【シーズン総括】AC長野パルセイロ 2022 〈個人総括:MF①編〉
2022シーズン振り返り
MF
坪川潤之
出場試合数:27/34
出場時間:1,319分
成績:1G・1A
警告・退場:4・0
〈去就〉
契約満了→カターレ富山
すっかりチームの中核になった大卒3年目のシーズン。2020シーズンに鮮烈なルーキーシーズンを過ごすも、終盤に負傷離脱。彼の離脱がなければ今頃J2に…。そう感じるサポーターは私だけではないはず。
2021シーズンは開幕スタートに遅れたが、今季はスタートからメンバーに名を連ねた。シュタルフ体制になり、彼が担った役割はLIHが多かった。
4-3-3のシステムで最も運動量が求められるポジションだったが、的確にタスクをこなしていた印象。3トップが中央を封鎖し、IHの前に奪いどころを設定することで、坪川や佐藤がボール奪取を狙う。坪川も長所の球際の強さで何度も攻撃の起点になる場面があった。
ただ、4-3-3のIHとしては出場機会があったが、シーズンを通してチームスタイルを構築していく中で、徐々にプレー時間は縮小していった。4-2-3-1に移行した第13節・第14節は先発出場を果たしたが、その後は途中出場などが続く。
今季のボランチに求められることは"展開力"だった。宮阪の立場を脅かすには至らず、"気が利く"プレーという点では水谷に及ばなかった。細かなパステンポで徐々に攻撃の厚みを増していく特長のある坪川にとって、今季のスタイルは、ややミスマッチだったのかもしれない。
契約満了となったが、中盤の底としての安定感は抜群。来季は富山への完全移籍が決まり、長野にとって厄介な選手の一人になりそうである。
水谷拓磨
出場試合数:31/34
出場時間:2,764分
成績:2G・1A
警告・退場:4・0
〈去就〉
→ブラウブリッツ秋田(完全移籍)
「個人昇格するんだろうな」「いや、最終節での言葉を信じたい」さまざまなパルサポの心の葛藤を生んだ張本人。見事に活躍が評価され、"秋田"への個人昇格が決まった。
今季の活躍だけでは言い表せないほどの貢献度を誇る3シーズンだったと感じる。ここ数シーズンの長野のLSBと言えば、彼の名前が間違いなく上がる。"気が利く"プレーが得意で、彼がいることで戦術の幅は一気に広がる。小柄ながらもセカンドボールの回収に優れ、相手の守備に息つく間を与えない選手だった。
今季もLSBを担うことが多く、彼に任せておけば安心という気持ちだった。チームスタイルの固定化によって、可変システムの中核を担うことに。サイドでも中央でも真価を発揮できる稀有な選手であり、何度も彼に助けられてきた。
シーズンが進むごとにキャプテンマークも似合うようになり、今季の長野を象徴する選手に。個人昇格は覚悟していたが、本当に"そこ"で良かったのか…という感情になる。
個人昇格は選手キャリアにとって素晴らしいことであり、これから更に活躍して欲しいと願っている。選手の個人昇格は喜ぶが、スカウトを長野に張り付かせているようなクラブには、相当の恩返しをしたいと執念(怨念)を滾らせておく。
牧野寛太
出場試合数:4/34
出場時間:40分
成績:0G・0A
警告・退場:0・0
〈去就〉
現役引退
2020シーズンの躍進を支えた大卒ルーキー。まさにフィリペ・コウチーニョと言わんばかりのスーパーゴールは今も脳裏に焼き付いている。
今季は昨季に引き続き怪我に悩まされたシーズンだった模様。怪我からの完全復活で長野のサイド攻撃を牽引する姿を期待したが、なかなかコンディションは戻らず。本人も自分の100%には程遠い状態と語り、現役引退を決意したシーズンだった。
ただ、昨季と比べてピッチに立つ回数は増加し、何度かサポーターの前でプレーする姿を見せてくれた。ポジション争いの相手が森川&デュークという状況もかなり難しくさせたのかもしれない。今季の長野にとって左サイドの攻守は生命線であり、焦る気持ちを抑えることも大変だっただろう。
彼自身がプロキャリアで過ごした唯一のクラブとして誇りに感じてくれていることが幸せだ。彼のために、という言葉は語弊があるかもしれないが、AC長野パルセイロというクラブが更に雄飛していくことを期待したい。最高の選手会長だった。
セカンドキャリアも素敵な環境で活躍して欲しい。
東浩史
出場試合数:25/34
出場時間:683分
成績:0G・0A
警告・退場:2・1
〈去就〉
契約満了
長野のNo.10の正統後継者。まさにMr.パルセイロだった宇野沢さんの後を継いでNo.10を背負うことはとてつもない重圧だっただろう。しかし、今では、長野のNo.10は東。この共通認識にズレはないと感じる。
今季は出場試合数こそ多いものの、プレー時間は十分に得られなかった印象。3列目やDFラインからのボールの引き出しに優れ、シュタルフ体制でも輝きを放つと思われた。ただ、序盤に採用された4-3-3においてIHは強度と運動量が求められ、なかなか先発の座は掴めなかった。
しかし、5バック採用時に宮本の相棒を務める際には出場機会を獲得。サイドに流れて引き出すなど、近年ではあまり見られなかったタスクも担った。
今季の2列目の選考には、強度に比重が置かれている印象が強く、カウンタープレス時に真価を発揮できる佐藤や山中が出場時間を伸ばしていく。出場した際には、そのタスクを担おうとする姿勢は見られたが、先発に名を連ねるほどの違いを見せることはできなかった。終盤に入るとベンチから外れる試合も増え、厳しいシーズンだったことが伺える。
長野のNo.10も今季で契約満了。同ポジションの選手と比べてピッチ上で活躍した場面は確かに少ないかもしれない。しかし、長野の苦しい時期も期待と重圧を一身に背負い、7シーズン戦い続けた。長野の一時代を築いたNo.10に最大の敬意を表したい。新天地での活躍も期待している。
デュークカルロス
出場試合数:31/34
出場時間:923分
成績:2G・5A
警告・退場:2・0
〈去就〉
育成型期限付移籍(岡山→)→相模原(完全)
今季の長野の切り札といえば、デュークカルロス。これは、パルサポが…いやむしろ、対戦相手のサポーターの方が鮮烈な印象があるかもしれない。
独力で左サイドを切り裂く力があり、長野のジョーカーとして力を発揮した。基本的に後半の攻撃力増強を図りたいタイミングで投入され、左サイドのタッチライン際で相手のRSBを切り裂く。そして、深い位置から精度の高いクロスを送り、お膳立てをするスタイルが十八番。
左サイドにおける左利きWGであるため、細かなドリブルで相手との駆け引きを制して突破するタイプではない。どちらかというと、天性の懐の深さを利用したパワー系ドリブルや相手から遠い足で触りながらスピードで突破するタイプだ。おそらく、右サイドで起用が少なく、カットインしなかったのも、この辺りのプレースタイルを考慮してのものだろう。
杉井とのコンビは、J3内でも推進力においてトップクラスを誇った。リーグの中でも彼を止めることができたDFは、片手に収まる程度だろう。それだけに、フィニッシュ局面で違いを見せられなかった点は、少し物足りない点でもあった。ただ、至高の突破を見せてくれる反動としての期待値の膨らみとも思えるため、まだまだ成長が見込めると感じる。
今季は、岡山からの育成型期限付移籍ということもあり、来季も戦力に数えられるかは不透明である。12月25日時点でのWGの充足具合を見る限り、交渉はうまくいっていない可能性が高いと見ている。唯一無二の能力であるため、残留決定となれば非常に戦力確保として大きいニュースだ。
三田尚希
出場試合数:32/34
出場時間:1,716分
成績:2G・1A
警告・退場:1・0
〈去就〉
契約更新(4年目)
苦しいシーズンを過ごした長野のエース。加入した2020シーズン、翌年の2021シーズンとチーム内得点王になり、長野の攻撃を牽引してきた。今季は、池ヶ谷と共に副キャプテンにも指名され、サポーターからも更に期待を寄せられていた。
シーズン序盤の4-3-3システムでは、これまでのシーズンと同じようにRWGを務めることがほとんどであった。しかし、これまでの2シーズンのように得点を記録することはできなかった。
序盤の無得点に関しては、個人の問題というよりも戦術とのマッチングによるものだと感じた。圧倒的な推進力を誇る左サイドからのクロスは基本的にファーサイドへの高いクロス。身長で優位のない三田が得意なシュートシーンは、相手DFの背後から一瞬で前に出るプレー。スピードのないクロスが多い状況では得点に結びつけることができなかった。
チームスタイルが4-2-3-1に変容していくにつれて、RWGの場所は佐藤や森川、デュークが出場するようになっていく。昨季までと比べると、先発起用される試合が減り、本人としても焦りがあったのかもしれない。
5-1-3-1→4-2-3-1の可変システムに移行する過程で、トップ下としてボールの引き出し役の能力を開花させる。元々ファーストタッチが上手い選手ではあったが、中央のスペースでの起用があるとは思っていなかった。
苦しみながらも第28節の愛媛戦で今季リーグ戦初ゴールを記録。信州ダービーでも得点を奪ったが、今季は2Gでフィニッシュ。得意の位置からのミドルシュートもなかなか決まらず、本人としては悔しい思いをしたはずだ。
Next No.10として筆頭候補だと思うが、あまり重圧を感じず、心からサッカーを楽しんでシーズンを送って欲しい。
宮阪政樹
出場試合数:29/34
出場時間:2,141分
成績:1G・2A
警告・退場:1・0
〈去就〉
契約更新(3年目)
長野のマエストロ。まさに攻撃のタクトを振るう指揮者である。間違いなく、今季の長野の攻撃を創る中心で、彼が不在となった最終盤で勝ちきれなかったことも何らかの因果関係があるかもしれない。
長短のパスを使い分け、ゲームをコントロールする典型的なプレーメーカータイプのボランチ。まさに長短のパスを駆使しながら、攻撃を組み立てていくシュタルフ長野には欠かせない存在だった。
起用ポジションは主に3列目。4-3-3ではアンカーを務め、4-2-3-1ではダブルボランチを、可変システムではアンカー&ボランチの一角を務めた。
4-3-3システムでは、彼のゲームメイクエリアを確保するかのように前方の5人が外へ相手の前進を追いやり、ポジティブトランジションでは、彼を経由して大きな展開を主攻とした。
4-2-3-1システムでは、4-3-3システムよりもボールに触れる回数が増え、CB-SB間や相手のプレスに対するギャップでボールを引き出し、食いついたところを持ち前の正確なフィードで打開してみせた。
J3における中盤の選手は強度の高い守備や広範囲のカバー守備を求められることも多い。おそらく、彼の得意とはしていない領域だろう。しかし、今季は途中からフィットネスも向上しているように感じた。被カウンター時、相手の攻撃の起点をクリーンなタックルで摘み取るなど、ベテランの域に達しながらもプレーに成長を感じた。
来季も大きく編成は変わらないため、攻撃の起点は、彼が担うことが多くなるだろう。しかし、今季の終盤の失速が「宮阪不在」によるものだとしたら、プランB・プランCを考える必要があるだろう。J3という環境で、ベテランが中盤のポジションで、これだけ稼働できるのは嬉しい誤算だが、放置していては、単なる依存になりかねない。
森川裕基
出場試合数:33/34
出場時間:2,547分
成績:3G・3A
警告・退場:4・0
〈去就〉
契約更新(3年目)
昨季に続いて今季も大車輪の活躍を見せた長野のダイナモ。累積警告による出場停止処分を除けば、全試合出場という圧倒的稼働率だった。
彼の持ち味はドリブルでの推進力に加え、高打点でのヘディングだろう。特に、ノリにノッている時の彼のドリブルは、止められる気がしない。大袈裟な表現かもしれないが、ドリブルしている時の姿勢や仕掛け方は、日本代表MFの三笘選手を彷彿とさせる。
また、攻撃の最終局面に限らず、持ち味の運動量と球際の強さを生かして、守備面でもチームを牽引する活躍を見せてくれた。攻撃的なポジションにおいては、基本的にどの位置で起用されても、及第点以上の活躍をしてくれる。そして、GK・CB・ボランチ以外のポジションでスクランブルが発生すれば、とりあえず森川出しておこう、と思えるほどの献身性が特徴だ。
今季のゴールは、全てクロスに対するワンタッチゴール。昨季もクロスからのアクロバティックなゴールを見せてくれたが、今季はそこに磨きがかかったように感じた。
推進力、献身性と非の打ちどころがない選手だが、欲を言えば、得点という形で、記録に残る活躍も見たい気持ちが強い。今季は、3G・3A。長野のチーム内では十分な活躍かもしれないが、J3優勝&J2昇格のためには、もっともっと数字を求めたい。
来季も怪我なく、1シーズンを戦いきり、持ち味である推進力で、長野をJ2まで押し上げて欲しい。
佐藤祐太
出場試合数:33/34
出場時間:2,813分
成績:2G・3A
警告・退場:5・0
〈去就〉
契約更新(2年目)
YS横浜からやってきたシュタルフチルドレンの一人。加入1年目ながら、指揮官の志向するスタイルへの適応や球際での強度など、今季の長野にとって、欠かせない一人だった。
特徴は何と言っても、プレス強度の高さ。チーム全体で相手のボールを奪いにいくフェーズでも、待ち構えて取り所へ誘い込んでから奪う守備でも存在感を発揮。彼の前にボールを無防備で晒しておくことは、猛獣の前に生肉を放置しているのと同義。鋭いプレッシャーで相手の自由を奪ってしまう。
今季は、累積警告による出場停止は1度のみ。プレースタイルからすると、少ない方だったのではないかと感じる。ただ、プレスの厳しさとファウルの多さは紙一重。強度を落としたくはないが、セットプレーで相手にチャンスを献上したくもない。個人ファウルの数はリーグで1位とやや気になるデータも見られる。来季は、もう一段階進化して、J2昇格を達成するために、ファウルとプレス強度の調整が求められる。
そして、何と言ってもゴールという結果も残したいところ。今季は、左サイドからのマイナスクロスから、ミドルシュートを放つ場面が見られた。ただ、もう少し枠内に飛ばして欲しい…。枠内にさえ飛べば、パワーは十分なので、ディフレクションなり、何なりで得点は増えるはずだ。
ポリバレントな活躍は来季もシュタルフ体制で求められるだろう。知り尽くした間柄だからこそ、あと一歩、二歩の飛躍を見せ、チームをJ3優勝&J2昇格に導いて欲しい。
山口和樹
出場試合数:4/34
出場時間:72分
成績:0G・0A
警告・退場:1・0
〈去就〉
契約満了→ラインメール青森
長野の小さな巨人。ピッチを縦横無尽に駆け回り、無尽蔵にプレスを繰り返す姿は、人一倍の闘志を感じさせるプレーだった。
ただ、昨季、今季となかなか出場機会を得ることはできなかった。昨季に関しては、横山体制でチームとしてもロングボールが多く、前線の選手にはポストプレーとクロスに対するヘディングゴールが求められた。IHとして出場するには、やや強度不足だったのか起用時間は限定的だった。
個人的に、シュタルフ体制になって、最も飛躍的な成長を期待していた選手だった。なぜなら、YS横浜にも上背はないながらも、テクニックとアジリティで優位性を作り出す選手がいたからだ。今季のスカッドにおいて、その役割は彼が担うものだと考えていた。
しかし、4-3-3システムでは、最前線の選手には独力突破が求められ、IHには昨季と同じく、カウンタープレスの強度が求められた。
4-2-3-1システムになり、明確な2列目というポジションが生まれたことで、出場機会が巡ってくるかに思われた。ただ、ルーキーの山中やエースの三田、ポリバレントな佐藤、新エースの山本と層は厚く、試合に絡める時間は限定的であった。
本人としては出場時間的に納得のいかないシーズンだったかもしれないが、出場した時間は、攻撃的な選手ながらも献身的なプレスを実行。試合終盤に、チームの足が止まりかける中でも、背中で牽引するようなプレーを見せてくれた。
この2シーズンで目立った活躍を見られなかったのは非常に残念。チームスタイルやJ3というリーグ自体の色など、適応に苦しんだ印象を受けた。しかし、住永と共にラインメール青森への移籍が決まった。ポテンシャルは感じさせる選手なだけに、チャンスを掴んで躍動する姿を見たい。