サケカケル⑤

「ねえ、また新しい発注がきたんだけど!」

あれから数年。僕の酒蔵は、急激に人気が高まり、今まででは考えられないくらい多くの人に知ってもらっている。夕里子が作ったラベルも、最初のうちはあまり受け入れられなかったけど、一部の若い人たちの間で話題になって、そこからSNSを通じて、一気に広まった。それがきっかけと言ったら過言かもしれないけど、若者の間で日本酒が流行し始めた。

 もう、おじさんが立ち飲み居酒屋でしっぽりと飲むお酒ではなく、おしゃれなバルで乾杯するドリンクとなったのだ。

 僕はというと、あんなに嫌がっていたはずの酒づくりの仕事にどっぷりとハマっている。生きている酵母とはもう友達だ。彼らのおかげでお米は美味しいお酒になってくれる。

 最近では、ちょっとフルーツを入れてみたり、発砲させてみたり、どんどんと新しいことにチャレンジしている。父さんは、最初は「そんなもの…」と怪訝な顔で見ていたけど、僕の熱い説得の末、今では「こういうのもいいな」と喜んでいる。でもやっぱり、昔からのお客さんは、「この酒はまだまだだ」なんて言うから、僕もまだまだ半人前なのだろう。

 「ねえ、聞いてる?このままだと足りなくなっちゃうよ!」

忙しい毎日だけど、大好きな夕里子と、大好きになった酒づくりで、僕は結構、幸せな日々を送っている。

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