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「森がキミの力になる」伊香高校「森の探究科」チームに突撃してきた

こんにちは!「長浜森の生活史」第10弾は、滋賀県立伊香高等学校森の探究科(もりのたんきゅうか)」チームにインタビューをしました。
2025年度に開設される伊香高校の新学科は、なぜ「森」がテーマなのか?そんな疑問をぶつけに高校に突撃しました。
今回も楽しんでお読みください!

チーム6名のうち、5名にお話を伺いました!

「森の探究科」チーム(森探チーム)
2025年度に開設する新学科「森の探究科」を推進するチーム。伊香高校校長、教員2名、地域連携コーディネーター3名の計6名で構成される。

聞き手:辻本果歩(かほ)・土屋百栞(もも


なぜ「森」?

もも:来年から、新学科「森の探究科」ができるとのことですが、そもそもなぜ「森」なんですか?
森探チーム:伊香高校(以下、「伊香高」)は、自然が豊かな滋賀県最北部にあります。私たちは、森をはじめとした自然が、この地域の一番の資源だと思っています。子どもの数が減り続ける中、「この地域ならではの自然資源を活かして、なんとか高校を存続させたい」というのが最初の思いでした。
実際に新学科ができるきっかけとなったのは、2022年に起こった、市内を流れる高時川の氾濫です。これはすごくショッキングな出来事で、「環境のことを本気で考えなあかん」と強く思い、新学科創設に向けて動き出しました。

生物室でお話を伺いました!

かほ:「森の探究科」では、どういうことを学べるんですか。
森探チーム:「森のキホン」「森の恵み」「持続可能な社会」「森の未来創造」の4つの科目を、座学と実習を通して学びます。
「森のキホン」では森林生態系や林業・木材の現状を学び、「森の恵み」ではジビエなどの食文化やデイキャンプといった森林空間の利用、木育などについて学びます。
さらに「持続可能な社会」では、自然エネルギーなどのエネルギーについて学び、循環型社会のあり方を考えます。最後の3年目は、これらの学びをもとに各自が探究テーマを決定し、自分の興味関心があることを究める「森の未来創造」に取り組みます。
学校の裏には木之本地域の共有林があるので、実習ではそのような地域のフィールドを使わせていただく予定です。また、湖北地域の森と結びついた文化や、滋賀県ならではの琵琶湖をテーマにした学びもあります。

「森の探究科」のカリキュラム

森で学ぶと、選択肢が広がる

かほ:「森の探究科」と聞くと、生物や林業に特化して学ぶイメージだったんですが、いろんな分野を学ぶんですね。
森探チーム:「森の探究科に入ると進路が狭まってしまう」と思われる方がいるかもしれませんが、そもそも森自体が多面的な分野なんです。自然科学だけじゃなくて、食文化や教育も関わってきます。なので、文系・理系を超えたイメージで捉えてほしいなと思います。
また、学科区分は普通科なので、普通科の学びもしっかりあります。普通科にプラスアルファで森を学ぶので、進路は狭まるよりむしろ広がると考えています。
もも:塩のり子さん(長浜森の生活史#9で登場)のような、地域の方が授業をする時間もあるんですか?
森探チーム:はい、地域の専門家に授業をしていただく時間をたくさん設ける予定です。伊香高は、2022年に地域連携の実践モデル校になったことをきっかけに、地域連携に取り組んできました。2023年だけでも、約60団体、のべ100人以上の方々が携わっています。こんなにいろんな方々に関わってもらっている学校って、そうそうないと思います。

ヨガの講師から、森林空間の活用方法を学ぶ

森探チーム:しかも、長浜市は自然にかかわる分野で活躍する人がたくさんいる場所で、普通の高校生活を過ごしていたら会えないような人たちに、授業を通して会えるんです。高校生のうちに多様な生き方に触れられるというのは、本当に価値のあることだと思います。

アウトプットするからインプットしたくなる

もも:「森の探究科」開設に向けて、これまでに校外実習などのプレ授業を積み重ねてきたと聞きました。生徒さんの反応は、どんな感じなんですか。
森探チーム:聞くだけの授業のときはあまり積極的ではない子も、やっぱり実習は楽しく取り組んでいますね。特に、近くのこども園の子どもたちに、学校の敷地にある樹木などを紹介して、一緒に散歩をする授業が印象的でした。普段の授業では寝ているような子が、一生懸命に樹木の名前を覚えたり、子どもたちの世話をしていましたね。園児もすごく伊香高生に親しみをもってくれていて、高校生たちは、他者から必要とされていることを感じられたんじゃないかなと思います。

園児と一緒に、森を探検!

森探チーム:授業後のアンケートにも、「もっと植物のことを勉強したい」「次は違う生き物のことを教えてあげたい」といった、「もっともっと」という前向きな感想が多かったです。アウトプットするからインプットしたくなる。その循環が生まれていました。
もも:伊香高の近くで毎年開催する縁日でも、伊香高生が出店したんですよね。
森探チーム:地域のパン屋さんと提携して、伊香高生がメニューを考案するというプロジェクトを行いました。ドリンクを作るチームと団子を作るチームに分かれて、ドリンクのコンセプトは「好きな人がいる人が、待ち合わせの前にちょっと飲めるようなメニュー」、団子のコンセプトは「部活帰りの高校生が食べる、晩ご飯までのつなぎになるようなメニュー」でした。
かほ:全然違うベクトルでおもしろいですね(笑)。

縁日で、いざ出店

森探チーム:ある調査で、大学生に「今入っている学部を変えてみたいですか?」という質問をするものがあって、「変えたい」と答えた人が3人に2人だったんです。その大きな理由は、高校生のときに考えて実践する機会が少ないからだと考えています。その結果、高校卒業後にやりたいことと実際の進路のミスマッチが起こってしまうんです。なので、伊香高は「考えて実践する」現場主義のカリキュラムを大切にしています。

伝統校だからできる、新学科づくり

森探チーム:この地域に住んでいる、伊香高出身の人ってすごく多いんです。だから、伊香高が何かをしようとすると、応援してくださる方がたくさんいらっしゃるんですよ。今回の「森の探究科」創設にも、いろんな人に支援していただいて、地域との結びつきの強さを感じています。
もも:伊香高が開校してから、今年で128年目と聞きました。すごく伝統のある高校ですよね。
森探チーム:最初は、農業高校だったんです。だから、そのときの名残が校内には残っています。例えば、歴代の人たちが授業などで植えたいろいろな種類の木がたくさん残っているんですが、建物を建てる際にわざわざ「校内の違う場所に移植した」という記録が全部残っているんです。あと、ハッカのオイルを作るといった、地域資源を使って研究開発をしていた記録もあります。自然と向き合いながら、地域資源をどう活かすかということに取り組んでいたんですね。それを今、再び違う視点で、現代に合ったものとして「森の探究科」を作ろうとしているのかもしれません。
かほ:原点回帰みたいな思いがあるんですね。

昔は「伊香農学校」でした

森探チーム:今まで積み重ねてきたものを踏まえつつ、新しいことにチャレンジできるのは私たちの強みだと思います。今回の「森の探究科」創設に関しては、いろいろな意見をいただいたり、財源の問題があったりと、もちろん難しいことはたくさんあります。でも、やらない理由を並べていては何も始まらない。新しいことを始めるには、従来の枠を超えた発想が必要なんです。でも、それが未来の普通を作ることにつながる。そう信じて、20年、30年先を見据えて取り組んでいます。
「森の探究科」ができたら、森に関心があって実践を積んだ子を毎年40人、地域から輩出することになるんです。3年続けたら120人、30年後は1200人のプレイヤーがいる地域になると思うと、すごいことですよね。そんな取り組みを続けられるように、まずは、第1期生となる40人が満足するような探究と進路をつくることを、一番に考えています。

森がキミの力になる

もも:進路の話が出ましたが、「森の探究科」卒業後はどのような進路を想定しているんですか。
森探チーム進学から就職まで幅広く想定しています。進学先としては、環境系や地域政策、教育といった文理を問わない分野を、就職先としては、工務店や公務員、森林サービス事業者、環境に配慮したものづくりを行う企業などを想定しています。
そのような希望の進路に進めるようにサポートするのはもちろんですが、誤解を恐れずに言うと、森で学んだことが必ずしもそのまま進路につながらなくてもいいんです。卒業して壁にぶつかったときに、「山で汗をかいたら気持ちよかった」「やっぱり森っていい」と、自分が生き生きしていた時間を思い出してくれたら、きっとそれはその子の力になると思うので。いろんな人との出会いの場であり、自分の手を動かす実践の場であることが、一番大事なのかなと思っています。
かほ:まさに、「森の探究科」のキャッチフレーズ、「森がキミの力になる」ですね!

「森の探究科」のポスター
なんと、伊香高を卒業した美大生が作ったもの!

森探チーム:本当に全部、試行錯誤の連続ですが(笑)。でも、今はゼロから作っている段階なので、思いが一番乗っかっている時期なんです。試行錯誤を重ねた、血肉が染みついたようなカリキュラムだと思っています。
なので、新設だからこそ、来てほしい。学校の中だけじゃない、リアルな学びをしてみたいという人に、本当におすすめしたいなと思います。

ありがとうございました!

編集後記(もも)
「森の探究科」のカリキュラムを見て、「こんな内容、高校生の時に受けたかった~!」と心から思いました。
「森の探究科」に行ける子が、心底うらやましい!
こんなに考えられたカリキュラムは、相当な熱量がないと実現できないと思います。校長先生を筆頭に、森探チームのみなさんのアツい思いを感じました🔥
次回は、森の案内人・三浦豊さんにお話を伺います。次回もお楽しみに!

<聞き手・ライター>
辻本果歩(かほ)
1997年生。兵庫県西宮市出身。2023年秋より、長浜市の地域おこし協力隊に着任。テーマは、シェアリングエコノミー。

土屋百栞(もも)
1997年生。茨城県つくば市出身。2022年秋より、長浜市の地域おこし協力隊に着任。森林浴などの活動を通じて、自然との結びつきを感じる機会づくりを模索している。

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