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第22回アクサブレイブカップブラインドサッカー日本選手権予選ラウンド 松本山雅B.F.C. 第2戦レビュー

第1回の投稿を終え、フリバを応援いただいている方や普段ブラサカに接点の少ない方に試合の裏側をお見せすることができたのかな、と感じています。
サッカーやフットサルの戦術論が好きな方にも興味を持っていただける内容なのかもしれません(ブラサカは言語を大切にするスポーツなので戦略や戦術がお好きな方はハマりやすいスポーツだと思います)。

第2回は予選ラウンド第2戦のレビューです。

第1戦を0-0の引き分けで終え、私たちが掲げている「トータル・フットボールの体現」を目標に据えて臨んだゲームです。

準決勝ラウンドへの進出のためには「勝つ」こと以外に条件はありません。
初戦の結果を受けて、ある意味吹っ切れた状態でこの試合に臨めたのかもしれません。

この試合に臨むメンバーは、これまで多くの大会で優勝を重ねてきた中心である鳥居、園部、丹羽、永盛、泉といった男子日本代表に名を連ねるメンバーたちではありません。また、園部、丹羽、永盛に加え、前回大会の決勝でチームの最終ラインを任せた若杉も怪我で欠場です(それゆえに第1戦の「勝利」が準決勝ラウンドへ進出するための絶対条件と当初は捉えていました)。

戦略を考える上で、「勝つ」ためにはゴールを奪う必要があります。鳥居を中心に据えつつ、昨年からチームに怪我人が続出したタイミングで大車輪の活躍をした北郷(前回大会MVP)と第1戦がフリバトップチームのデビュー戦となった島谷(女子日本代表)がこの試合で「ゴールを奪う」ための鍵となる選手たちと決めました。

【2024年11月3日(日) vs 松本山雅B.F.C.】
結果:3-2◯
得点 fbm:鳥居(1st)、島谷(1st)、北郷(2nd)
得点 松本:清水(2nd)、オウンゴール(2nd)
fbmスタメン:泉健也(GK)、鈴木仰(FIXO)、北郷宗大(左ALA)、鳥居健人(右ALA)、島谷花菜(PIVO)
《システム・フォーメーション》
保持時:右肩上がりのダイヤ型
非保持時:ダイヤ型

《チーム戦略&戦術》
MTGで使用したスライドの一部を貼り付けます。

試合前MTGで使用したスライド

気になるキーワードに「リカオン」があると思います。今回の記事のタイトル写真に使った動物がリカオンです。
リカオンは主にアフリカ大陸に生息するイヌ科の肉食動物です。集団で狩をする動物で、狩の成功率が非常に高い(自然界では驚異的な数字の80%ともいわれています)ことで有名です。
第1戦の反省を踏まえて、また「闘う」という気持ちを奮い立たせることも狙って映像資料も使いながら戦略と戦術を伝えました。

⚠️注意⚠️
元ネタはDAZNの「内田篤人のFOOTBALL TIME」の一コマからです。

私たちのスタイルは「ボールを大切にする」というサッカーです。技術力が必要なことは大前提ですが、相手を上回るためには常にボールを持ち続けて、攻撃し続けられるチームであることを目指しています。
そのためには相手ボールになれば「ボールを奪う」。
狙うのは即時奪取です。

そして今回の相手もカウンター攻撃が得意で、その精度は日本でNo.1の平林選手です。彼にボールを持たせたら高い確率で自陣ゴール前まで運ばれてしまいます。
それゆえ、彼にボールが渡ったら直ちにボールを奪い返すこと、すなわちボールを狩ることを伝え、臆して後方に下がることを許さない、とはっきりと伝えました。
仲間のためにボールを奪え、怯むな。前へ出ろ、と。
※平林選手の自由を常に奪うことを目指した守備戦術は第1戦からの継続です。

《戦況と反省》
●1stハーフ
@保持時
★ 枠内シュート数/総シュート本数
北郷4/4
鳥居1/2(得点1)

島谷1/1(得点1) ★初得点

・7本中6本(85%)が枠内シュートで、6本中2得点(33%)だった。
・北郷の4本のシュートのうち、3本はGKにキャッチされるゴロシュートだった。
・平林選手によるカウンター攻撃のシーンは4回(これは松本がボール保持の状態でフリバゴール前まで進入した回数とイコール)。最終ラインに入った鈴木(普段はチーム代表の晴眼FPでこの試合がデビュー戦)を平林選手が突破するシーンを作らせず、鳥居も必死の対応で自由を奪った。
・被シュート0で折り返し。

鈴木は臆することなく高いディフェンスラインを保ち続けてGKの泉と連携して平林選手の自由を奪った。

・(手前味噌だが)鳥居の得点はベンチの力もあったと感じている。5分程度経ったところで、相手のダイヤ型守備の右ALAの選手に注目した。「彼と鳥居が瞬間的な1対1の状況を作れればゴールまでの道ができる」と確信し、フェンス近くに来たタイミングで耳打ち。その後鳥居はGKの泉からボールを受け取り、自陣右サイドから相手陣の左サイド(対象としていた松本のFP)方向に斜めに加速したドリブルで進入し、シュート。直後タイムアウトで改めて狙いを伝え、貴重な先制点に繋がった(当然ながら、決め切る力を持っている鳥居が素晴らしいことはいうまでもない)。

●2ndハーフ
★ 枠内シュート数/総シュート本数
北郷3/3(得点1)

鳥居2/3 ※FK1本、CKでクロスを受けて1本
・6本中5本(83%)が枠内シュートで、5本中1得点(20%)だった。
・被シュートは3本。枠内シュートは2本で、失点1。もう1失点はオウンゴールによるもの。
・1失点目はチームとしての約束事(プレー原則)である「1stDFの決定」が曖昧になってしまったことよる失点。ボール保持者への対応をミスしたことに起因するが、チームとしての約束事の徹底をしきれていなかったことが根本の原因である。
・2失点目は平林選手の得意な形での進入を許したことが原因で誘発されたオウンゴール。平林選手の攻撃開始位置は相手陣左CK付近。約30mの直線ドリブルを4.99秒で実行する能力はさすが(時速21.6km)。そして、スピードもさることながら、相手に近い腕でハンドオフでしっかりと自分の間合いを確保し、DFよりも半身前へ出ることに成功した。
・ボール保持時の戦略と戦術に大きな変更なく2ndハーフに入る。
・2-1→3-1→3-2と試合が動くにつれて、より安全にボールを大切にする戦術に修正。
・相手守備の1stラインのプレスの掛け方を探り、試合を通して実行に変化がないことを確認して、フロントエリアの活用を指示。
・試合終盤(松本にとっては最後の攻撃となったシーン)に平林選手の個人技でゴール前まで進入を許し、シュートされた。このシーンのフリバ選手たちの対応は見事だった。

平林選手のドリブル突破を阻止するために迎え撃つDF陣とプレスバックして挟み込みにいく。このシーンは島谷が1stDFとして平林選手に喰らいつく。

●反省
@保持時
・チームのシュートデータはトータルで13本中11本(84%)が枠内シュート。11本中3得点(27%)だった。
・相手守備対応の特徴として「ボール」に強い意識を持つことが第1戦からのデータでわかっていた。
・それゆえに、エリア毎に意図的にボールを動かすことを目指して試合に入った。
→試合序盤こそ縦への意識が強かったが、得点が生まれた時間帯はピッチの横幅を広く使いながら相手の背中を狙う攻撃でゴールを奪えた。
・特に相手陣の右奥に起点を作ることで、平林選手に守備対応することを迫り、仮にボールを奪われたとしても、平林選手の攻撃開始位置をなるべく深い位置からスタートさせ、撤退守備で迎え撃つ時間を確保することを狙った。
@非保持時
・今回の試合に出場できるメンバーを見た時に、別の監督であれば、違う陣容や配置を考えたかもしれない。
・キープレーヤーは平林選手だったため、中盤の守備強度の高さを常に保ち続けることをポイントに据えた。
→平林選手を北郷と鳥居の2人で責任を持つことを伝え、実行することができた。何度か突破を許したが、抜かれた後も背走し、プレッシャーをかけ続けた(シュートのミスを誘うことができた)。
→(セットプレーを除いて)ファイナルエリアで自由にプレーさせることがなかった。

上段左から鈴木、北郷、鳥居、泉
下段左から大元、島谷、坂本

●まとめ
「トータル・フットボール」

これは私たちのスタイルです。

どんなメンバーであってもこのスタイルは変えてはならない。そう改めて感じました。
変えてしまえばそれはfree bird mejirodaiとはいえません。

私の心のクラブであるアトレティコ・マドリードのカピタンを務めるコケ選手が最近のアトレティコの戦いぶりについて問われ、こう答えました。

「お金よりも大切なのはDNAだ。」

この発言は、現在LA LIGA 3位につけるチームの状態について問われたものです。今季、大型補強に踏み切ったチームの動きに関連した質問の返答として「大切なのはDNA」とはっきりと発言しています。

アトレティコの特徴を一言で表すと「献身性」でしょうか。皆がチームのために、仲間のために泥臭くゴールを守り、勝負所を外さずに決め切る集中力があります。試合も終盤に追いついて逆転という展開の多いチームです。
中堅クラブだったアトレティコを強豪まで押し上げたのは現監督でもあるディエゴ・シメオネの手腕によるところも大いにありますが、元々労働者階級の人々がサポーターとして支持していたチームであったり、同じく首都クラブとして圧倒的な資金力で世界トップクラブの座に君臨するレアル・マドリードがいたり、と「泥臭く」「献身的に」「チーム一丸で」「ビッグクラブに勝つ」というスタイルがシメオネの思想とクラブ文化がぴったりとマッチしたのだろうと思います。

こうした物語を背景に、今回の予選2試合をまとめると、やはり私たちのスタイルを崩すことなく戦い切れたことは、私たちの成長に大きく繋がる試合だったと感じています。

ピッチ内においては、ボールも人も動き続けて優位性を持ち続けること。
ピッチ外でも、選手・スタッフ・サポーターが同じ気持ちで戦うこと。

まさにチーム一丸。トータル・フットボールの体現です。

最後にこの試合のMVPをあえてあげるなら、島谷でしょう。
女子代表では主に中盤の底、アンカーと呼ばれるポジションで攻撃のタクトを振る役割を担っています。ですが、この試合では「ゴール」を求められるPIVOに入り、見事初得点をあげました。
思い返せば、国際試合デビューとなった2023年の世界選手権の開幕試合(相手は開催国のイングランド)でもゴールを決めました。
実力もさることながら、そういう星の元に生まれた「何か」を持ってる選手なのかもしれません。

次戦は12月22日に静岡県浜松市のサーラグリーンフィールドにて行われる準決勝ラウンドです(観覧無料)。
対戦相手は未定ですが、2月8日に町田市立総合体育館で行われるファイナルラウンドへ進めるように戦っていきます。

日本選手権と合わせて開催されているブラインドサッカートップリーグLIGA.iの第2節も11月23日にbuen cambio yokohamaさんとの試合を控えています。こちらはYouTube配信がありますのでぜひご覧ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回は準決勝ラウンド終了後に投稿します。

→前回の記事はこちら👇

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