サケカケル④

「ねえ、できたよ」

あれから一ヶ月。僕は酵母との格闘に必死だった。酵母は本当に生きている、これは人間を相手にするよりも難しいことだ…、と思っていたタイミングで、里子から連絡があった。夕里子と会うのはあの日以来で、久しぶりだ。

久しぶりのデートは、よく行く近くのコーヒーショップにした。今日もこのあと酒造りの仕事があってきちんとしたデートができないことを申し訳なく思っているが、そんなのを気にしているのは僕だけのようだ。

「ジャーン」

そんな僕をよそに、夕里子はA4の紙を差し出した。そこには我が家の銘柄のラベルがデザインされていた。相変わらず仕事が早い。

一ヶ月前、デザイナーとして働く夕里子に、日本酒=おじさんの飲み物という認識を払拭するために、ラベルデザインを依頼していたのだ。

こうやって変えていけば、少しずつでも若者たちに広まっていくのではないか、僕はそう考えている。

「どう…かな?」

自信なさげに夕里子は感想を求めているが、僕の予想よりもはるか上をいく仕上がりで、文句のつけどころがない。

「すごいよ!これでいこう。なんだかうまくいく気がする」

あとは、僕の酒造りの腕前だけだ。

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