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⭐️心の処方箋 第6回 病気と生き方⭐️

夜間当直をしていると緊急性がないことで呼ばれることがあります。

「今日は薬を飲みたくありません。」「何となく胸に違和感があります」などなど。多くの場合、話をゆっくり聞くことで訴えはなくなります。

一人で入院生活を送ることへの孤独や不安感などその人の悩みを吐露されることが非常に多いです。

私の尊敬する医師の1人にポール・トゥルニエというジュネーブの医師がいます。

トゥルニエは内科医をしているうちに、病気とその人の生き方との間には深い関係があることに気が付きます。著書を参考に1つの例を紹介したいと思います。

ある大使は不眠症に困り果て病院を受診します。
医師は薬を与処方しましたが、だんだん効かなくなり、別の薬に変えると、それもやがて効果がなくなります。
ついには医師を転々と渡り歩くようになりました。
それでも不眠は解決せず、困り果ててトゥルニエに手紙で相談をします。
「どうしても眠れません。住まいが騒音が激しい所にあるんです。政府に別のところに場所を住まいを移してくれるよう頼んでも全然受けてくれません。騒音のために眠れなくて困っています。」
そこでトゥルニエは、こう答えます。「大使閣下、あなたが眠れないのは、騒音がひどいからではなく、あなたが騒音に腹を立てているからです。」
それから1年ほど経ってテゥルニエの元に大使から返事が頂きます。
「お手紙を頂いた時私は大変腹を立てました。私を馬鹿にしていると思ったからです。
しかし、落ち着いて考えているうちに、確かに自分はイライラしている、音に対してだけでなく私を別のところに住まわせない政府に対しても腹を立てていることに気が付きました。
逃げようとしても逃げられない騒音ならむしろ自分の方から受け入れるようにしてみたらどうかと考えました。
おかげさまで、今では騒音の中でも一晩中ぐっすり眠れるようになりました。」

薬を与えるのは簡単です。しかし、それは表面的な治療にすぎないことがあります。
無数のケースに於いて病気の症状は、その人の生活や生き方と密接に関わっているからです。
このことは単に不眠症だけでなくその他多くの病気についても言えることです。
トラブルの問題となっているのは、肉体や神経の問題ではなく、生き方の問題であることがあります。
生き方のゆがみが原因で非常に精神に負担がかかり、それが問題となって病気になる場合が多いのです。
ー以上著書より一部改変ー

テゥルニエの様に、本質をズバッと見抜ける様になれたらと思います。
医療も専門化しすぎて、心臓病は循環器内科、腎機能障害は腎臓内科、白内障は眼科、膝の痛みや腰痛は整形外科、頻尿は泌尿器科、認知症は精神科、入れ歯は歯科、、、、などなど複数科にたくさんの医療機関にまたがって受診している場合が多いです。
ばらばらになったその人の医療を1つに統合することが必要となってきています。
その為には患者さんと心を開いて話す時間や傾聴の時間が必要ですが、医師にもノルマがあり時間捻出のためには工夫が必要です。
さらに、昨今医師の働き方改革で主治医制度は非効率的なので止めるべきだとの提案もされています。
病気だけでなく、その人を全人的に診てゆくのは誰?と問いたい状況です。
人を診ない医療は新たな文明の病を生みかねません。
高齢化社会の中で、老い、病気、死への潜在的不安が増大しており、心身の様々な訴えとなって表れてきています。
それらの受け皿をどうするかが問われていると思います。


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