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急な変革よりも着実な強さの基盤を

 2021年10月10日、三菱重工浦和レッズレディースvsAC長野パルセイロレディースの対戦が行われました。

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 結果は上図の通り、2-0で浦和Lの勝利。試合内容では十分戦えていただけに少し残念さが残る悔しい結果になってしまいました。
 強豪連戦の2試合目となった今節のマッチレビューに移りましょう。

メンバー&システム

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 浦和Lは4-2-3-1、パルセイロLは3-4-2-1でスタートしました。
 「カメレオンサッカー」を標榜する小笠原監督ですが、前節の4-3-3から変更を加えて、基本ベースとなる3バックに戻してきました。
 脳震盪の影響で出場を見送っている橋谷のところには肝付が一列下がって穴埋め。肝付の場所には住永が初先発で抜擢されました。1トップの鈴木も.WE League初先発となりました。

一進一退の序盤

 開始直後は、浦和Lがロングボールを多用して押し込む展開。身長で浦和Lに劣るパルセイロLは、パワフルでダイナミックな攻撃を前にかなり押し込まれます。日本代表の菅澤選手を五嶋中心に阻み、迎えたピンチも肝付がギリギリのところでかき出します。
 開始直後の嵐のような猛攻を凌いだパルセイロLが徐々に試合を掌握していきます。試合が落ち着き始め、地上戦が中心になるにつれてパルセイロLの本領発揮です。
 開幕戦から猛威を奮っている前線からのハイプレス、浦和Lに対しても恐れることなく実行します。
 浦和Lの4バックに対しては、3トップで追い回すことはせず、ボールホルダーの正面に構えました。

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 浦和Lの4バックはかなり極端にボールサイドのサイドバックが高い位置をとります。
 そのビルドアップ方法がパルセイロLにとっては都合が良かったのです。...というよりは、分析から小笠原監督が講じた一手だったのかもしれません。
 ロングボールを蹴らせず、1stDFがプレスをかけることを合図にチーム全体でボール奪取のスイッチを入れます。プレスに焦った浦和Lは、窮屈な中盤に逃げようとするも、ことごとく伊藤と國澤に回収されてしまいます。
 また、ここで輝きを放ったのがパルセイロLのエース、瀧澤千聖。ポジティブトランジションの時に彼女にボールが入ると、狭い中盤でタメを作ることができます。狭いスペースでボールを失わないので、周りの味方がポジションを取り直す時間を生み出します。
 この活躍が功を奏し、中盤での優位性はパルセイロLがしばらく握っていました。

一瞬の隙をつかれて失点

 前半の飲水タイムを挟んですぐに試合は動きました。
 柴田選手がFWに向かって攻撃のスイッチを入れる縦パス。そこに五嶋が反応したものの、ボールは五嶋の元々いた背後のスペースに残ってしまいました。いち早く反応したのは、縦パスを入れた柴田選手。迷いなく右足を振り抜き見事なゴラッソを叩き込みます。
 飲水前までは、比較的にパルセイロLペースで試合を進められていただけにこの失点は非常に痛かったです。

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 キーパーとしてはノーチャンスのシュートであっただけに気持ち的にまだ落ちない失点と感じました。
 しかし、ここから浦和Lの強さを目の当たりにします。

トドメの一撃を狙う攻撃

 得点するまではパルセイロLのブロックに対して迂回するようなボール運びを選択していた浦和Lでしたが、1点のリードとホームのボルテージは強豪に追い風をもたらします。
 パルセイロLのブロックを迂回するのではなく、國澤と伊藤の前に出入りする人数を増やしたのです。何か規則性に基づいているというようには感じられませんでしたが、ボランチに加えてトップ下、サイドバックの選手が中盤にスペースを作っては入り、入っては抜けてを繰り返しました。
 中央でパスのテンポを作られてくると守備側は無意識のうちに視線が中央に向いてしまいます。
 そして、右サイドの安藤選手に自由なスペースを与えて深い位置まで侵入され被クロス。ファーサイドに詰めた水谷選手が押し込んで追加点。先制点からわずか8分で突き放しにかかります。

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 この怒涛の攻撃が浦和Lの強さだと感じました。波に乗れていなくても個人の力で得点を奪い、得点をとってからは全員が強気のフットボールに移る。強いチームの一つの形ではないでしょうか。

あと一つ足りないピース

 順位表で上位につけるINACと浦和Lとの1度目の対戦を終えました。この優勝候補に比べて足りないもの、それは『得点力』でしょう。逆に言えば、この最後の究極目的以外は、上位とも遜色のない内容を見せていると思います。ブロックの外側にボールがある時の守備は、.WE League内で最も完成しているとも思えます。
 優勝を狙うためにも、観客を熱狂させるためにも、得点は必須でしょう。その大きな課題に向けて、小笠原監督を中心に修正していくことを願っています。
 個人的には、瀧澤千聖と川船暁海・中村恵実のコンビネーションが大きな鍵を握っていると見ています。

ここからが本番

 リーグトップレベルとの距離感を知る良い機会になった直近2試合でした。正直、この2クラブは、戦力的にも日本代表クラスを多く抱えており、優勝に最も近いクラブと言えるでしょう。
 この優勝争いに食い込むためには、他の試合で勝利することが非常に重要です。
 一度きりの対戦ではないのが、リーグ戦という構造の醍醐味ではないでしょうか。1度目で敗れた相手を2度目で喰らう。それをできるチャンスが必ず巡ってきます。それまで、一つ一つ勝利を重ね、虎視眈々と上位を喰らう準備をしましょう。
 まだまだ優勝候補を絞るのは早いですよ。

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まとめ

 全勝で優勝に向けてひた走る2クラブをどこが止めるのでしょうか。
 パルセイロLがそのクラブになるためには、どうしても得点が求められます。得点をとり、焦って攻撃に出た相手を守備の網で絡め取る。そんな闘い方が今後できたなら、上位に食い込んでくること間違いなしです。
 得点を増やすことは順位表には見えない効果ももたらすことでしょう。それは『観客数』です。ひたむきにフットボールに向き合う選手が見られて、勝利の笑顔がスタジアムで見られたなら、また来たい!と足を運んでくれるはずです。
 個人的には、オレンジで埋め尽くされ無敵の要塞となったUスタで、パルセイロLが躍動する姿を見ることが夢の一つです。