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「依頼者の要望に応える」。ものづくりの意味を知ったと話す3人の工学部生にインタビュー。

↑運搬機をバッグに、左から此本暁公さん、川原豪真さん、ミニカーを手にしているのが室之園崇さん。
※取材当日は不在でしたが、2人のメンバー(電気電子工学コース)がいます。

―創成プロジェクトに参加した理由を教えて下さい。

室之園さん(情報工学コース/博士前期課程1年生):私は所属している教授から声をかけられたのがキッカケです。話を聞いて、自分が研究で進めている技術(画像の中から特定のモノを検知する装置を開発中)を、実践で試すことができる絶好の機会だと思いました。

川原さん(機械工学コース/4年生):僕はこれまで座学で学んだ機械工学の知識をアウトプットできる場が欲しかったからです。理論的な知識を応用して実際に何かを作ることに興味がありました。

此本さん(機械工学コース/3年生):自分も川原くんと同じです。機械工学コースは2年生から専門科目が増えていくのですが、その知識を現場でどう活かせるのか知りたいと思いました。また、4年生で研究室に入り研究に携わる前に研究の流れを味わっておきたいと考えたのもあります。

※以下、敬称を省略いたします。

―地域からのリアルな課題に取り組むことは大変でしたか?

↑収穫を間近に控えたブロッコリー畑。

室之園:農家さんからの依頼は課題は「カモ対策」と「運搬機の自動化」。いずれも目的が明確なので取り組みやすいと感じたのが最初の印象です。現場を見学して、詳しいところを聞き出しながら予算、納期などを考えました。
 しかし、開発を始めると予期せぬ壁に度々直面しました。五里霧中だと感じることがしばしばでした。

川原:トライ&エラーの連続でしたね。テスト環境では動いても畑の環境では期待通りではなかったり、作物の成長が予想外だったり、必要だと思う機能を備えつけることに没頭するうちに農家さんの希望とかけ離れていたこともありました。

此本:確かに……。農家さんは学生の打ち合わせにも顔を出してくださったので、課題は理解しているつもりだったのですが、希望に沿うものを作ることの難しさを感じました。

―「必要だと思う機能=依頼者の希望ではない」ということですか?

川原:はい。自分たちの価値判断だけで運搬機を作ろうとしたら、いくらでも性能が良いものはできると思います。例えば、重い荷物を載せても、足場の悪い地面でも、スムーズに動けるパワーを持った運搬機は作れます。だけど、今回の依頼者が求めているのはそんなパワフルな運搬機ではなく、作業の負担を軽減する程度にアシストする運搬機です。必要以上のパワーの搭載は自己満足でしかありません。

室之園:アドバイザーの坂口大作先生には常に「実際に使ってもらえるのか」を考えるように、ご指導いただいていました。いつしか「農家さんが便利に使えるモノを作ること」がメンバー共通の目標になっていました。

―実際、どんなトライ&エラーがあったのですか。

↑作業場でライトとブザーを搭載したミニカーをテストしている様子。

室之園:カモ対策では、畑の広大さが一番のネックでした。幅が2kmもある畑では端から端まで歩くだけで10分はかかります。カモを発見しても、その場に向かっている間に逃げてしまうんです。当初はドローンを使った撃退法が広さ解決になると考えましたが、バッテリーに限界がありました。それで、原点に立ち帰り、コストがかからず、実現可能な方法について、みんなでアイディアを出し合いました。

川原:最終的に赤外線センサとミニカーでの対応に行きつきました。動物を検知する赤外線センサ(人を検知して灯る屋外照明と同じ仕組み)を畑に埋め込み、検知された場所にミニカーを向かわせて光と音でカモを撃退します。
 現段階で、動物を検知してミニカーを動かすことには成功しているのですが、ブロッコリー畑全体をカバーするまでには至っていません。次の展開としては、センサーをじゅず繋ぎで結んで通信範囲を広げる案が出ています。

―運搬機の自動化ではどうですか?

↑学内グラウンドで、運搬機に人物2人を乗せて動かすテストの様子。

此本:運搬機の自動化では、まず65kg程度の重りに対応できる運搬機を作りました。そして現地に見立てた柔らかい草地でテストした時は問題なく作動しました。しかし、畑に持ち込むと想定外の足場のぬかるみで動きませんでした。トルク(タイヤを回転する力)が足りなかったんです。晴天でも畑がぬかるむ原因は、地面が落ちたブロッコリーの葉で覆われて土が乾かないことにありました。常時湿っていることで地面に凹凸ができて、運搬機の動きをさらに難しくしました。

川原:ぬかるみを克服するためにモータを強くすることにして電流を上げたところ、熱が起こってコードが切れてしまいました。すぐに熱に耐えられる太いコードに変えたのですが、今度は基盤の方がショートしました。一歩進んでは壁があり、その壁を超えたと思ったらもっと大きな壁に当たるという状態でした。

此本:僕も川原くんも機械工学コースですが、電気系統について学ぶ機会が少ないので、教授に助けを求めたり、自分たちで資料を調べたり、手探り状態でした。

室之園:僕も情報工学コースでそんな勉強はしておらず、電気電子工学コースのメンバーも電流電圧トラブルの対策に関しては知識がありませんでした。3つの妥協点(①運搬機を動かすことができるくらいのパワーを持つ、②コードが切れない、③基盤がショートしない)を満たす“電圧電流の最低限のポイント”を、手探りで探り当てた感じです。

―作物の成長にも頭を悩ませたんですか?

↑小型タイヤを噛ませることで、モーターを取り付ける軸芯をずらしました。これで、運搬機を使って作業してもブロッコリーの生育を干渉することはありません。

此本:そうですね。活動を始めた春、ブロッコリーは苗の状態でしたが、収穫する頃には腰下くらいまで成長していました。だから、運搬機に取り付ける部品はブロッコリーに当たらない高さに調節して設置しなければいけません。

川原:当初、モーターをタイヤの軸芯に取り付けようとしていました。しかし、それがまさに生育後のブロッコリーを干渉する位置だったんです。軸芯を干渉しない位置までズラすために、タイヤとタイヤの間に小型タイヤを噛ませました。

―多くの壁に当たったことで得られたことは大きいのでは?

↑創成プロジェクトの最終成果発表会の様子。

川原:そうですね。壁に当たり続けたから、その度に得られた成功体験は他では得がたいし、貴重だと感じます。今後、別のプロジェクトに取り組むときにもこの経験が道筋になると思いますね。

室之園:課題を与えられて、先生方にアドバイスをいただきながら、僕ら学生だけで解決法を決めて、開発を進めたことも自信になりました。納期に合わせたスケジュール管理、協力業者への依頼、1年間メンバーで力を合わせてプロジェクトに挑めたこと、社会に出てからもこの経験が力を与えてくれるように思います。

此本:僕はこれから卒業研究に入るので、研究の流れが掴めたことが大きな収穫です。アイディアを出して、それを実現させていくのは面白いし、商品発注したり、実証実験をするという一連の流れを経験できたから卒業研究でも活かしたいです。

―これからどんな“ものづくり人”を目指しますか?

↑畑での実証実験を終えてタイヤに土が付着しているミニカー。

此本:僕は人の役に立つロボットを作ることが夢で機械工学コースに進学しました。この1年間のプロジェクトで、挑戦と失敗の繰り返しでしたが、諦めずに進み続けることで到達できる場所があることを知りました。失敗を恐れずに、人に役立つものを目指して挑み続けることができる“ものづくり人”になりたいです。

川原:僕はちょっと違う目線なのですが、ものづくりの難しさを痛感して、ゼロから生み出す凄さを改めて知りました。どんな製品でも大量生産の前にゼロイチを作った人がいる。人の創造力に目を向けられるように、先人をリスペクトできるようになりたいと思います。例えば、僕は加工前の運搬機を最初に見た時「自分も作れそう」と思いました。だけど、構造を観察するうちに、長さを調整する仕組みや、それに耐えうる金属の選定など、節々にプロの手が施されていることに気がつきました。最初は価値が分かっていなかったと思います。

室之園:僕は今回「農家さんが便利に使えるモノを作ること」を追求してきたことから、改めて“人の役に立つものづくり”をしていきたいと思うようになりました。「カモ対策」「運搬機の自動化」と目指すゴールは最初から定まっていましたが、壁に当たる度に方向は変化しました。だけどその壁は「実際に農家さんに使ってもらえるのか」を突き詰めた結果です。ものづくりには技術力だけではなく、「相手の要望に合わせて応える」対応力も必要なのだと思います。

―素晴らしいお話、ありがとうございました。

〈終わり〉

 第1回では同グループによる活動成果の詳細を紹介しています。




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