晴耕雨読:「学習する組織」(学習が組み込まれる職場環境の構築:第14章 戦略)
■はじめに
この本の特徴であるが、表題は内容を表していない。本章においても、「戦略」と表題はあるが、戦略とは何か?あるいは戦略の作り方は何か?が記載されているわけではない。
「以前から分かっていることだが、「学習する組織」を構築できる特効薬などありはしない」のであれば、成功に導く物語に説得性はなく、当然戦略としては成り立たない。
では、個々に記載されていることは何かと言えば、「職場環境を構築する」ための考え方の規範である。
■戦略的に考え、行動する
最初の節は、考え方の再整理である。
(注:著者は「戦略」という言葉を頻繁に使うが忘れるように)
最初に学習に関する理解を深めるためのフレームワークが示されている。
一つ目は、「深い学習サイクル」には「信念と前提、慣行、スキルと能力、関係のネットワーク、気づきと感性」がその要素であるという。
二つ目は、一貫性のある戦略には「基本理念」「理論・ツール・手法」「(学習の)組織インフラにおけるイノベーション」を上げている。
その上でシステム思考の前提に二つの事柄(原則)を上げている。
・構造が挙動に影響を及ぼすこと
・社会システムを支配する構造は、これらのシステムの中にいる当事者が取る行動の累積的な影響によって生まれる
我々自身を規定する構造は我々自身が作り上げていると言うことである。
学習する組織は「これまでもずっとこうしてきたから、これまでしたことを今もしている」を否定しなければならない。ではどうするのだろうか。
■8つの戦略ではなくて・・・
続けて記載されるのは「八つの戦略や事例」なのだが、成功のためのナラティブという性格を戦略に求めるのであれば、少し違う。最初の「職場環境を構築」する為の課題が記載されていると考えた方が良い。そうした視点で、列記してみる。
①学習と仕事を一体化させる
「学習と仕事を一体化させる」為にすべきこととして、
・根底にある前提を表面化すること(何を振り返るのかを明らかにすること)
・そのため(「振り返りのための振り返り)の時間を確保すること
・その時間は、お互いの声に耳を傾けるのであるから長期の取り組みにすること
・記録を残し振り返りを確認できること
・振り返りは仕事の遂行の一部として位置づけること
を上げている。
振り返りに当たっては「何が起きたか?」「何を予想していたか?」「この乖離から学べることは何か?」を明らかにすることが重要であり、「主体性を現場に持たせる」ことを求めている。
②そこにいる人たちとともに、自分のいる場所から始める
この節は、下記の指摘への回答となる。
「深い学習の戦略的な枠組みは経営陣にしか当てはまらないと考えがちである。だが実施には、戦略的に考えることはあらゆる階層のリーダーに当てはまる。」
「必要な変化についていちいち経営陣が後押ししてくれるのをただぼんやりと待っていたら、長い間待つことになるでしょう」
成功事例をいくつか挙げているが、ここでは「不可能に思えること」は。必ずしも解決できないこととは限らず、焦点化させることで取り組みができることを示している。そしてそれは、そこは自分たちの場所であることを実感させる取り組みで実現できる。
③二つの文化を併せ持つ
ここでは組織が「二つの文化を併せ持つ」ことを理解するリーダーが必要であることを説く。「業績の飛躍的な向上をもたらす抜本的なイノベーションは、ほぼ規定通りに業務をこなしている人やチームにとっては脅威となる可能性がある。」これは現場だけではない。経営陣にとっても目の前の利益にしばれれることがあり、障害となりうる。
そのため、「経営幹部の目の届かないところでイノベーションを続ける」“密かな変革”や、業績指標を全面に出すことで経営と現場をつなぐ術をここでは示している。
④練習する場を創る
「練習の場」の考え方は、「練習する機会がなければ何か新しいことは非常に難しい」という単純な事実に由来する。ではじまるこの節では、キャンプなどのメタファでその重要性を言う。
「1度自転車に乗れるようになったからといて自転車を乗りこなせたことにはならない」ことを忘れないこと。ただし、正解があるわけではない。
⑤ビジネスの中核とつなげる
①において「・振り返りは仕事の遂行の一部として位置づけること」
③において「業績指標を全面に出すことで経営と現場をつなぐ」
を示した。
この節では、最初に自分たちの企業のレーゾンデータルを明らかにし、これを中核として「新しい価値の源はどうすれば最も自然な形で組織にもたらされるか?」の問いかけに応える事例をナイキの活動に焦点を当てている。
⑥学習するコミュニティを構築する
「私たち自身の深いところにある問いや志が組織の本質につながると、コミュニティは発展する」という言葉は、自己マスタリーや共有ビジョンが確立されるとチーム学習が進むのか、チーム学習ができる環境(コミュニティ)が構築されると自己マスタリーが高度化してくるのかがわかりにくい。おそらくは両方であろう。
この節では、学校改革を例に取り、コミュニティの重要性を説いている。
⑦「他者」と共同する
しかし、こうしたコミュニティの形成には注意が必要であることを指摘している。
「インターネットでは、退場のコストがかかりません。お互いに飽きてきたり、他人が言っていることに興味がなくなったりすれば、簡単に接続を断つことができます。その結果もたらされるものは、すべての人がほとんど同調し合うコミュニティです。」
本項では、ますます多様化してゆく世界において、同調だけに偏ることはできないという。
「チームで一緒に働くのに誰を選ぶのか、私たち全員が何を選択するのか、そしてこれらの選択が、仕事を成し遂げる上で必要なものと本当に中和しているかどうかに目を向けなければなりません。」
気まずい相手と形成されるネットワークは機能不全になりかねない。
⑧学習インフラを構築する
最後の項は、「学習が真に影響を及ぼすには、学習を組織の機能の仕組みにしっかり織り込まなくてはならない」として
・訓練及び正規教育
・練習(の実践)
・研究
・ドクトリン(原則や方針)
に着目することを求めている。
それは従来のインフラ以上のものが求められている。
「次世代の学習インフラは、分散コンピューティングやシミュレーション、車内の高度なコンサルティング資源を活用することになります。」
現在では、急速に発展するAIなども活躍の場となるだろう。
■配慮すべきこと
「学習インフラの重要な役割を認識する経営哲学がないうちは変化が起こる可能性も低い」
そして
「いまだに多くの経営者が、将来の結果に向けた能力の構築ではなく、近視眼的に目先の成果を得ることに焦点を合わせている」ことを憂いている。先義後利の視点が必要である。
章の最後はこう締めくくられている。
「人々は、自らの戦略やリーダーシップ慣行の構築の一環として、自らの文脈において機能する形で、自らの取り組みの真意を表現する自分自身の言葉を見つけなければならない」
<続く>