サケカケル②

夕里子からのプレッシャーは、日を追うごとに強くなっている。実際は、僕がそう感じているだけなのだけれど。「早く結婚しよう」とか何とか直接的に言われているわけでも、「友達は結婚してるのになあ」と言って僕のことをチラチラ見る視線を感じているわけでもない。ただ、早くなんとかしなければと僕が、僕自身に対して思っているだけだ。

「ねえ、私との結婚をためらってる理由、当ててあげよっか」

いつものように、一緒に暮らしている神戸元町のマンションで、酒蔵の息子らしくしぼりたての日本酒を仰いでいると、夕里子が唐突に言った。

「べ、別にためらってるとか…では…」

夕里子の表情からは気持ちが読み取れず、僕はもごもごしてしまう。

「これ、でしょう?」

そんな僕をよそに、夕里子は、僕たちの手元にある見慣れた銘柄の日本酒の瓶を指差した。「図星」という言葉の本当の意味を初めて知った気がする。そしておそらく僕は、そんな顔をしていたのだろう。夕里子はふっと笑って続けた。

「もうずっと一緒にいるんだから、それくらいわかるって。未練たらたらなんでしょう?」

僕が何年もかけて見て見ぬふりをし続けてきた自分の気持ちを、夕里子に改めて気づかされる。

「いいじゃん、一緒にやろうよ」

夕里子は、「今日、焼肉食べに行こうよ」のテンションでさらりと言ってのけた。

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