相模原戦に臨み、1-1の引き分け。先制される難しい展開だったが、今季大活躍中の高橋が同点ゴールを決め、アウェイで貴重な勝点1を積み上げた。しかし、上位の勝点差がほとんどない今季のJ3において、引き分けによる勝点1の積み上げは足踏みと同義となってしまう。
前節終了時点の2位奈良、3位愛媛、4位長野が全勝したことにより、そのまま富山の勝点を上回り、1位、2位、3位となった。上位が順当に勝点を積み上げた様相となった第9節だが、まだまだ上位は混戦模様。5月の最高のスタートを切るために、どのクラブも第10節での勝利が求められる。
順位表
第9節を終えて自動昇格圏内の2クラブは奈良と愛媛。前項でも記載したように富山のドローによって、前節終了時点の2位、3位がそのままスライドした形だ。首位の奈良は、開幕戦こそ松本に敗れたものの、第2節以降は8試合連続無敗と驚異的な強さを誇っている。そして、直近の4試合は全試合無失点勝利を記録しており、安定した戦いぶりを見せている。琉球・岩手といった昨季J2組にもすでに勝利を収め、JFL優勝の勢いをJ3リーグでも発揮している。2位の愛媛も、開幕戦で岩手に大敗したが、その後は8試合連続無敗と驚異的な記録。全試合で失点は目立つが、相手よりも多く点を取ることに優れたチームになっている。
しかし、1位から7位までの勝点差が未だに3と混戦模様。奈良や愛媛も引き分けを1度挟むだけで、他会場の結果次第では順位が大幅に後退する可能性がある。シーズン開幕前の評価が高かったクラブが上位に固まりつつあるが、5月中に頭ひとつ抜け出す成績を残すクラブは現れるのだろうか。
2023 J3 第10節
首位の奈良は、ホームでFC大阪との対戦。今季共にJ初参入となった両クラブの対戦となる。順位表の位置は離れているが、戦う場所がJ3に変わって何が起こるかわからない。昨季のJFLでの戦績は、奈良の1勝1分。奈良のホームゲームでは、5-0と大差での勝利となった。FC大阪としては、嫌な記憶をJリーグの舞台で払拭したいところだ。
個人的な注目カードは、長野vs松本の信州ダービー。詳しくはこの後詳しく触れていくが、J3リーグとは思えない盛り上がりを見せるだろう。5月7日に行われた天皇杯長野県決勝でも、同対戦カードで戦っている。その試合では、長野が15年ぶりに松本に対して公式戦で勝利した。長野としては先週の勢いそのままに勝利を求め、松本としては負けた借りは勝利で返したいところだろう。普段J3リーグが注目を浴びることはJ1,J2と比較すると圧倒的に少ない。しかし、信州ダービーという戦いは、普段海外サッカーやJ1,J2をよく見る人にとっても、わくわくするコンテンツと言える。是非、普段J3を見ないサッカー仲間にも紹介してほしい。
信州ダービー2ndLeg
そして、我らがAC長野パルセイロ。前節は、中2日かつ長野→岩手という非常に難しい日程の中挑んだアウェイ岩手戦。岩手が中3日かつホーム連戦という対照的な日程だったこともあって厳しい戦いが予想されたが、見事に4-1と大勝した。ボール支配率やシュート数では岩手が大きく上回ったが、結果は長野の快勝。今季の長野の典型的な勝ちパターンである。シュートが決まらなくなったら怖いとも考えられるが、今は悩みの種にする必要はないと考えている。
先述した通り、今節の対戦相手は、同県のライバルである松本山雅FC。ちょうど1週間前に天皇杯長野県予選決勝で対戦し、1-1(PK:5-4)で勝利。カップ戦のため勝敗がつけられたが、90分間では1-1と互角のスコア。長野の先制点から松本の同点弾までの時間がわずかだったことを考えると、非常に力は拮抗していると考えられる。カップ戦では明暗の分かれた両クラブだが、リーグ戦の90分間で決着をつけることはできるだろうか。同県のライバルクラブということもあるが、上位直接対決でもある。所謂、6ポイントゲームだ。長野としては、勝点3を積み上げて上位組の中でも、一歩抜け出したい。
マッチプレビュー
通算対戦成績
長野は、松本に対してJ通算0勝1分1敗を記録している。下に表記したのは、AC長野パルセイロ公式で確認できた信州ダービーの歴代対戦成績。Jリーグでの対戦は、昨季の2度のみだが、これまでの地域リーグ時代やJFL時代を含めると幾度となく戦っていることがわかる。これら全てを計算に入れると、長野は松本に対して通算8勝6分14敗となる。非常に分が悪い相手であることには変わりないが、J通算記録で見るよりも更に驚愕的な数字だと言える。
シーズンも飛び飛びで、最も古いデータから考えると26年経過しているため、単純な比較対象にはできない。しかし、長野は先日の県決勝の舞台で勝利するまでは、15年間勝てていなかった。PK勝利ということを除いて、リーグ戦での勝利を振り返ると、2008年以来、未だに勝利できていないとも捉えられる。リーグ戦は直近(?)6試合未勝利。4分2敗である。明らかに悪いイメージと言いきれないかもしれないが、決して良いイメージを抱ける数字ではない。今節のホームゲームで、この歴史を覆すことはできるのだろうか。
長野のホームゲームにおけるリーグ戦対戦成績を振り返ると、通算1勝3分2敗。勝率に換算すると僅かに16%。もちろん、J通算で見ると0%。後ろ向きなデータばかり並べても仕方ないが、これが長野と松本のこれまでの現実である。
この歴史を覆すきっかけを作ったのが、先日の県決勝の舞台だとすれば、僅かな起点を逃してはならない。県決勝は中立地開催扱いだが、実質的に松本のホーム開催だった。アウェイの地で起点を作ったチームとサポーター。この起点を確実にホームUスタの雰囲気で掴みにいくべきだろう。
昨季対戦の振り返り
前半戦は、長野のホームゲームで開催された。J参入後初の公式戦における信州ダービーということもあり、注目度は非常に高かった。その証拠として入場者数はUスタ史上最高の13,244人。J3史上最も注目を集めた対戦カードになったのではないだろうか。
前半は、お互いに狙いがはっきり見える試合展開。長野は5-3-2と後方に人数をかけた堅牢な守備ブロックで松本の小松・横山コンビを封殺する狙い。そして、攻撃ではLWBに入っていた水谷を中央に絞らせ、LIHの森川をサイドレーンに出す可変システムでビルドアップを図った。松本は4-4-2のオーソドックスな守備ブロックで3バック+アンカーの長野ビルドアップを捕まえる守備の狙い。サイドレーンに圧縮して中央への横パスを奪って攻撃に転じる構えだった。カウンター局面では、小松・横山のタレント性と菊井のバランス力を活かして長野のゴールに迫った。
後半は、長野がアンカーに宮阪を投入、WGやIHの選手も積極的に交代し、ダイナミックな攻撃を志向。その影響もあってか、攻守が激しく入れ替わる試合展開になった。松本も横山・小松を前線に張らせたまま、トランジションの速さに対応してきたので、全体的に間延びした試合展開になっていった。最後までお互いに得点は奪えず、0-0での決着となった。
後半戦は、松本のホームゲームで対戦。前半戦とは大きく異なる点が、一部座席での声出し応援の容認。声出しエリアの人数制限はあったものの、スタジアムに声援が帰ってきた。前半戦よりも更に良い雰囲気の中、試合は行われた。
前半は、当時長野が戦い方の主軸に据えていた5-1-3-1→4-2-3-1の可変システムに対して、松本が対抗策を確実に当ててきたという印象。長野はLWBの水谷が中央に絞り、5バック全体が左肩上がりに可変することで4バック化する。しかし、松本は前線から積極的に長野のビルドアップを人基準で捕まえにかかる。長野としては、なかなか思うようにビルドアップができず、会場の雰囲気も相まって押し込まれる時間が続いた。そして、長野のミスから生まれたCKで松本が先制に成功する。
後半は、シュタルフ監督のテコ入れによって長野が息を吹き返す。DFラインとアンカーの距離感を修正し、松本のハイプレスに対応。人基準で捕まえにかかった松本の選手の背後をとる場面が増え、一気に攻勢に転じる。勢いそのままに長野が左サイドの攻撃から同点弾を決める。しかし、ハイプレスから引き込んでカウンターという守備組織に切り替えた松本に対して、決定的な得点機会を創り出せず。長野のパスミスから松本がスピーディーなカウンターを見せ、勝ち越し点を奪った。試合はこのまま2-1で松本が勝利した。
前節の振り返り
岩手vs長野
長野は、中2日で岩手に移動してのアウェイ岩手戦を戦った。長野としては、第8節にホーム福島戦で2-0からの逆転負けを喫し、厳しい日程ながらも勝点3を奪い、立て直す必要があった。
前半は、岩手がボールを握り、長野が守備ブロックを組んで対応する様相。長野はロングボールを中心に縦に早い攻撃を志向した。ポストプレーに特長のある進・山本の2人を活かして、岩手陣内に進入。9分という早い時間帯で先制に成功する。長野はビルドアップのミスや岩手の和田を捕まえきれずにピンチを迎える場面もあった。しかし、金のセーブやゴールポストに救われて前半を無失点で折り返す。
後半も長野が早い時間帯で得点を決める。金からのロングボールに船橋が抜け出し、中央にクロスを送ると、宮市の足に当たってオウンゴールとなる。そして、立て続けに長野が得点を奪う。53分、岩手DFラインのミスから近藤がボールを奪い、進が落ち着いてゴールに流し込んだ。81分にもミスから三田が抜け出して4点目を奪う。失点を喫したものの、攻守において前節の逆転負けを感じさせない堂々としたプレーだった。結果として、4-1で長野が大勝した。
松本vsFC大阪
松本は、前節ホームにFC大阪を迎えての一戦。中3日で富山→松本の移動を敢行。距離・日程ともに比較的穏やかな連戦となったが、第8節の富山戦では0-3と富山に完敗。第7節の沼津戦に続いて3失点となり、守備の再確認が必要になる結果となった。
前半は、お互いの志向するスタイルが顕著に現れてぶつかり合う試合展開。松本は2CB+ダブルボランチでボール保持を安定させ、攻撃力の高い藤谷や山本といったSBをいかに高い位置でプレーさせるかというビルドアップを図る。FC大阪は、持ち前の運動量で松本のビルドアップに対して、前線からハイプレスを敢行。全体が連動した守備組織で松本のビルドアップに制限をかけ続けた。決定機の数としては同程度。ただ、終始主導権を握ったのは、ハイプレスからリズムを生み出したFC大阪だった印象を受けた。お互いにゴールを奪うことはできずに、前半を折り返す。
後半も試合の大枠は大きく変化せず。松本のビルドアップに対して、FC大阪が前線からプレッシングを行う。松本は、ダブルボランチに加えて菊井も3列目まで降りて、ビルドアップに貢献する場面もあった。74分、松本陣内ゴールラインを割りそうになったボールを山本がギリギリで前に送る。クリアボールを受けた菊井がハーフウェーライン辺りからドリブルでDFを翻弄しながら前進。フィニッシュワークまで精度高くやりきって先制に成功した。松本がこの1点を守り抜いて、1-0で今季ホーム初勝利を掴んだ。
予想スタメン
長野の基本システムは、今季の軸となっている3-5-1-1を予想。GKは金。3バックは右から池ヶ谷・秋山・佐古。WBは右に船橋、左に森川。アンカーに宮阪。IHは佐藤・三田。トップ下に山本。1トップに進と予想した。県決勝メンバーから大きく変えてくるという方針で予想してみた。正直、県決勝のようにリーグ戦でのプレータイムが限られてる選手たちが、完璧にゲームプランを遂行していると予想が当たるはずもない…という嬉しい悲鳴に繋がる。それでも、リーグ戦の信州ダービーはこれまでのリーグ戦で出場が長い選手が主体になるのではないだろうか。
松本の基本システムは4-2-3-1を予想。GKはビクトル。4バックは右から藤谷・野々村・常田・山本。ダブルボランチは安東・パウリーニョ。2列目は右から村越・菊井・鈴木。1トップに小松と予想した。県決勝からの大きな変更はないと推測したが、強いて言えば、より攻撃力を高めるメンバーを選出すると予想した。守備面では森川vs藤谷のマッチアップが懸念点だが、山本&藤谷の両SBによる攻撃力はリーグ屈指の鋭さである。タレント揃いの前線に良い形でボールを届けるための戦術を今一度確実に整えてくるだろう。
注目ポイント
リーグ戦の信州ダービーに際して、注目ポイントとして下記2点を挙げる。
1つ目はサイドの攻防。両チームともにサイドレーンで高いクオリティを発揮できるSB(WB)・WGが揃っている。県決勝では長野が素早いスライドで抑え込んでいたが、リーグ戦でビルドアップの経路が変わると考えると、どのような攻防が繰り広げられるかも変わってくる可能性が高い。長野は昨季の攻撃の柱の森川が戻り、サイドの個人打開力が向上した。松本はサイドのタレント力にプラスして、中央で相手を翻弄できる菊井がチームを牽引する。この辺りも含めてサイドでの攻防に注目したい。
2つ目は決定力。言わずもがなサッカーの勝敗において非常に大きな要素を占める重要なポイントである。長野は今季これまでJ3内で枠内シュート率が1位。"賢守猛攻"を掲げた今季だが、コスパが良くなったのは守備だけではなく攻撃も影響を受けている。作るチャンスの質が高いとも言えるが、決定機を決めきることが長野の生命線と言えるだろう。松本は今季から霜田監督が率い、ビルドアップから何度も決定的機会を創出するスタイルになった。組織として相手ゴールに迫れるからこそ、早い時間帯で得点を奪いたいところだ。
まとめ
長野は前節過密日程ながらも昨季J2組である岩手に快勝。4月末に連勝が途切れたことは残念だが、引き分けではなく快勝という形で連敗ストップができたことは非常に前向きな材料と言える。また、県決勝ではその岩手戦からスタメン10人を入れ替えて松本に勝利。非常に層が厚く、チーム内競争も熾烈であることが伺える。誰が出ても素晴らしい試合になることを期待したい。
松本は前節でホーム初勝利を手にした。超J3級のサポーターが作り出す雰囲気は、J1にも引けをとらない。それは、アウェイの地であっても変わらないはずである。県決勝では、長野にPK戦で敗れたが、90分間ではまだ15年間無敗が続いている。霜田監督の志向スタイル的に試合を重ねれば重ねるほど強くなっていく。1週間の積み上げで、長野に対して勝利を掴めるか注目したい。
獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。