伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞2020で一次通過、二次落ちしたシナリオ
タイトル『コウノトリは飛んでいく(仮)』
登場人物
・コウノトリ(オス、メス)
母親のもとへ子供を届ける。
・イチ ・ニ ・サン
生まれる前の子供。
・ヨン
少し風変わりな生まれる前の子供。
・ゴ
虐待を受けて死んだ子供。
・ロク
中絶された子供。
・黒髪の女 ・夫婦の妻 ・女子高生
・短髪の女 ・茶髪の女
コウノトリから子供を授かる女たち。
・海の化身
すべての生命の源。
○ 暗転
波の音が響いている。
N「すべてのはじまりは、海」
○ 絵本
海の絵が描いてあるページ。
N「ねえ、すべての命が、海から生まれてく るって、知ってた?」
ページがめくられる。次のページには、赤ちゃんの絵。
N「海で生まれた命は、やがて赤ちゃんにな って、この世界に生まれてくるんだよ」
次のページへ。赤ちゃんを抱きしめる、両親の絵。
N「『やがて』って、いつかって? それは ね、お父さんと、お母さんが見つかった ら。お父さんとお母さんがいなくちゃ、赤 ちゃんだっていないんだよ」
次のページへ。空を飛ぶコウノトリの絵。
N「どうやって、お父さんとお母さんを、見 つけるかって? それはね、コウノトリさ んが探してくれるんだ」
次のページへ。キャベツの葉にくるまれる、赤ちゃんの絵。
N「コウノトリさんが、お父さんとお母さん を見つけてくれるその日まで、赤ちゃんに なる前の命は、キャベツにくるまって待っ てるんだよ」
次のページへ。頬を赤く染めて、目を瞑っている、赤ちゃんの絵。
N「いつ生まれられるんだろう? お父さん とお母さんはどんな人だろう? そうやっ てドキドキしながら、じっと待ってるんだ よ」
絵本が閉じる。表紙には絵本のタイトル、『コウノトリは飛んでいく』。
○ 大型公園
家族連れで賑わう公園内。
子供たちは遊具で遊び、母親や父親たちは子供と一緒になって遊んだり、世間話に興じている。
ベンチに1人で座っている黒髪の女(36)が、遊ぶ子供たちの様子を見ている。
その女のことを、天使のような真っ白な服に身を包む子供、ヨン(外見年齢3)がじっと見ている。
ヨンの姿は誰にも見えておらず、黒髪の女も気づかない。
ヨンの後ろには、番のコウノトリ(嘴型のマスク、羽を思わせる白い服を身に纏う男女。外見年齢(20))が立っている。
○ 住宅街
閑散とした住宅街の路地を、コウノトリ達がキャベツのゆりかご(キャベツの葉を思わせる黄緑の布地で覆われた5~6人用ベビーカート)を押して歩く。
ゆりかごの中には子供たち(まだ生まれてない子供)、イチ、ニ、サン(いずれも外見年齢3)、そしてヨンの4人が乗っている。
しばらく歩いた後、赤い屋根の民家の前で、一同が立ち止まる。
コウノトリ2匹、子供たち、同じ家を見上げる。
○ 赤い屋根の家・リビング
ソファに並んで腰かけ、見つめ合っている夫婦(お互いに26)。
夫は妻の髪を撫で、妻は夫の顎ヒゲを撫でている。
クスクス笑いあい、やがて口づけを交わして抱きしめ合うと、そのままソファに転がる。
○ 住宅街
コウノトリのオス、イチをゆりかごから降ろす。
2匹のコウノトリで、イチと手を繋ぐ。
○ 赤い屋根の家・リビング
抱き合い、微笑みあってキスしてる夫婦の、幸福そうな姿。
その様子を、2匹のコウノトリと、イチが見ている。
オスのコウノトリ、夫婦2人に向かって指を指し、イチから手を離す。
イチ、おずおずと夫婦のもとへ歩み寄り、戸惑うかのように2人の前で立ち止まる。
しばらくもじもじしていたが、やがて思い切って妻の方へ抱き付く。
コウノトリ2匹、その光景を見届けている。
○ 住宅街
ニ、サン、ヨンの3人が乗ったゆりかごを押し、コウノトリ2匹が道を往く。
○ 新興住宅街
マンションなどが立ち並ぶ通りを、コウノトリ一同が往く。
とあるマンションの前を通りがかろうとしたその時、オスのコウノトリが立ち止まり、マンションを見上げる。
○ マンションの一室・ベランダ
窓ガラスから見える家の中は、物で溢れかえっている。
ベランダにはゴミ袋がまとめて置かれており、その陰に子供が一人倒れている。
倒れている子供の姿は、汚い服、やせ細った体、あざだらけの手足と、どう見ても被虐待児である。
その子供にそっくりな、真っ白な服を着た子供、ゴ(外見年齢3)が、倒れている子供を見下ろしている。
ゴの背後に、いつの間にかコウノトリ2匹が立っている。
ゴが振り向き、コウノトリ2匹を見上げる。
メスのコウノトリが手を差し伸べ、ゴがその手を取る。
窓ガラス越しに家の中を見つめる、無垢な瞳。
○ 新興住宅街
コウノトリが押すゆりかごの中に、ゴも乗っている。
○ あぜ道(夜)
街灯の少ない田舎のあぜ道。あたりは田んぼで、蛙の鳴き声が響いている。
制服姿の女子高生(16)が、とぼとぼと帰路についている。
その後ろから、黒いワゴン車が、徐々に近づいてくる。
女子高生、ワゴン車に気付くと、逃げるように速足になる。
ワゴン車はにわかに速度を上げて、女子高生に迫ってくる。
女子高生、とうとう走り出すが、ワゴン車がすぐ真横に付いてきて、後部座席から男が1人出てきて、女子高生の腕を掴む。
女子高生「(叫び声)」
すぐに男に口を塞がれ、抵抗もやむなく、車の中に連れ込まれる。
○ 山中(夜)
舗装された山道を、コウノトリ一同が往く。
真向かいから黒ワゴン車がやってきて、一同とすれ違う。
メスのコウノトリ、ワゴン車を一瞥して、再び歩き出す。
× × ×
しばらく歩いていたコウノトリ、立ち止まる。
ゆりかごからニを下ろすと、手を繋いで更に前へ。
暗闇の中に、殆ど裸の女子高生がうずくまっている。
メスのコウノトリ、女子高生のことを指差す。
ニ、コウノトリの顔を見上げ、そして女子高生を見る。
女子高生、地に伏しながら、啜り泣いている。
ニ、コウノトリの手から離れると、女子高生のもとへ近付き、うずくまる女子高生を抱きしめる。
女子高生は変わらず啜り泣いている。
× × ×
コウノトリ2匹がゆりかごへと戻ってくる。
ゆりかごから、ヨンの姿が消えている。
コウノトリ2匹、子供たちを指差し確認するが、1人足りないことに気が付き、お互い顔を見合わせる。
○ 住宅・居間(夜)
小綺麗な居間の中に、パジャマ姿の黒髪の女が、ソファに座って医療系のパンフレットを読んでいる。
その右隣でヨンが、じっと女の顔を見ている。
そこへ風呂上りらしき風体の男(黒髪の女の夫)が現れ、女の様子に気付くと、顔を曇らせる。
女の左隣へ腰掛け、しっかりと肩を抱くと、女は男の手に自分の手を重ねて笑う。
どことなく切なげな、女の微笑み。
ヨン、その顔をじっと見つめていたが、誰かに後ろから頭を小突かれる。
振り返ると、いつの間にかコウノトリ2匹がそこに立っている。
メスのコウノトリ、静かに首を横に振る。
女が読んでいたパンフレットを、テーブルの上に置く。そのパンフレットは、不妊治療に関するものである。
○ カフェ・店内
短髪の女(27)が、コーヒーを飲みながら貧乏ゆすりしている。
その様子を、別の座席からコウノトリ2匹と子供たちが見ている。
入口のベルが鳴り、背の高い男(28)と、茶髪の女(27)が店の中へやってくる。
短髪の女、2人に気付くと、手を振って呼び寄せる。
メスのコウノトリ、サンを自分の膝の上に乗せて、短髪の女を見ている。
茶髪の女、短髪の女と隣に座り、その向かいに男が座る。
2人の女、テーブルの下で手を繋ぐ。2人の薬指には揃いの指輪。
○ ホテル・客室
短髪の女、ベッドに腰掛けて、注射器(人工授精用)の準備をしている。
トイレから出てきた男、プラスチックの容器(採精容器)を茶髪の女に渡し、またトイレに戻る。
× × ×
注射器で精子を吸い上げる。
× × ×
下半身をあらわにした短髪の女、ベッドに横たわり、茶髪の女と手を繋ぐ。
茶髪の女、注射器を短髪の女の膣に差し、精子を注入する。
強く手を繋ぎ合う、2人の女。
その様子を、コウノトリ2匹と、サンが見ている。
オスのコウノトリ、2人の女に向かって指を差す。
サン、2匹から離れると、ゆっくり2人のもとへ近づく。
注入を終え、2人の女はベッドの上で、抱き合っている。
サン、その姿を見て、2人ともに抱き付く。
○ 散歩道
新緑が色づく散歩道を、コウノトリ一同が往く。
ゆりかごの中で大人しくしていたヨン、急に顔を上げ、身を乗り出して遠くを見つめる。
コウノトリ2匹、ヨンの様子に気付き、立ち止まる。
ヨン、自分でゆりかごを降り、どこかへ駆け出す。
○ 大型公園
家族連れで賑わう公園内。
ベンチに1人で座っている黒髪の女、遊ぶ子供たちの様子を見ている。
すると、近くでサッカーをしていた子供たちのボールが、女のもとに転がってくる。
女、ボールを手に取ると、笑顔で子供たちに渡してやる。
ボールを受け取った子供たち、女のもとから離れ、再びサッカーに興じる。
黒髪の女、愛おしげな視線で子供たちを見ている。
その様子をじっと見つめている、ヨン。
ヨンの後ろに、いつの間にかコウノトリ2匹が現れる。
ヨン、2匹に振り返ると、何かを訴えるように見つめてくる。
その視線を受け、お互い顔を見合わせるコウノトリ2匹。
○ 海岸
波がさざめく、雄大な海。
砂浜に立つヨン、海の向こうをじっと見ている。
少し離れたところにいるコウノトリ2匹、ヨンを見守っている。
ヨンの足元に、波が打ち寄せてくる。
ヨン、海の向こうに向かって、
ヨン「おねがいします。あの人たちのところに行かせてください。あそこがいいんです。あそこじゃなきゃイヤなんです」
静寂の中に、波の音が響く。
反応の無さに、俯いてしまうヨン。
すると、ヨンの頭を、誰かが撫でる。
ヨンが見上げると、そこに海の化身(中性的な容貌の人間。外見年齢(20))が立っていて、ヨンに微笑んで、頭を撫でてくる。
ヨン、海の化身を見上げ、瞬きをする。
その一瞬で、海の化身の姿が消えている。
コウノトリ2匹、お互いに顔を見合わせる。
○ 大型公園(夕)
5時を告げる鐘が鳴る中、公園で遊んでいた子供たちが帰り始める。
ベンチに座っていた黒髪の女、うつらうつらと船を漕いでいる。
ヨン、コウノトリ2匹、手を繋いで、女を見つめている。
そこへ、女の夫がやってきて、女を見つけると微笑み、肩を叩く。
目覚めた女、夫を見上げて恥ずかしそうに笑い、立ち上がる。
2人で手を繋ぎ、帰路に着き始める。
コウノトリ2匹、2人に向かって指を差し、ヨンから手を離す。
ヨン、コウノトリ2匹を見つめ、やがて2人に向かって走り出す。
先を行く2人になかなか追いつかないが、やっと追いつき、勢いよく黒髪の女に抱き付く。
すると、黒髪の女が立ち止まり、何かに気付いたような様子を見せる。
○ 赤い屋根の家・居間
帰宅してきた夫に抱き付く妻。
夫に何か耳打ちすると、夫は驚愕し、妻に抱き付き返す。
2人して跳びはねたように喜ぶ夫婦。
○ 学校・女子トイレ
トイレの個室で、陽性反応の妊娠検査薬を見つめる女子高生。
暫く呆然としていたが、急に悲鳴を上げて、叫び出す。
○ カフェ・店内
短髪の女のお腹を、愛おしげに撫でる茶髪の女。
その様子を、背の高い男が笑って見ている。
傍を通りかかった店員、奇妙そうに3人を見ている。
○ 産婦人科・診察室
診察を受けている黒髪の女と、その夫。
診察医が、2人に向かって笑いかける。
すると黒髪の女、涙が浮かんできて、堰を切ったように泣き始める。
夫に抱きしめられながら、自分のお腹に手を当てて、なおも泣き続ける。
○ 同・廊下
手術室のランプが点灯している。
○ エコー映像
中絶手術の映像。
器具から逃げようとする胎児。
しかし、あえなく器具によって頭部を潰され、掻きだされる。
○ 同・廊下
手術室の扉が開き、執刀医や看護師たちが出てくる。
それに続くように、コウノトリ2匹と、ロク(外見年齢3)が出てくる。
廊下に置かれたゆりかごにロクを乗せる。
すると、どこからか赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。
○ 同・病室
病室内に赤ん坊の泣き声が響く。
ぐったりとベッドに横たわりながらも笑顔の母親を、すぐ傍の父親が抱きしめている。
看護師が、生まれたばかりの赤ん坊を母親へ差し出す。
赤ん坊を抱き、笑顔を浮かべる母親と、それを見つめる父親。
その様子を、ゴとロクが見つめており、その後ろに立つコウノトリ、2人の頭を撫でる。
○ 同・正門
病院から出てきたコウノトリ一同、どこかへ向かって歩き出す。
どこからか、波の音が聞こえてくる。
○ 絵本
海をバックに、笑っているコウノトリ2匹と、海の化身の絵。
N「ねえ、君たちはもう、生まれてきたんでしょう? 生まれてくるって、生きるって、どんな気持ち?」
本が閉じる。
END
作者反省
このシナリオは伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞に応募したものなのですが、映画祭用に書いたものではなくて、もともと構想していたプロットをシナリオにしている時、たまたま映画祭の応募期間と重なったので応募したものでした。
結果は一次選考通過、二次選考落ちだったのですが、よくよく考えてみたら伊参スタジオのある中之条町って群馬県にあるんですよね。
海がキーポイントになる話のシナリオを、海に面してない県のスタジオの映画祭に送ってしまったという…。
それ抜きにしても、このシナリオは台詞ほぼ無しト書きのみの、ひたすら読みにくくイメージも浮かびにくいシナリオ(意図的にやったことではあるのですが)なので、一次通過できただけでも僥倖だったと思います。
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