【ながおし!⑦】ガラスに魅せられて 保坂裕樹さん
6月下旬の梅雨真っただ中の蒸し暑い日。
黒壁(※)の工房で、ガラス作品の制作に一心不乱に取り組まれている若い作家さんのもとを訪れた。
黒壁で工房長を務める保坂裕樹さん。注目株のガラス作家だ。
お話を聞く前に、制作の現場を見せていただいた。
制作されるのは「mizuawa一輪挿し」。
お邪魔にならないだろうかと思いながらおずおずとカメラを構えたが、特に気にされることもなく、作品を作りながら工程を一つずつ説明いただいた。
ガラス作品の制作現場を見せていただくのは初めての経験だ。
工房の中はとても暑く、じっとしていても汗が額ににじむ。
溶けたガラスに息を吹き込み、溶けたガラスを巻き付け、道具や濡れた新聞紙等で成形し、また炉の中へ・・・。
作品が出来上がるまで何度も繰り返される。
炉の温度は1,000度以上、室温は夏場だと50度を超える。
制作の様子を見ているだけなのに、汗が噴き出てくる。
その中を保坂さんはリズミカルに動き回る。
洗練された動きはまるでアスリートのようだ。
完成した一輪挿しは、含まれた気泡が柔らかく感じられる作品。
見ていてガラス特有の透明感、柔らかさが伝わってくる。思わず手に取りたくなった。
制作を終えられた保坂さんからお話を伺った。
まず、なぜガラス作品の作家を志したのか尋ねた。
「実家が町工場で、両親の姿を見て、モノづくりにかかわる仕事をしたいと思うようになりました。
高校生の時に江戸切子やベネチアのガラス作品に触れたことがきっかけで、モノづくりの中でもガラス作品作りの道に進みました」とのこと。
作品を作り始めたころは、プロの作家向けの勉強会やワークショップなどにも積極的に参加し、国内外の作家から技術や作品との関わり方などをたくさん学ばれたそう。
実際に制作の過程を見るのが一番勉強になるんです、と話す。
保坂さんは東京都の出身。なぜ縁もゆかりもない長浜に来られたのか。
「ガラス作品の制作技法を学ぶ専門学校を卒業する前に、黒壁でやっていた作品展を見に行きました。作品一つ一つのクオリティがとても高く、心に残っていました。
その後、別のガラス工房に勤めたのですが、レベルの高いところで自分の力を試したいと思い、長浜に来ました」とのこと。
長浜市に来られた理由がうれしい。
次に、ガラス作品作りの楽しいところを伺った。
「溶けたガラスを巻いていろいろなものが作れるところですね。
特に、その時その時でガラスが変わっていくライブ感や、自分の手元で形が変わるというガラス特有の楽しさがありますね。」と話す。
ガラスがすぐに固まってしまうため、作業できる時間が10~20秒と限られてしまう。
動きは自然とリズミカルになり、工房内を楽しそうに動き回る。
逆につらいことは暑さで、夏場は室温が50度を超えるため、作業後は水を2リットル以上飲みます、と笑顔で話された。
ガラス作品や作品づくりの魅力についても伺った。
「ガラス作品創作の魅力はオリジナルのものが作れること。
ガラスというきれいで美しい『もの』を作れること。
このことがモチベーションにつながっています。
ただ、吹きガラスはガラス作品の中でも特に制作が難しく、作品のイメージがあっても技術が伴っていないとイメージ通りの作品が作れないことや思ったようにいかないことはよくあります。
ガラス作品はその『透明度』が一番の特徴で、それをうまく引き出し、生かせるか。
グラスや酒器の素材として、ガラスはとても優れている。
飲み口のあたりが良く、とてもおいしく感じる。このガラスの特性を生かし、ガラスの魅力を損なわないいい『作品』を作りたい。
ガラスの透明感、柔らかさ、美しさ、そういったものを大切にしていきたい。」と答えてくれた。
理想とする作品について伺うと、「一目見て感動するもの、心が動かされるもの。そんな作品を作りたいなと思います。」とのこと。
保坂さんからガラス作品や作品づくりへの熱い思いがあふれる。
最後に今後の夢や目標を伺った。
保坂さんは少し考えたのち、「将来、自分の作った作品がいろんな国の人の手に渡るようになればいいな、と思います。」と、まっすぐ少年のような目をこちらに向け笑顔で答えてくれた。
保坂さんの笑顔のおかげでさわやかな気分でインタビューを終えることができた。
工房を見学しているときにかいた汗はすっかりひいており、外の空気が心なしか涼しく感じられた。
(とくぞう)
※黒壁・・・北国街道沿いに続く古い街並の一角にある総称「黒壁スクエア」。明治時代から黒壁銀行の愛称で親しまれた古い銀行を改装した「黒壁ガラス館」を中心に、ガラスショップや工房、ギャラリー、アトリエ、レストランやカフェなど魅力あふれるお店が、古い街並の中に点在しています。黒壁の工房で制作された作品もお店にならんでいます。
[黒壁の工房で制作された作品例]