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暗闇のマリア(習作『暗闇の丑松』より)#002 バレてるって
#002 バレてるって
そういうと徳さんは、通り過ぎざまにサラッと私の胸の谷間を見て出て行った。
男はどうして自分の視線が女にバレてるって分からないんだろう?ヌーブラが入ってることも見抜けないし。私なんて堂々の二枚重ね。二枚重ねになってから男の目線が胸元に落ちる確率がぐっと上がった。どうも男ってのは胸は大きければ大きいほど良いらしい。
そんな徳さんの後ろ姿にオーナーが
「あっ徳さん!すぐ終わるんで、すみませんが、店の電気落として、玄関鍵かけておいてくれませんか?もう店じまいしたってことにして…。」と、声をかけた。
「ああ、分かったよ。」彼はぬるい返事をした。
彼女は私の隣に親しげなオーナーとして座ろうと、ソファの自分の座るところを手でポンポンと払うと、その汚れが気になったのか、左手にあったスツールをとってそちらに座った。
「もう何度も言ったんだから分かるでしょ」
彼女はスマホを取り出すと、とりとめなく何かを確認し始めた。どちらも話さない長い時間が流れた。多分、それを長いと感じたのは私の方だけだったかもしれない。
「女の売り時なんて一瞬で終わっちゃうんだよ。あんな甲斐性なしなんて捨てちゃって、贅沢な暮らしすればいいじゃないか?誠じゃ、良い服なんてちっとも買ってくれやしないだろ?アンタがじっと見てるこの服だって今のままじゃ一生着れないよ」
人は自分のことが一番分からないって誰が言った名言だったかな?私も私のことが一番分かってないらしい。
「ねえ、考えてもごらんよ、女は若いうちを楽しむだけ楽しまないともったいないとは思わないのかね」
私のスマホが鞄の中でLINEの着信を知らせた。誠からだろう。
「誠なんていくら腕が良くても一流ホテルの料理人じゃ無いんだからさ。うちの店でフルーツ切ってるだけじゃ一流にはなれないのよ。それに比べりゃDAIFUKUの社長なんて年は食ってるけど金はあるよ」
「私だってこの店持つまで随分苦労したんだよ。利口と馬鹿の違いなんてないんだよ。今時は金があるかないかさ」
「あんたが決心してくれれば、私の店だって安泰だし…だから」
「なによアンタも。古いわね。いいじゃないの金持ちが面倒見てくれるって言うんだから。」
「私の知らないうちに店の子に手を出した誠も悪いけど、アンタもアンタさ。アンタが一人前に暮らしてゆけるのは誰のおかげよ。世の中みんな派遣派遣、ワーキングプアとか言って貧乏してるんだから、なめちゃいけないよ。金持ちと貧乏人の分断はドンドン進んでるんだから。スマホは持ってるけど、明日の食べ物が無い若者なんていっぱいいるんだからね。アンタと誠が結婚したら、どうやってやってゆくのよ!誠が店が閉まった後、こっそりこの部屋に寝泊まりしてるのだって私は知ってるのよ。ここ追い出されたらどうするのよ。ネカフェ住民にでもなるの?」