14歳だった頃、夢小説サイトの管理人をやめた
(写真は中学生の頃の私)
2006年。中学2年生の私は、帰宅部だった。母に「運動部に入りなさい」と言われ入部した軟式テニス部は馴染めず1年で退部。習い事も塾も行っておらず、あのとき人生で一番退屈で自由だった。
やっていることと言えば、ツタヤでCDを借りてMDにダビングすること。伊坂幸太郎や乙一の本を読むこと。「ゴゴ市」という韓国のオンラインゲームや「タレコミ」という掲示板サイトで知らない人と馴れ合うこと。同じように退屈な友達と、涼宮ハルヒの憂鬱を鑑賞すること(ちょうど放送年だった)。
そして、夢小説のサイトを運営すること。
夢小説というのは登場人物の名前を自由に設定できるもので、ジャンルは二次元と三次元どちらも扱った(詳しくは割愛)。他のサイトのお作法にならって、入り口を分かりにくいところに隠し、利用規約を詳しめにして、周りの誰にも教えずにひっそりと書いていた。いわゆる「夢女子」と言われるオタクだった。
有り余る時間を費やして書きまくり、半年ぐらい運営していると、徐々に読者が増えて、やがて夢小説サイトのランキングで1位になった。嬉しかった。たくさん届く感想に承認欲求が満たされるようだった。いっぱい妄想して書くのがおもしろかった。当時は「ケータイ小説」も流行っていたから、横書きで小説を読むのも書くのもみんな抵抗がなくて。たくさんの改行で場面転換を表現し、やたらと「――」を使った。あの時代ならではの様式だったと思う。
でも、ある日ぱたりと閉じてしまった。きっかけになったのは、受験でも身バレでも飽きでもない。とある作品でいただいた感想だった。
部屋にふたりでいるシーン。嫉妬かなにかをしてむくれている私に、相手が頬にたくさんキスをしてくれる描写をオチで書いた作品だった。
その感想をくれたのは、大人の読者だった。たしか20代半ばだと自称していたと思う。他の作品にもたびたび感想をくれた方で、私は「またこの人が読んでくれた!」と喜んでいた、のに。
「私はファンデーションを塗るので、たくさん頬にキスをされると相手の方は変な味がするかもですが、とてもときめきました」。
この一言に、すうっと熱が冷める感覚がした。ファンデーションというものを、化粧をしない14歳の私はよく知らない。ファンデーションが"変な味"であることもわからない。そもそも夢小説は、化粧をしている自分でイメージしていなかった。
そうして自分の幼さが恥ずかしくなって、書かなくなってしまった。あらゆる作品の中に、自分の幼さが残ってしまっているのではないか。大人の読者が「ふふ、実際はこうなんだけどね」と思いながら読んでいるのではないか。きちんと恋愛をしたことがない私を見透かされているのではないか。本当は笑われているのではないか。
そういうことが急に気になってしまった。
感想をくれた人から、「あなたは未成年でファンデーションを塗らないから、頬にキスされるとどんなことを考えるかわからないでしょうけれど」と意地悪く言われたわけではない。でも、ファンデーションを知らないことを指摘された気がして、つらかった。恥ずかしかった。頬にたくさんキスをされたことがなかったから。キスをされたとき、ファンデーションのことを気にするなんて知らなかったから。
サイトには「受験のため」と閉鎖の理由を書いて、1週間ぐらい経ってデータもすべて消してしまった。私はふたたび退屈になった。
学校がきらいだった。神奈川県横浜市の小さな町にある公立中学校。勉強をちゃんとする人は「暗いやつ」で、授業を邪魔する人は「明るいやつ」だった。話す友達はいたけれど、みんなそれぞれ部活やクラスに居場所を持っていた。だから私も、どこかに居場所がほしかった。
そういう14歳だった。
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中学2年生ひとクラス35人全員に密着した、映画「14歳の栞」という作品に携わりました。製作と宣伝を担当しています。
自分自身の中学2年生の頃を振り返ってみると、インターネットばかりやっていました。インターネットで知り合った山梨の中学2年生と文通したり、東京の高校生とオフ会したり。学校が終わってから夜眠るまで、ずーっとガラケーとにらめっこ。そこに私の社会がありました。
「14歳の栞」は、そんな蓋をしていた中学2年生のころの自分が、ぶわわわっとあふれ出てきてしまうような作品です。本作に登場する子の中には、帰宅部だったり、居場所を探していたりする子がいて、当時学校で過ごす自分と重なってしまう。忘れていたはずなのに、全然忘れていなかったシーンがたくさん出てきます。
恥ずかしくて消えてしまいたかった中学2年生の私と、登場する35人の中学生たちを、ぎゅっと抱きしめたくなるような作品です。よかったらぜひ、ご覧ください。
※映画「14歳の栞」公開を2021年3月5日に控え、本作のスタッフが #私が14歳だった頃 のエピソードを書きました。
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