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ange〜アンジュ〜
プロローグ
「このディアーブル!!あんたなんぞ何処ででも果てておしまいよ!!」
ダン!!と俺を突き飛ばした恰幅の良い、母親とかいう生き物が肉憎しげに見下ろしてくる。俺は意識せず、睨みかえしてしまう。
(しまった)
…と思った時にはもう、その母親とかいう奴はカアーっと頭に血が昇った顔をして俺の腹を蹴飛ばした。
「あたしゃあんたのその目が蛇より大嫌いなんだよ!!!もう二度と顔を見せるんじゃあないよ!!!」
バタン!と薄いドアが乱暴に閉められ、中から何やらがなり声が聞こえてくる。
(……)
もう、ため息も出ない。どうにでもしてくれ、としか感じなくなってしまった。
あの生き物の俺への暴力は今に始まった事ではないのだ。出て行けと言われたのも、過去にも数回はある。
だが、どうしようか…。こうなると少なくとも5日か7日は家なし子の飲まず食わずだ。ボロ屋とはいえ、寝床には汚いが毛布の一枚はあった。毎日一度の薄いスープと硬いパン一切れもない。
「ディアーブル(悪魔)なんて酷い言われようだな、お前」
やけに明るい声に、その言葉が俺に向けられたものなのか、一瞬疑った。
「いや、悪いが見てた。なんと言ったもんか…」
バツが悪そうに頭を掻きながら路地の向こうから近づいてくる見知らぬ男……同情でもされてるんだろうが、どのみち他人だ。
だが、この後この男の言葉に、俺は呆気に取られる事となった。
「お前に俺がもっと良い名をつけてやるぜ!」
そして、なんでか、俺の凍り切った心が溶け始めた証のように、一筋の水滴が頬をつたった。