会計学で環境問題に切り込む
今年4月に長崎大学経済学部に着任した木村先生。専門は会計学、授業では「原価計算論」を担当します。取り組んでいる研究は環境会計。商品化が難しい環境の分野で、ビジネスとして効率よく経営展開する仕組みについて学術的に掘り下げています。詳しくお話を聞きました。
環境会計の研究を具体的に教えてください
「リサイクルに携わる企業と協力して、効率的な分別や生産工程について研究しています。現代社会で廃棄・解体される使用済み品には車、家電、建物などさまざまあります。どんなモノでも「混ぜればゴミ、分ければ資源」。丁寧に分別することでゴミは資源として蘇ります。しかし、分別や再資源化には難しい工程が多いほか、商品化して利益を出すことが簡単ではないという実情があります。」
分別・生産の難しさはどんな点ですか?
「例えば、廃車からのリサイクル品生産を見てみましょう。活用できるパーツはそのまま再利用。それ以外のガラス、鉄など多くの部分はマテリアル(素材)毎に分別します。それぞれに磨きをかけて洗浄し、マテリアルによっては粉砕して大きさを揃え、梱包するまでが生産工程にあたります。
しかし、一括りに車と言っても車種は様々。車種毎に使われている材料が異なり、解体してみなければどんな資源があるのかはわかりません。リサイクル業者さんは毎回、手探りで解体・分別しています。それはとても技術が求められる作業で、技術向上にも日々取り組んでおられます。
一方で、いくら技術が素晴らしくても、損失が出るようでは意味がありません。そこで会計学の出番です。会計学の知見を活かして利益向上につなげていきます」
会計学をどんなふうに活かすのですか?
「まず、会計学についで説明します。会計学は『企業の活動を決算書をはじめとする情報に集約し、企業をとりまく情報利用者へ伝達する』という一連の流れと機能について学ぶ学問です。研究では1企業と協力して経営成績を向上させる改善に取り組むこともあります。
リサイクル業でも会計学が果たす役割は同じです。高い技術が求められて費用がかさむとしても営利企業である以上は利益向上は必須条件です。コストを削減、効率的な分別方法で生産して、消費ルートにのせなければなりません。会計学の知見を使って経営計画を立てることは、損失を抑えて利益を上げる持続的な運営に繋がります。私の研究では業者さんと一緒に生産工程の改善を行なっています」
経済学部での研究対象は様々ですね
「そうですね。環境、国際、地域…などなど、経済学部は自分の興味次第でどんなことも研究テーマにできます。だからこそ、学生にはアンテナをあちこちに張って、多くの人と出会い、そこから興味の幅を広げてほしいと思っています。研究のヒントはいろんな場所に眠っているはずです。
また、学生時代にトコトンのめり込める“何か”に出会ってほしいですね。寝ることも忘れるほどに没頭した経験はきっと将来に繋がります。勉学・研究に没頭することはもちろん、部活やサークルに没頭するのことも良いと思います。場合によっては、ゲームでも悪くはないかもしれません(学業に影響するなどの弊害もあるかとは思いますが…)。現在、eスポーツは市場規模も大きく、アイディア次第でビジネスチャンスがあるはずです。
研究をする上で長崎県はどんな印象ですか?
「着任して2カ月目の印象は長崎県は地域のつながりが熱くて、ぶ厚いと言うこと。 現代は地域で経済を循環させることも課題となっているので、会計学のフィールドとしてとても興味深いですね。既に活発な活動を展開している企業を数軒見つけていて、話を聞きに行きたいと思っています。学生にとって経済学部の勉学・研究で濃密な時間を過ごせる場所です。ぜひ、長崎大学で一緒に学びましょう」
会計学について、また学生時代の心得について、とても勉強になりました。木村先生、ありがとうございました。
【備考】
ー 豊島事件について ー
木村先生が環境会計の研究に取り組むキッカケになったのが院生時代の豊島事件の調査だったそうです。「豊島事件の調査で豊かな生活の裏側にある廃棄物汚染被害地域の状況を見ました」と木村先生は話します。以来、ゴミが人々を苦しめることのない社会へ繋げたいと考えるようになり、現在も研究や活動を続けています。豊島事件については下記のリンクからご覧ください。
ー 木村先生の研究室の研究内容は下記をご覧ください ー
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