サケカケル③
「やっぱり継ぐわ」、なんか軽いな。
「継がせてください」、逆に硬すぎるな。
夕里子に後押しされ、実家の酒蔵を継ぐことにした僕だけど、いざ継ぐとなると、父さんと母さんになんて言ったら良いのかわからない。
学生時代に二人の期待を見事に裏切り「絶対に継がない」と啖呵を切った手前、恥ずかしいし照れくさい。
「そんなの、さらっと言っちゃえばいいのよ。喜ばないわけないんだから」
当の夕里子はお気軽な様子だ。
そして僕は、「よし言うぞ」と決めてからちょうど1週間が経った土曜日の夜、僕は二人を食事に連れ出した。
「あのさ、お酒、継がしてもらいたいな、って思ってさ」
夕里子に告白するときも、こんなにモゴモゴしなかっただろう。あ、夕里子には、僕があまりにも言い出さないから呆れて告白されたんだっけ。
「今更何を」と怒鳴られるだろうか。
「ようやく言ってくれたわね」と泣かれるだろうか。
「ふーん、そっか」
え?それだけ?
継がないと言った日と、ほぼ同じ淡白な反応だ。もう少し喜んでくれてもいいじゃないか、と僕は拗ねそうになる。
けれどその日は、父さんも母さんも、僕が今まで見たことがないほどお酒を飲んでいたし、何度も繰り返す「ふーん、そっか」が少しずつ軽やかになっているようだった。
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