「本とふれあう」と「いわき街なか一箱古本市」のコラボを終えて
本好きの方は基本的に、個人活動が好きなインドア派が多いですよね。自分が好きな本のことを白昼堂々語りあうなんて、ありえないと思ってました。でも、集まって語りたいときもあるはず。
2017年6月。福島県の浜通り地方で初めて「いわき街なか一箱古本市」を、もうひとりの実行委員・高木徹さんと一緒に開催したとき、いわきの本好きの方が年に一度や二度、「本」をネタに集まって思いきり交流し、笑顔になれる場所があればと思って始めました。やるからには、10年は続けるつもりでいました。
「一箱古本市」は、2005年に東京は谷中・根津・千駄木で行われた「不忍(しのばず)ブックストリートの一箱古本市」が発祥とされています。
みかん箱一箱ほどの箱に自分が好きな本を詰め込んで街なかの歩道や神社などのスペースに出店し、1日限りの古本店主として、お客さまとのふれあいながら古本を売る、という催し(というよりコミュニケーション・システム)が全国各地で行われています。
出店者は商売でやっているプロもいれば、素人もいる。好きな本や作家の話で盛り上がったり、値切り交渉もまた楽しみのひとつです。そして来た人に「街」の魅力を知ってもらうことも「一箱」の大きな役割です。
いわき街なか一箱古本市は、最初、地元の方に理解していただくのに苦労しました。出店者は県外の方が多く、いわきの方に「一箱」のことを理解していただき、出店していただくには、何かハードルの高さがあったようです。告知や集客も、最初の数回はハラハラドキドキの連続でした。でも、県外からの常連出店者の方が様々な趣向を凝らした品揃えで出店されているのを見て、地元の方々も「楽しそう」「自分もやってみたい」と思い始め、出店数が増えていきました。
転機は2020年、湯本駅前Akiちを“本拠地”とするようになってからです。出店者の募集は開始から数日で締切になり、派手な告知をしなくても、春秋、年に2度の「一箱」の開催を楽しみに待ってくださる方が増え、湯本の方に温かく迎え入れられ、応援していただいているという感覚をひしひしと感じました。コロナ禍に開催した時も、皆さん喜んで来てくださいました。会場のすぐ近くにミニシアター&ミニ書店Kuramotoさんがあって、いつもコラボ企画を考えてくださるのも大きいです。
市内、県内各地の出店者も増えましたが、茨城、宮城、山形、東京、千葉、長野など県外からの常連出店者は「湯本」という街と人が好きで、毎回開催の前後に温泉や宿泊、観光を楽しまれるのを楽しみにしています。
この秋の「一箱」に合わせて、じょうばん街工房21さんが、あとちで「本とふれあう」というイベントを開催されると聞いたとき、今までの自分たちの活動が報われたと思うと同時に光栄なことだと感じました。
当日のあとちの光景は忘れられません。市立図書館は約20年ぶりにイベントに「移動図書館」を出車しましたが、何より職員の皆さんが嬉しそうでしたね。ふだんの移動図書館は滞在数十分単位で慌ただしく次の会場に移動しなければならないのに、今回はじっくり落ち着いて利用者と交流ができたと。常磐図書館や内郷図書館のスタッフさんも自主的に様子を見に来ていました。総合図書館の武井館長がニコニコしながら「みんな、こういうことをやりたいんだよね」とおっしゃっていたのが印象的でした。
市立図書館が出張するのなら、芸術文化もこの空間に参加しないわけにはいかない、と、私の職場いわき芸術文化交流館アリオスの常設の弦楽四重奏団ヴィルタス・クヮルテットにも出動してもらいました。屋外で、第一ヴァイオリンの三上亮くんの名器ストラディヴァリウスが気持ちよさそうに響くなか、演奏を聴くために来た人、本をめくりながら聴く人、キッチンカーから供された食事を頬張りながら聴く人、あとちに備え付けられた土管でわいわいあそぶ子どもたち、など、思い思いの時間を過ごされている多様な風景を見られたのがよかったです。一箱古本市の出店者も、店番そっちのけで、あとちにあそびに来ていましたね。クヮルテットのリーダー丸山泰雄さんも「皆さん集中して聴いてくれて嬉しかった。こういう空間で演奏することは、ホールで演奏するのと同じくらい大事」とおっしゃってました。
湯本駅前はこのあと再開発が進み、図書館機能やホール機能を有する複合施設が建設されると聞いています。今回Akiちの「いわき街なか一箱古本市」と、あとちの「本とふれあう」、なにもない空き地空間に「本」をキーワードとしたいろんな人の知恵が結集されて、多世代の多様な交流が生まれたことは、未来に向けた大きな一歩、夢のスケッチができたのではないでしょうか。
湯本には、なんでしょう、自分たち自身で気づいていないかもしれませんが、他のどこの街にもない、温泉に似た温かさと慈味ある人が溢れていて、温泉×本×文化を掛け合わせたら、他のどこの街にもない魅力的な街が立ち上がるのではないかと思います。本×湯(ほんとう)の街、湯本。そこにフラ文化とスポーツ文化もあるのですから、湯本、最高です。
ハードも大事ですが、そのまえに、何より、そこに住む人のハートが何より大事だということを教わりました。ありがとうございます。
長野隆人(いわき街なか一箱古本市実行委員)
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