見出し画像

陽気山脈その後について

前回、陽気山脈最終回。


ゼッテェの中の人・まきむら「ゼッテェさん、死んじゃった!!!! ああああ、あの時トレーニングに成功しておけば……!」
テッペンの中の人・てら「テッペン、なんでゼッテェさんの時にクリティカル出さんかったん!!? 回復量12ぶつけたらゼッテェさんは生きてたのに!!!!」
エーイチの中の人・ながの「エーイチ、狂気山脈登る前よりSAN値回復しとるんやが!!!!(シナリオ成功報酬によりSAN75→SAN76)」

阿鼻叫喚がありつつも、一番衝撃的だったのは、その後やった大富豪の中でまきむらが発した「大富豪のパスミス、ゼッテェさんが死んだ時よりダメージ大きい」という一言だったと思います。突然人の心を置き去りにするんじゃない。

本記事では、キャラの設定とその後のエピソードについて書き連ねます。ゼッテェさんロストを癒やすためのセルフセラピーです。

【キャラの詳細について】


○テッペン・マッターホルン
スイスの某山にて、祖父母と牧羊犬、羊たちに囲まれてのんびり暮らす。しかし9歳の時に土砂崩れに巻き込まれ、家族と故郷を失い自らも重傷を負った。その後は父親に引き取られるも、愛情どころか関心すら向けられず、失ったものを埋めるように山に対する憧憬ばかりが強まっていく。
そんなある日、登山を通して一人の大学生と出会った。登山家を目指す彼は朗らかな人柄で、彼と関わる中でテッペンも次第に登山家を目指すようになる。
だが、その唯一の友人も山の事故で失ってしまった。親しくなった人全て山に呑まれながらも、帰る場所のないテッペンは、登山家になり山に登り続けるしかなかった。

○エーイチ・マイ・トッタルデ
元々はいい家柄の出身だが、自分の境遇に疑問を持ち民間の傭兵部隊に志願する。そこで前線に出て戦うも、ゲリラの襲撃に遭い多くの仲間を目の前で失くした。自分も重傷を負ったために、友人にドッグタグを託したが、なんやかんやで生還に成功。ドッグタグはそのまま友人に渡し、「これを持っていたら死ぬ気しないねー」などと笑い合った。けれどその一年後、友人は車の事故で呆気なく死亡する。友人の遺体は、自分のドッグタグを握りしめていた。
「死は都合のいいものじゃない。どんなストーリーがあってもお守りがあっても死ぬ時は死ぬ」。そう痛感しながらも、彼はドッグタグを持ち続けることを選んだ。友人がドッグタグを握ってたことも「彼が最後まで生きようとした証拠だ」と信じた。そういう理屈をつけた割り切り方をエーイチはこれまで失った全員にしており、全てを抱えて生きている。

○ゼッテェ・タス・ケルッテバヨ
根は快活な人柄だが、親友が山から帰ってこない時点で狂気に一歩足を踏み入れていたのだろう。常識的に考えれば「生きているはずがない」。そんなわけないのに「生きているはずだ」と思い込み、山に挑むことを決意した(正気はある。正気を失った自分が山に登らせてもらえるわけないだろうとわかっていたから)。
コージーを最初に止めたのは、「仲間だから」。だが次第に、「彼を連れていって、自分は友を見つけられるだろうか」と疑問に思うようになった。彼の目的は「親友を連れて帰ること」。コージーの能力では足手纏いになる可能性があった。それゆえ、他に降りる仲間がいるならと彼を帰したのだろう。
そもそも彼は、踏破が目的ではないのである。
ゆえに親友の死体を発見した時点で、彼の目的は終わったのだ。しかし親友の残した「山を登ってくれ」という言葉が、ゼッテェに目標をすり替えさせた。そしてゼッテェは約束通り、狂気山脈を踏破した。だがそれすらも達成したゼッテェは、その先に何も無かったのである。
親友の言葉に、山を踏破した先のことは書かれていなかった。
すがってまで生きたいものは、あの時の彼には見当たらなかったのだ。
だから、山肌に叩きつけられた時も腑に落ちてしまったのだ。自分は友と山に残るべきだと。それが山から友人を連れて帰れなかった自分の然るべき結末だと。
彼は、親友の眠る地での自分の死を納得していた。


【その後、飲み屋でのエピソード】


 テッペン、コージー、エーイチの三人で飲むことになった。飲み屋を選ぶエーイチは、ゼッテェとのことを思い出していく。オーストラリアで鍛えた一ヶ月の間、二人でランチに行ったことがあった。そこで強引にでっけぇ肉を食わせられたこと、案外美味しかったこと、「確かに美味しいですね」と彼のほうを見たら全然違うもん食ってやがったこと――(ゼッテェ「私は今日カレーの気分なんだ!」)
 店は決まった。きっと彼なら気に入ったろう店だ。だけど予約の電話しようとしたところで手が止まる。突然ボロッと涙が落ちた。「そうだ、そうだよな、こればっかりはな」と声を殺して泣くエーイチ。それでも泣くのはこれで最後にしようと思って、ひとしきり泣いてから店を予約した。

 当日、オシャレ&ブランド&TPOをわきまえた服で固めてきたコージーと、コンビニ帰りを拉致されたような服のテッペンと一緒に店に行く。当たり障りのない会話から始まるも、お酒が回るにつれまずコージーが喚き始める。「なんだよアイツ!」「わけわかんねぇ! どういう思考回路してんの!?」「どんな義務教育が組み込まれてたらああなるんだよ!」。宥めるエーイチ。傍観するテッペン。

エーイチ「でもさ、ゼッテェさんもコージー君のことを心から思っての行動だったんだよ」
コージー「にしたって手のひら返しがエグすぎだろ!」
エーイチ「ほんとほんと。ゼッテェさん、最後までコージー君を心配してたから」
コージー「嘘つけ! アイツがそこまで考えてるわけねぇだろ!」
エーイチ「そんなことないよ。心の中のことは誰にもわからない」
コージー「じゃあやっぱお前も聞いてないんじゃねぇか!!!!」
エーイチ「wwwww」
コージー「……で、入院中に聞いたアイツの声はなんて言ってたんだっけ?」
エーイチ「みんなで飲みに行ってくれって」
コージー「アイツマジ何なんだよ!」

 そのあとは浴びるように酒を飲んで、コージーはぶっ潰れた。体が冷えないようにエーイチが上着をかけてやってると、ぼそっと「絶対帰ってくるって言ったじゃねぇか……」と呂律の回らない言葉をこぼした。ぽんぽんとその背中を叩いてやって、エーイチは席に戻ってくる。
 するとテッペンがすんごい顔をしていた。……本当に微妙な変化だったが、エーイチは読み取った。トイレ我慢してる? 酔っ払ってる? ……いや、これ怒ってるのか? なんで?
 オロオロしながら「どうしたの?」と尋ねるエーイチ。テッペンはしばらく迷うように口を開けたり閉じたりしてたが、突然「エーイチさんはゼッテェさんが死んで辛くないんですか!?」と声を張り上げた。
 ……実際は周りの喧騒のほうがまだやかましいぐらいだったし、何なら久しぶりに出した大声のせいで掠れていたが、エーイチには今のテッペンの最大声量だとちゃんとわかった。
 普段は物静かな(かつ、推しの)彼にそう言われてショックを受けるエーイチだったが、同時に直感的にこれまでの自分の認識が間違っていたことを理解した。
 テッペンは、エーイチの行動を薄情なものとして見ていたのである。友人を亡くしたばかりなのに、なぜ彼を茶化して笑えるのかと。
 そんなわけがない。エーイチだって悲しかった。悲しいが、自分が悲しんでいることを当然周りも理解してくれていると思って振る舞っていたのである。それが共にゼッテェを助けようとしたテッペンなら尚更。わかってくれていると思うからこそ、コージーとふざけて笑っていられたのだ。

エーイチ「……」

 でもそれって結局暗黙の了解というやつで、自分が勝手にテッペン君に押し付けてただけのものだよな。反省したエーイチは、真剣な顔でテッペンに向き直った。

エーイチ「辛いよ」

 彼にもちゃんと伝わるように、全て本当の言葉でゆっくりと噛んで含めるように言う。

エーイチ「辛いし、悲しい」

【エーイチの独白】


「あの時、テッペン君が自分とゼッテェさんを呼ぶ声が聞こえて」
「絶対に生き残りたいって思った。テッペン君、僕が思ってるよりもずっと僕たちのことを仲間として見てくれてるってわかったから」
「だから岩肌に体を叩きつけられてめちゃくちゃ痛くても、直感的に自分は助かるってわかって、すごくホッとした」
「でも、ゼッテェさんはダメだった」
「一目見て、ダメだってわかった。神を信じてなくて良かったよ。あんな人を連れて行く神なんて、一生理解できないから」
「……だけど、ゼッテェさんは最後まで生きようとしてたんだよね」
「こう見えて昔傭兵だったから、人の死には何度か立ち会ったことがあるんだ。真隣にいた仲間の頭が突然吹き飛んで、体だけがごろっと転がったこともあった。だから慣れてるって意味じゃないよ。そういう人達は、みんな最後まで生きようとしていた」
「逃げる人も、敵に向かっていく人も。どんな大義や目的があったとしても、僕らはいつも生きるために戦った」
「彼らは全員生きたかった。でも生きられなかった。僕は全員助けたかった。でも助けられなかった」
「時には自分の命を優先して、助けられたかもしれない仲間を助けなかったこともあった」
「……後悔はしてるよ。全部覚えてて、ずっと悩んでる。ゼッテェさんのことも含めて、これからも僕は思い出し続けるんだと思う」
「だからね、僕は決めてるんだ。僕が死ぬ時は、せめて残された人が少しでも僕のことで苦しまなくて済むように、最後の最後まで全力で生きようって」
「死んでしまった。それでも生きて前に進もうとした。やれることはやった。これ以上はなかった。そうわかってもらえるように」
「まあ、そんな思いで生きてたら弾みで生還しちゃったりもあったんだけど……」

「……」

「生きててほしかったよ」

「生きて、一緒に飲みに行きたかった。そういや好きなお酒の種類すら聞いてないんだ。もっともっと、あのパーソナルスペースを許さない大きな声を聞いていたかった」
「でも、ダメだったんだ。どんなに悲しくても、これが事実だ。変えられない」
「そして事実は、受け入れても受け入れなくても、そこに転がってる」
「だから全部抱えて、理由をこじつけても笑って生きていこうって思うんだ。僕だって、もしもあの時死んだのが僕だったとしたら、残していくことになるテッペン君とゼッテェさんが気に病まないか心配したと思うからね」
「……いや、ゼッテェさんは平気かもな……。あの人なら葬式で僕の武勇伝を語り散らしかねないし……」
「……」
「……いいやつじゃないって思われるのは大丈夫なんだけど、ゼッテェさんの死を軽んじたり、悲しんでないやつって思われるのは、辛かった」
「たくさん話してごめんね」

「……」

「ゼッテェさんのお葬式に持っていく武勇伝、たくさんありすぎて話しきれるか不安だねぇ」

【独白のあと】


 話し終えたエーイチ、「やっぱり僕の態度が彼の勘違いを引き起こしたことには間違いないし、ますます気を悪くさせたかな……」とチラッとテッペンを見て仰天した。テッペン、ぼたぼたと号泣していた。

エーイチ「なんで!!???」

 慌ててよしよししたり背中をさすって理由を聞こうとする。テッペンは鼻をすんすんさせてつっかえながら、「すいません……嫌なこと言いました……」と蚊の鳴くような声で返す(自分でも理由はわからないが、情けなくて堪らなくなったらしい)。
 何はともあれ推しを泣かせてしまったことには変わりはなく、エーイチは動揺しまくる。テッペンは本当に長い間泣いてこなかった人間のため、泣き止み方もわからずただ涙と鼻水を垂れ流しにしてしゃくり上げている。
 エーイチは、ありとあらゆる励ましや慰めや謝罪を口にしていた。その中で「僕は死なないから」と喉まで出かけたのだが、思い直して口を閉じた。
 山に登る限り、どうしても死は付き纏う。エーイチはできもしないことを、ましてやテッペン相手には言えなかった。
 代わりに「何があってもテッペン君の勇姿を撮るために頑張るよー!」という言葉にすり替えたのである。しかし、その言葉にテッペンはハッと顔を上げてエーイチを見た。その眉はしょんぼりと垂れて、不安げにしている。「……無理はしないでください」とようやくそう言ったが、エーイチには、彼の言葉と感情が乖離しているように感じた。
 だからエーイチは、「今のテッペンを一人にしてはいけないんじゃないか」と思ったのである。彼は、エーイチが思っているよりもずっと不安定で、不透明なのかもしれないと思ったのだ。
 それにもしゼッテェさんが自分と同じ立場なら、しつこいぐらいテッペン君といるはずだ。これからもずっと彼に声をかけ続けようと決意して、「わかった」と短く返した。
 そしてこのタイミングで、テッペンの泣き声に別のくぐもった泣き声が重なった。コージーである。実は全然起きていたのだ。

コージー「クソッ、クソッ、クソッ! 何なんだよアイツもお前らも……!」
エーイチ「ごめんね。ハンカチいる? 予備持ってるからあげるよ」
コージー「いらねぇ! そんな安物!」
エーイチ「見てもないのに百均って決めつけるのよくない! 試してみなよ、吸水性高いしかわいいペンギンの刺繍もついてるよ」
コージー「百均じゃねぇか!!」

 コージーは泣き顔を見せたくないのか、テーブルに突っ伏したままグスグスしている。テッペンは顔を隠すのも涙を拭うのも思いつかないようで、エーイチにお世話されるがままである。収拾がつかなくなってきたし周りの目もすごかったため、エーイチは撤退を決めた。
 会計を済ませ、近くのホテルに入ってダブルベッドに酔っ払い二人を投げ込む(お水を飲ませ、靴や上着は脱がした)。うっかりいつものクセでそれなりに安価な部屋にしてしまったためソファなどはついておらず、エーイチは床で寝た。
 テッペンは久しぶりに泣いて疲れたので、泥のように寝ていた。
 翌日、コージーは自分がいながら一番いい部屋を取らなかったことをエーイチにキレ散らかしたあと、ホテル代全額払って帰っていった。そのあとのそのそテッペンが起きてきて、家まで送ってあげて解散。

【更にその後】


 なんやかんやでテッペンは登山以外はポンコツ(てらさん談)なので、見かねたエーイチがマネージャーを買って出て、そこから「これもう一緒に住もう!!!!」ってなるんじゃないかって話です。案外楽しくやっていくんじゃないかと思います。

フジサンはエーイチの実家で飼ってる柴犬です

仲良し。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?