サケカケル④
「言うは易く行うは難し」とはよく言ったもので、酒づくりは想像以上に過酷で繊細で、心の奥ですこし舐めていたことを痛感した。父さんは酒に関する知識を一切避けてきた僕に一から、いやゼロから細かく教えてくれた。
テレビで見るような「師匠と弟子」といった感じでもなく、怒鳴ったり、「お前はダメだ」といった言葉を浴びせてくることもなかった。ただ、父さんが真っ直ぐに酒づくりに向き合っていることは、伝わってくる。
―いつか、父さんみたいにやってみたいな。
最初は罪悪感で継いだ酒づくりだが、いつしかいっちょ前にそんなことを思うようになっていた。
酒づくりの奥深さを知ると同時に、僕は酒を広める難しさも感じていた。誰も、特に若者は酒の本当の美味しさを知らない。
おそらく、学生時代に安い居酒屋で飲んだうまくない酒の記憶が邪魔しているのだろう。僕も人のことは言えないが、それではあまりにも勿体無い。
酒づくりに関しては僕はまだまだ父さんに勝てない。でも、この酒のうまさを若い人たちに伝えることは、今の僕にだってできるはずだ。
僕は酒づくりの修行の合間に夕里子を呼び出して、相談を持ちかけた。
「うまい酒を、ちゃんと知ってもらおう」
夕里子の目がきらっと輝いた。
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