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【31】アルミニウムの色さえ愉快で

皆さんは、「怪談」は好きだろうか?

放っておいても外気に触れれば身震いなどいくらでもできるこの季節には、いささか似つかわしくない二文字かもしれない。
僕は自分のことを怪談好き、ホラー好きとは然程思っていないが、歳を重ねるにつれ、いちジャンルとして興味を持つようにもなってきた。

ホラーとは少し違うけれど、「恐怖」という感情が自分にとって良いエンターテイメントになるなと感じたのは、海外ドラマにハマりはじめた7〜8年くらい前だったかと思う。
仕事の疲労感やストレスなんかを紛らわすのに、コメディやヒューマンドラマよりも、ホラー作品の独特な嫌悪感の方が集中力を掻き立てられて都合が良かった。

その後、コロナ禍になってYouTubeというものに出会い、ゲーム実況という文化に触れると、世の中にはこんなにホラーゲームが多いのかと気付かされた。
やはり、似たような理由でホラーを楽しみたいと思う人も多いのかもしれない。

さらに昨年、吉本興業でピュートというコンビで活動しているお笑い芸人のポイント君が怪談チャンネルを始動させた。
僕も人生唯一の奇妙な体験をポイントに話して採用してもらったことがあり、それまでホラーといえば映画やドラマ、ゲームのみであったところに「怪談」という新しいポケットが作られることになる。


そんな前置きを踏まえて、本著を紹介したい。

皮肉屋文庫「夜警ども聞こえるか」読了。

皮肉屋文庫とは出版社ではなく著者の屋号。
Xにて創作怪談を投稿し話題となった人物の書籍が発売され、以前より投稿作品を楽しんでいた僕は悩むことなく予約をした。
読み切るまでにかかった時間は、舞台稽古に日の多くを割きながら、2日もかからなかった。


作中には、「多くの怪談が吹き込まれたボイスレコーダー」が登場する。
このボイスレコーダーに録音された数多の怪談を再生していくという作業が、本書の大部分を占める。勿論、読者は実際には活字を読むのみだが、ボイスレコーダー再生に至る経緯、怪談を語る人物やその環境などに関する情報が適度に補完されることで、本人から耳で聞いているような想像もさせてくれた。語り部によって一人称はもちろん、その語り口も様々で、時には奇妙な絵や無機質な写真が添えられたりもする。ボイスレコーダーなのに何故と思われそうだが、「筆者」はとある経緯で、とある一室で、とあるデータと共にこの音声を聞いていて、読者もその筋道を一緒に辿っているのだ。
収録されている怪談の中には、書籍発売前からXに投稿済のものもあり、あぁこれ怖かったなと思い出して身構えたり、読み返すことで考察が深まったりするものもあった。

読みやすいというより、
気付くと読まされている、という感覚だった。
それは恐らく、ボイスレコーダーのトラックを次に送るのと、さして変わらない感覚なのだろう。
「空白には 必ず 何かが 紛れ込む」
帯に書かれた一文は、全て読み終わった後だとより意味深に思えた。


考察、という言葉を使ってしまったが、僕は元来、考察が必要な物語はあまり好きではない。
100人が物語に触れたら100通りの感想や受け取り方があって然るべきだと思うが、それは受け手がそれぞれの人生や経緯に照らして作品を受け取るからであって、創り手が辻褄を放棄する免罪符にはならないと思う。

そのあたりの扱いが非常に自分と相性が良かったのも嬉しい点だった。
といっても、考察不要の答え合わせがあるわけではない。そもそもホラーは辻褄の合わなさを楽しむべきではあるものの、開き直って闇雲に不気味さを煽るのではなく、「辻褄が合わない」という事態そのものについて、より俯瞰的な視点で描かれている。
日頃から「脚本」という形で創作の物語に触れる機会の多い僕の知見を深めてくれた。
物語に没入して登場人物の視点で怪談を楽しみ、やがて皮肉屋文庫氏の「創作論」とも思える考察へと繋がっていく流れは、今の自分にちょうどいいトピックとスケールだった。


2025年は読書にもう少しリソースを傾けてみてもいいかなと思うくらいには、良い体験だった。
ちょうど駅前から本屋が姿を消したばかりだが、来月は時間もあることだし、舞台終わりで何か探してみようかと思う。

久しぶりのnote更新がただのレビューになってしまって恐縮だが、楽しんだものについては皆さんにも積極的に共有していきたい。
興味があったら読んでみてほしい。

ボイスレコーダーに連なる怪談からお気に入りを見つけるも良し、
作中で起きる様々な事態を徹底的に考察するも良し、
全て読み終えたあと、しがない俳優の僕と共に、目先にちらつく彼らを「夜警」と呼び続けるも良し。


あなたの持つ"空白"に、不気味なほど丁度良く、納まってくれることだろう。

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