「晴れの日も雨の日も」#84 スカブラ
山田洋次監督の作る映画が好きだ。
男はつらいよ、遥かなる山の呼び声、黄色いハンカチ、学校、全て大好きだ。
その山田監督が「スカブラ」という炭鉱用語を紹介されている。
炭鉱自体もう過去の遺物だ。今の若い人たちは知らないかもしれない。炭鉱(炭坑の方が良いか)、すなわち、ヤマに男たちが入っていって石炭を掘る。ツルハシで掘り、ダイナマイトを仕掛ける。
一つ間違えば落盤の危険もある。それ以外の事故だってある。
朝、男たちが山に入っていくのを女たちは無事を祈って見送り、夕方無事に出てくるのを出迎える。
ところが、どの男も煤やら土やらで顔も服も真っ黒になっており、どれがウチのおとーちゃんか見分けがつかない。その中で、全然汚れていない人がいる。
それがスカブラだ。
汚れていないということは、中で一生懸命石炭を掘る労働をしていないということを意味する。
何をしているのか。
ヤマの中に事務仕事はない。
この人は肉体労働をサボっているのだ。
ブラブラしているのだ。
で、出てきたときにはスカッとしている。だからスカブラと呼ばれる。
断っておくが、ヤマの中には厳しい監督者がいて、そんな簡単にはサボらせてくれない。例外中の例外だ。
みんなが石炭を必死で掘っている時はこのスカブラはみんなの前から姿を消している。どこにいるのか謎だ。ところが、休憩時間もしくは昼食のサイレンがウウ~と鳴るとどこからともなく現れる。
で、ひたすらおもしろい話をして皆を大笑いの渦に引き込む。
監督者のモノマネ、下ネタ、一人漫才、隣の長屋の夫婦喧嘩、何でもござれ、だ。
そうこうしているうちにまた仕事の開始を告げるサイレンが鳴る。スカブラの話でリフレッシュしたみんなは、「あーあ、また仕事か。」とぶつぶつ言いながら持ち場に戻る。
で、スカブラはまたどこへともなく姿を消す。そうして定時になると、朝家を出てきたときのパリッとした手ぬぐいのまま、真っ白な顔で炭坑から出てくるという訳だ。
なに?
単なるサボり?
いらんやんそんな人?。
いやいや。
たとえば、炭坑の経営が厳しくなる。人員整理の必要性に迫られる。すると、生産活動に寄与していないスカブラは、いの一番に首を切られる。ところが、スカブラがいなくなると、急にそのヤマ全体の生産性が落ちるというのだ。
この話が私はとっても好きだ。人とは、そして人が集まって共に何かを作るとはどういうことなのか、深く考えさせてくれる。
学生の時、私は体育会水泳部にいた。人並み以上に頑張って練習したが、甲斐なく、選手としては3流だった。でも、チームの一体化とかモチベーションアップとかという面ではたぶん真ん中に陣取っていた。期せずしてスカブラに近い存在だったのかもしれない。
話は変わるが、学生の時、進路を考える際に、私は自分のことを身体の機能にたとえて
「オレは頭脳にはなられへん、そんなに賢ない。
手もムリ、そんなに器用やない。
目や耳もダメ、外部の情報をそのまま受け止める素直さが欠けてる。
オレはできれば血になりたい。
体中を駆け巡って、
おい目、ちゃんと見えてるか、
おい頭脳、ちゃんと考えてるか、
おい手、ちゃんと頭脳の言う通り動いてるか、
とあちこちに声をかけ続ける。
血が全身を走り回っているから、体がちゃんと機能している。
社会に出てそんなことがオレはしたい」と言っていた。
友達は「はぁ?何言うてんの?わけわからん。なんかおまえらしいけど。」と言っていた。
この話とスカブラは必ずしも同じではないのだが、通底するような気が何となくしている。また、スカブラは「余白」という言葉ともつながっている。なぜか最近こんなことをよく考える。
<編集後記>
猛暑が続くが、夏至を過ぎ、少しづつ日が短くなってきた。近所の田んぼも稲穂が実り始めた。知らぬ間に季節は移ろっている。
今日も最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました♬ 長井克之
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<予告>
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(続く)