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子ども王国の日常vol.3
マオイストの取材の為、訪れたネパール。
事前にエージェントを通して、取材アポを取っていたものの、ネパールに着いたところで、向かう予定だった空港がマオイストの別の部隊に襲われたということで、急遽、陸路で向かうことに。
避暑地としても名高いポカラから、山岳ルートとは別のルートで登っていくことになる訳であるが、彼らのアジトは、8091mもあるアンナプルナの中腹の崖に築いているという。さすがに山岳ゲリラとも呼ばれるだけのことはある。
困ったのは、こちら側がまさかハードな登山になると考えてもいなかったので、非常に軽装であるということ。
当然、どこまで登れるかは未知数だ。山の怖さを知っているだけに、通常じゃありえないことである訳だから。それに、アンナプルナは、エベレストよりも遥かに死亡率が高い山として知られている、尚更、気の引き締まる思いだ。
取材のサポートをしてくれるポーター兼現地通訳の人との綿密な事前ミーティングが終わった。
いよいよ明日から、ハードな取材に旅立つ。
一人、いろいろなことを頭に巡らしながら宿からほど近い、カフェに入る。
一抹の不安と武者震いで微かに震える手でタバコに火をつける。
この国と闇と未来が今回の取材の先に見えてくるはずだと僕は感じている。
それにしても、明らかにリスクのほうがでかい今回の取材は、若さだけでなかなか押し切れるものでもない。
すると視線の先に、仲良く話をしている兄妹がいた。
「君らここら辺の子?」
「そうだよ、このお店のね!!」
そう言うと、奥でお母さんが控えめに手を振っているのが分かった。
「でもルーツはチベットにあるの。」
「そうなんだ。」
「ここのお店も、内戦が起きてからは観光客もぱったり、だから、話をする人たちがいなくてつまらないんだ・・・」
「そっかあ、確かに閑散としてるね。」
「早く平和になってほしい、いつもそう願ってる。」
「そうだよね。早くここにも観光客がたくさん戻ってきてほしいね。」
僕は、たわいもない会話をお店に灯がともるまでしていた。
何気ない時間だったかもしれないが、彼らの笑顔を見て、有り難いことに僕の心の中にあった不安は消えた。
薄暗くなった帰り道、遠くから乾いた銃声が聞こえては壮大に構えるアンナプルナの影に溶け込んでいく。
頭のモードはすでに切り替わった。
この先、何が起こるかわからない、でも、その先にきっと答えがあるはず。
この国の現状を知り、そして、光を紡ぎ出すんだ。
いくぞ、自分。気合いを入れていくぞ。
2005 ネパール ポカラ
※これは当時の手記をもとにした回顧録です。現在は国の情勢、環境等も変わっているため、同様の事象が起きているとは限りませんのでご了承ください。