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廃ホテルから出てきた彼らは、葬列に並ぶ人たちのように悲しみにくれ、そうしてフラフラと前に…
秋という季節が好きだ。 夜が長いからだ。そうして冬みたいに寒くない。 朝は苦手だから夜は…
空が落ちてくる。 大地が浮かび上がる。 ぼくのせいだろうか。 ラッパ吹きの天使がもうすぐ…
美術館前のあの噴水には、もう色付いた落ち葉が浮かんでいる。 ここから見える銀杏並木の山吹…
あなたがやって来たのは、ちょうど私があなたのためのケーキに粉砂糖を振りかけようとしていた…
彼にダイヤモンドをあげた。 透明なキラキラしたダイヤモンドをあげた。 彼は喜んで受け取ろ…
あかい。まるい。おおきい。うまい。「あまおう」である。はたしてこれは本当にイチゴを指す形容詞なのだろうか。あまおうを知らない人にこの単語で連想するものを答えさせたらそのほとんどが別な果物を答えるのではないかと私は思う。林檎である。これこそあかくてまるくておおきくてうまい、あまおうであると、私はそう思うのだ。むしろあまおうが指すのは紛うことなき林檎そのものではないか。僕は紅玉を丸かじりにしながらそんなことを考えていた。
ここ数日読んだ、何冊かの本の中に冷めたコーヒーを飲み干す描写があった。 依頼人と探偵の間…
風が吹いた。その風はどことなく懐かしい香りを孕んでいた。 私は今日久方ぶりに実家に帰って…
翻る。 風に乗る。 尾鰭がつく。 朝、目が覚めたら一番に白いシャツを干す。 翻る。 風が…
ただ立ち尽くしている。ここは交差点の真ん中。前進すればいいのか後退すればいいのか、右折す…
沈む太陽よりも赤く、輝く月よりも白いその実は目の前にあった。 名を林檎という。 私がそれ…
そのダイヤモンドは夜に光る。 星の光で燃え上がる。 電子レンジは軋み、唸り声を上げる。 …
アップルパイの匂いがキッチンから漂ってくる。 白いレースのテーブルクロスの上にそれはある。 柔らかな光が頭上の小窓から降り注ぐ午後。 あの人はまだ帰ってこない。 あの人はいつもたくさんの花の匂いを身に纏わせてキッチンに立っている。 そうしていつもこちらを振り返るとにこりと微笑む。 ドアの軋む音が聞こえる。 吹き込んできた風は馴染みの花の匂いを含んでいた。 開けられたドアが大きな音を立てて閉まる。 あの人はまだ帰ってこない。