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喫茶店はあるとき忽然と姿を消す。そのあとコミュニティやカルチャーはどこを彷徨う

 職場のいわきアリオスからほど近い老舗喫茶店の「風車」(ふうしゃ)が2024年末をもって終業したという話には、SNSの友達の間でも驚いたりショックを受けたりという反応を示したひとが多かった。通りを挟んで向かい側にデパート大黒屋(2001年倒産)があったころから営業していたわけだから、ある程度の年齢の方々にとっては、幼少期からの思い出のメニューのひとつやふたつもあるのだろう。いわきに働いて18年目の私は、ここではハンバーグカレーとハンバーグ(てりやきソースの)ばかり食べていた。ちょっと珍しいお客さまが来ると連れて行く、そんな香るお店のひとつだった。
 で、年明けに店の前を通ったら、以前出ていたのと同じ「しばらくの間休業します」という貼り紙が貼ってあって、ホントのところどうなんだろうと思わなくはないが……。

 職場の広報紙アリオスペーパーでまだ市民編集部員を募って活動をともにしていた2010年代、広いいわきの「まちネタ」で各々が興味を持っていることを持ち寄り、みんなで掘り下げて共有していく取り組みをしていた。取り組み、というより、クラブ活動、あそびに近いところもあったと思う。
 「ホールや劇場は音楽や劇を観聴きするところだろ」という考えを持っている人からすれば「何を関係ないことで油売ってるんだ」とツッコミたくなるかもしれないが、地域の劇場や音楽堂は周辺のまちや住民の皆さんの存在や、その生活との接続なしには、浮世離れした島も同然だ(「非日常の空間」と言われてますから)。そんなわけで、近場で商いをしている方々、施設から離れたエリアで生活しながら意欲的な取り組みをしている方々に興味を示し、それを知らない人に紹介することも、重要な「文化活動」であると思う。そしてみんなで興味をもって深掘りした先には、地域にとって大切な歴史やカルチャーのしっぽを掴めることがあるのだ。アリオスペーパーの編集部員制度はその後自然消滅したが、その気持ちは今も変わらない。

 それで、編集部員たちと話しているうちに、「いわきの喫茶店文化は独特だよね」という話になったことがあり、それぞれの部員たちが興味の赴くままに近場の喫茶店に足を運び、何を食べた、お店の人はどうだった、ということを部員のメーリングリストで投稿しながら盛り上がっていた時期があった。それをgoogle mapに落としてマッピングし、何かに役立てようとしていた。
 改めてそのマップを見直してみたら、2016年に最終更新したままの状態だった。いま思うと、情報を更新しないまま残していたがために、さまざまな感慨を催させる資料になった感がある。

■アリオスペーパー編集部員編いわき気になる喫茶店マップ
いわき平のまちなかを中心に、テーマごとにマッピングして、コメントを入れてみようと思います。(例:喫茶店、映画など)
(2025年1月6日現在)
表示回数 3,607 回
最終編集: 2016年5月14日
※クリックするとgoogle mapに飛びます

 地図には入ってなかったけど、堂根町の食堂「一膳」の上には「オニオン」があったし(メニューにないものでも何でも作ってくれた)、その近くには、ギャラリー併設の「かいわい」→「キタオ」(これはレストラン)もあった。
 地図にはないけれど今もやっているお店としては、いわき市文化センターの地下の「ハニー」は健在だし、童子町の「キャロット」も、鍛治町の「オードリースタイル」(2011~)も長野のローテーションには入っている。

 それにしても、「ザ・喫茶店」というお店が、この8年で次々と姿を消していることに改めて驚く。
 常連とかでなく、時々気が向いた時に気が向いたお店にふらっと行くような客にすぎない私からすれば、ある日お店の前を通ったら、忽然となくなっていてびっくりするようなことが続いた。
 地図上にあるだけでも、“純喫茶”と言っていた「ウインザー」、「挽歌」、「オフィス」、「珈琲レイ」、「ボナンザ」。一時期人気を呼んでいた「ブルボン」も最近営業している様子はない。
 気が向いてモーニングを食べに行くと、毎朝のように来店しモーニングを食べながら、新聞を読んだり、常連同士やお店の方と談笑していた喫茶店コミュニティの日常があって、ちょっとうらやましく思いながら素知らぬ顔して飲み食いしていたお店たち。その人たちはどこに行ってしまったのだろう。

 喫茶店というより、カフェの時代に完全に移行中ということなのだろう。
 2018年以降は、特に顕著な気がする。

 いわきアリオス2階には2009年からアリオスカフェがあり、2021年に実質クローズ、2023年からはピッケニッケに生まれ変わった。
 2018年4月、いわき駅前ラトブ1階銀座通り側に福島県発進出のセガフレードザネッティがオープンした(2024年12月現在、予約のある日以外はオープンしていない)。
 2018年6月には、堂ノ前にスターバックスがオープンした。
 2018年1月、谷川瀬の競輪場のすぐ近くにタローズカフェがオープンし、2024年10月に、すぐ近く、和食店の「柚香」のあったところに移転オープンした。
 2020年7月にはベストファームのなかに、+best cafeができた。
 2020年11月には、いわき駅真ん前の綿引ビルにKEY'Sカフェができ、撤退後、2023年2月にはラトブから移転したStrow Kitchen cellが跡を継いだが、こちらも 1年経たずに閉店した。
 2021年11月、並木通りにあった喫茶店「讃香」が同地区の再開発に伴い、平白銀に移転。
 2022年10月にはマクドナルド平店が、スターバックスにほど近い中町にオープン。
 2023年1月にはいわき駅ビルS-PALにタリーズができた。
 2023年3月には、小島町の喫茶店「挽歌」のあったほぼ隣に「小さな森珈琲」が開店した。
 2024年10月には、同年2月に開業したpaix paixのケンタッキー・フライドチキンの上階に、軽食と甘味「あまや」がオープンした。

 こうした流れを見てみると、
 ある意味“盤石”な「喫茶店」は、SNS映えするメニューがあるブレイクや、ジュネスあたりしかないのかもしれないとさえ思う。

 古くから地元にいる方々に聴くと、(2008/平成20年に引っ越してきた)私が知りえたいわきの喫茶店の前、昭和の時代にはいわき駅前にジャズ喫茶が乱立していた時代があり、「いまの〇〇のところに、〇〇というお店があって……」という話を、書ききれないほどのスピードで矢継ぎ早に説明されたことが一度ならずともあった。いまのLATOVの三田小路側で営業していたという、いわき市初の洋食店「福寿軒」は、多くのクラシック音楽ファンの溜まり場だったという話を聞いたこともある。そういう話を聞いただけでも、当時、笑顔で、ときに激しい議論を交えながら語らっていた人たちの風景が絵に浮かぶようだ。
 そういう喫茶店や飲食店、そこの主人やマダムを交えながらわいわいと醸成されたコミュニティや愛好家とよぶべき存在たちが、今に至るまで何等かの形でいわきのカルチャー・シーンを支えて来たのではないかと思う。いわば、“まちなかの部室”のような存在としての喫茶店の役割。
 存在している時には当たり前すぎて、失われても、そこに客観的な価値づけさえされないほど、さりげなく、しかし大切だった存在。
 街のなかで物好きがなんとなく溜まって、しらふでも延々しゃべれる空間が減ることは、長い目で見ると地域の文化を、回復できないところまで痩せ細らせるのではないかと思う。
 そういう、誰からともなく自然に溜まれる場、語れる場を街なかに意識的につくらないと、これから持たない時期に入ったのかもしれない。

 そして、そうした系譜がついえないうちに記録として残し、本に残ったりすることもない、こうした「ひと」と「好き」の系譜が残され、有形でも無形でも、形を変えながらでも、その背骨、たましいやあり方の本質が受け継がれていくことが大事なのではないかと思った。

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