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夢分析記録

 15年ほど前の高校入学の直前、一年近くかけて自我人格の統合を進めていったときの夢の過程、その記録の抜粋。ときおり出てくる【】内は注解(必要と思われる以上には付けていないが)。


2005/7/12(火) 対立、黒き獣と白き獣の夢
 延王尚隆とルカ・ブライトが対峙する。大勢の部下を引き連れて、私たちを追うルカ・ブライト。一人きりでその追っ手を阻む尚隆は、黒い獣人へと姿を変えて戦った。敵方はその圧倒的な力に驚愕し、そこに新たに白銀の鎧をまとった三つ首の龍が現出する(ルカ・ブライトの変化した姿?)。
 ……背後で地割れが起こっている。その時初めて、私は尚隆に助けられたことを知った。二振りの短刀を握りしめ、自分も彼の所に行くと言うと、連れの男が制止する。半人前のお前に何ができる、という忠告を無視して、私は曖昧な記憶をたどりながら尚隆のいる場所へと走り出した。
 ……雲間を漂い、下へ下へと降りてゆくと、不意に自分がみすぼらしい格好をしていることに気付く。人間の住む下界は雨と風が荒れ狂い、私は雷を恐れて灰色の雲の中に身を隠した。嵐を突き抜け天の果て、星々あまねく夜の空を飛翔する。瞬くことのない光の点が、赤や緑と河のように群れをなす。見下ろせば一面に雲海が広がって、ここから人の街を見ることはできない。星の世界、はるかな高みから気の遠くなるほど落ちて、私はある神社に降り立った。そこには尚隆を良く知るという一人の覡≪かんなぎ≫がいて、私は彼と話をすることになった。

【注解:ここで表される十二国記の延王尚隆は、トーナにレザンを足したような(すなわち自我コンプレックスに対して親しい態度をとる)人物像である。一方の幻想水滸伝Ⅱの狂王ルカは、あらゆる従順でないものである。彼ら二人はまた、どちらも王である。】


2005/8/9(火) 出力とテーブルの夢
 小さなテーブルで物を考えろ、と言われた。はじめはその方がすっきりしていていいと思ったが、それでは不要とされた他のものが置けないことに気が付いた。あわせて、テレビの方も新調しようとしていた。が、そうなると接続プラグの仕様も異なり、メインコンピュータからの接続は一元化されるが、S映像端子が使えない(つまりモニタへの出力の質が落ちる)と知った。それなら、面倒だが従来の三ツ口のプラグを使いたかった。
 自分から頼んでおいてなんだが、と断って、私は電気技師の提案を突っぱねて、元に戻してくれ、と言った。テーブルも、場所をとるが大きいままでいい、と。


2005/8/19(金) 神の器を提示される夢
 様々な楽器類が並ぶ商店街の小さな店で、軒先に飾ってあったギターに似た楽器を即興で演奏した。店主に「86点」と言われた。二千円しか持ち合わせがない私がどうしようか迷っていると、店主から「カエル司令」からの電話を渡される。「お前がこの道を望むなら私を手に入れろ」と、ある会社のある場所を指定された。
 道すがら、鳥使いの男が通行人を相手に芸をしているのを見る。その場所に着くと、私は一面が高く広いガラス張りになっているオフィスに案内された。
 ……それは、神の器だった。彼そのものではなく、彼のエコー(残響)を留めることになるだろう器(一昔前のおもちゃのような、モニタ付き通信機)について、彼、「カエル司令」の説明を受けた。試験段階の今は彼の意志が直接その中に降りて話しているが、もし私が購入して所持することになった場合、彼はその器を去って本来の世界に戻ることになっている。人が所持できるのは神ではなくその形式、振る舞いのパターンにすぎないが、しかしそれは人が望みうるもののうち最高の価値と意義を持っている。
 だが残念ながら、私はそれを手に入れることができなかった。私は私の世界の価値であちらの世界の価値をはかろうとしていたが、それは無謀な試みであった。あまりにも貨幣価値の差、レート差がありすぎたのだ。約二百倍の差を考慮に入れなかった私は、手が届くと思ったが、器が向こう側の存在でありどのように見えても手が届かないと知ったとき、ひどく落胆した。その代償は、とうてい今の私に支払いきれる額ではなかった。


2005/8/29(月) 太陽の英雄の夢
 私は、傷ついたカガリと出会った。(その夢の中の架空の)雑誌のインタビューに、彼女の言葉が記録されていた。「昔のことは、思い出せないんだ。お父様(ウズミさん)に引き取られてからのことは、ちゃんと覚えているよ。ところどころ欠けてるけどな」と、海上基地で待機するそのモビルスーツのコックピットで、アスランとキラに向かって語りかける。
「お前たちのことは好きだけど……そのうちすぐに、分からなくなる。憶えていられるのは今だけだ。私は、途切れ途切れでしかないからな」それでも私はこの国で戦い続けるだろうから、そしたらまた友達になってくれないか? と、深刻な話をしているはずなのに、彼女はひどくあっさりとした調子で言う。
 カガリはこの国のエースパイロットで、攻めと守り、両方の要である。記憶障害があろうが、モビルスーツの操縦で彼女の右に出るものはなく、だからいつでも空を翔け、自分のすべてを失いながら戦っている。
 彼女の生まれについてはよくわからない。ただ、あまり恵まれた環境ではなかったらしい。内乱の続く戦地で傭兵だった男に拾われて、それからしばらくは彼と一緒に旅をつづけ、戦い方と、生きるための術を教えられた。戦死だったのか失踪したのかはわからないが、彼がいなくなってからはカガリ一人で騒乱の地を渡り歩き、平和なオーブにたどり着いて今の父と出会うまで、なまじ腕が立ったために暗い傭兵家業に身をやつし、人の闇を一身に背負って血と泥にまみれながら命を繋いだ(しかし彼女はそのことに対して何ら悲しみのそぶりを見せない)。
 今のカガリは、誰に戦えとも言われていない。たしかにオーブの英雄ではあるのだが、しかしこの国には誰一人、カガリに戦えと命じるものはいないだろう。父、ウズミは言う。
「皆、お前を信頼している。しかし案じてもいる。この父もそうだ。どうかそのことだけは忘れないでほしい――カガリ、お前はオーブの、太陽に愛されし子なのだから」


2005/10/8(土) 影の王と光の剣、白き姫との婚姻の夢
 黒紫色の空の中で、影の王と、従者の魔神と戦った。吞み込む影を退ける剣は、魔神の手の中にあった。私はそれを奪うために素手で弾丸のように突進し、腹に体当たりを食らわせて奴の剣を弾き飛ばした。影の王の間近に落ちた(留まった)剣を魔神よりも早く、影の波が押し寄せる前に手にしようと、私は全速力で空を翔ける。
 ちょうど柄に手をかけたとき、暗い影が私の周囲を覆って、剣の淡い白緑の力場にさえぎられた。死をもたらすはずの影は、剣に守られた私に何の被害も与えない。私は反撃に出た。影の王に猛攻をかけるが、そこに長大な刃を振りかざす魔神が割って入って、私はそいつの相手を優先せざるを得なくなった。
 ……持ち主と同じで、厳めしい剣だ。幅広の、後方に湾曲した白銀の刀身は、ほぼこちらの背丈と変わりない。奴の剣を奪ったことで、本来の力を目覚めさせてしまったのか……打ち合うたびに、ものすごい衝撃で腕ごともっていかれそうになるが、この剣を失うことは即座に私の死につながる。影の王はまだ生きているのだ。私は少し、焦っていた。力押しは無理だが、間合いをとれば一方的に切り刻まれる。魔神の斬撃をかわし、奴の懐に飛び込んで斬りつけた。瞬きひとつで確実に頭を割られ、肩を落とされる。激しい撃剣にタイミングを合わせ、打ち返す。鋭い刃の切っ先が、私の目前まで迫る。だが、影の王の攻撃には決して背を向けてはならない。いかに守護の剣といえど、私の背後まで守れるかどうかはわからない。
 しかしそれでも、優勢なのはこちらだった。恐るべき敵二人を相手に圧倒的に不利なのは変わりないが、この剣が私の手にある限り、彼らは決して倒せない存在ではなかった。

 ……逃走した影の王を追って足場の狭い崖を登り進む。上まで登りきると、仲間が配下の兵を引き連れて宮殿へ向かうのが見えた。彼と話すうち、そういえば私にも部下がいたのだと思い出した。一瞬迷ったが、そのまま宮殿への階段を昇る。彼らを待つ時間など、無かった。入口の大扉を押し開けると、白いドレスの姫が二人の男に連れられてゆくのが見えた。私は両側に円柱の並ぶ通路を駆け抜け、その一人に抜き放った刃を突き立てる。切っ先は男の背中を深々と貫いて血に汚れた。もう一人は、姫をかばう形でじりじりと奥に下がっていく。後続の部隊はまだ来ない。私は一人で彼らと戦い、姫を取り戻さねばならなかった。
 実力が上の相手を死に物狂いで倒し、白き姫の手を取ったとき、私は敵国の貴族が集まる儀式の広間(パーティ会場?)に足を踏み入れていた。テラスの向こうに遠く、海に浮かぶ島が見える。これだけの敵を相手にするのはさすがに無理だ。ここまでか、と私が覚悟を決めた時、老王が衛兵たちを制止して、玉座から進み出てきた。血まみれの私の姿を認め、話を聞け、という。一人でも多くの敵を道連れにしようとしていた私は、不意に“竜王の誘い”を連想した。
 彼は、私が救い出そうとした姫の父だった。つまり白き姫は、敵国の王女なのだ。私は王の真意を疑いながらも、生きる光明を見出そうと彼の言葉に耳をふさぐことができなかった。私の中に流れる血の半分は、彼女のものだった。だから私の半分はこの国の人間で、姫をもらい受ける資格がある、と敵国の王は言った。
「望むなら、この場で式を挙げるがよい。互いに血を分けたお前たちになら、いずれこの国をやろう」

 ……どこか遠くで、鐘が鳴っている。よくある話さ、と村の女が言った。海に浮かぶ小さな島で鐘の番をしている老人は、この鐘を鳴らす機会をずっと待っていたのだという。二つの国の王は互いに隣国との争いを終わらせたいと考えていたが、適当な口実がなくて困っていた。要するに、そういう話をすれば必ず、自国を相手国より優位に立たせようとして、どちらがどちらの属領になるのかなどという話になる、和平交渉でもめ事を起こすなど論外だった。
「まあ、でも……これでこの国も安泰だな」村人たちは口々に、新しい王について噂する。政略結婚として体よく利用されたわけだが、ふたつの国は実質的に一つの国になる。あの二人は両国の間に和をもたらしたのだ、と老人は言った。

【注解:この夢に出てくる光の剣の本来の持ち主は、主人公の騎士と敵対する国の王の娘である、白きドレスの姫ではないかという推測について。あるいは、白き姫(アニマ)と騎士(自我)との対等の契約が光の剣を操る前提条件なのではないかという推論。円卓の騎士の物語、アーサー王物語に出てくる、湖の姫の剣との類似性。……湖への道を守る騎士との戦いで剣を失ったアーサー王は、魔法使いマーリンとともに湖へとやってくる。広く澄んだ湖面。その中央から一本の白い腕が伸びていて、手の中には美しい剣があった。魔法使いマーリンが言う、「あれは湖の姫のものです。もし姫が許せば、あなたは剣をとることができます。しかしもし姫が許さなければそれは叶わぬでしょう」と。……この湖の姫の逸話ではアーサー王は姫に認められ、再び剣を手にする。そしてその剣もまたエクスカリバーなのである。彼がブリテンの王と認められたときと同じく、剣はその名で呼ばれている。いずれにせよこの夢は、私の自我がいちじるしい男性的特徴と運命を帯びていることを表している(そしておよそ二か月後の2005/12/1には、神に挑み決闘する男性剣士と、死につつある黒い少女の夢を見た。虚ろな瞳で暗い海の底にたゆたう、左肩から右胸部にかけてを鋭い鉤爪のようなもので引き裂かれた黒い少女という、大地的な女性的本能を失う危険性への警告の夢もあった。傷口から血が流れだし、海に溶けて止まらない、明らかに死につつあるそれはいやにリアルでホルマリン漬けの死体を連想した)。】


2005/10/10(月) 水龍と炎龍の老夫婦、嵐の夢
 時刻は正午、叔父の家を訪ねようとして降りた駅から繁華街とは逆方面に進んでいき、人の姿が絶えて久しくなったころ、私はやがて、海に面した通りに出た。そろそろ小一時間になる。戻ろうかどうか逡巡したとき、一軒の家が目に入った。フィールドワークの研究者といった風体の男の人が、パラボラアンテナのようなものを担いでその家から出てきたのだ。私の目の前を通り過ぎる彼は、山の方へと向かうようだった。開け放された戸口から中を覗くと、海辺の家はまるで何かの駐在所といった様相の部屋で、私はなぜかそこにいた老婆(水龍?)の手伝いをすることになった。

 ……そこは老夫婦の家だった。私のほかにもう一人助手の青年がいて、彼は私の先輩にあたるのか。コンドル(禿鷲?)の生息地とその習性、目立った病例の分析結果など、理解するのに相当の専門知識を必要とするような文面がばんばん飛び込んでくる。彼らが世界各地の生態系(環境の連鎖?)を調査する研究チームに属しているのだということはわかった。しかし、素人の私ではどうなるものか。なんとか内容についていこうと報告書をにらみつけていると、老婆が言った。「全体を把握しようなんて、下手な欲をかくんじゃないよ。あんたにそんなこと期待しちゃいないから。分からなくてもいいから、あんたはとにかく、文面に隠された意味を読み取ってくれればいい」……暗号電文じゃあるまいし、書き手の真意などここに表された以上のものではないと思うのだが。それをわざわざ教えてくれというのはどういうことだろう。ともかく私は、私が理解したとおりのことを彼らに伝えようとした。
 気が付くと、時計の針は午後の四時を回っていた。いい加減そろそろ叔父に連絡しなければならないな、とは思ったが、なんだかんだで私はここを立ち去り難くなっていたので、どうしたものかと考えた。すると老婆の夫であるオレンジの蓬髪の大男(炎龍?)が「お前にはこれから黄金の実を取りに行ってもらう」と私を指さした。それは彼らにとって、どうしても必要なものなのだという。私は自分が、ぐずぐずしている間に生贄に選ばれてしまったのだと知った。
 あたりは既に薄暗い。私たちは松明を掲げ、山道の入り口に立った。ここから先は冥府の領域だ。深い森。幾多の罠と人を食らう獣が潜み、黄金を狙う者の命を奪ってきた。だからここは、死出の山と呼ばれているのだという。

 ……櫓(祭壇?)の上を、強い風が吹き荒れている。この嵐は、恐ろしい魔物が地獄の裂け目からあふれ出す前兆なのだという。私は、左腕をくれてやるから何とかしろ、とオレンジ色の蓬髪の大男に怒鳴った。少年(助手の青年だった?)の首か、私の左腕、どちらかを捧げることで儀式は完成し、奴らを倒すことができる。そのための生贄だと聞いていた。このさい、腕の一本はすっぱり諦めるしかない。想像した痛みに背筋が寒くなるが、少年が死ぬよりマシだ。
 ふむ、と男が顎をひねって何かを思案したとき、ぼとり、と上から白いものが降ってきた。櫓の床に転がった、奇妙な弾力があるそれは、目玉だった。サッカーボール大の目玉が、荒れ狂う風と黒雲の向こうから次々大量に飛んでくる。「来やがったか!」あれが魔物の先鋒だ、と欄干から身を乗り出して男が言った。この櫓は山を背に、海と向かい合う形で立っている。老婆も杖(仕込み刀?)を構え、災禍の中心を睨み据えている。祭司(村人)たちは不安そうに空を見上げているが、そういうことならこの魔物も排除しなければならないと、私は目玉のひとつをつかんで放り投げた。すると突然少年がうめき声を上げた。片方の眼を押さえて、その場にうずくまる。崖に当たった目玉が傷ついたせいで、彼も眼を痛めてしまったのだという。
「敵に殺されない存在は、敵を殺すこともできない。気をつけろよ。お前のそれは、心だ。相手の心を砕けば、お前の心も砕かれる」ま、せいぜい死なないように頑張れ、と男はさも軽薄そうに言った。村人に肩を貸してもらって歩く少年を見ながら、私は軽率な行動を悔やんだが、この男にだけは決して気を許してはならないとも思った。そんな大切なことはもっと早くに言ってくれ。みんなそれを知っていたから、この見るからに弱そうな敵に手を出さなかったのかもしれない。たしかに怪しげな力を感じるが、この目玉は自分たちだけで何かをするというタイプではない。おそらく、他の強力な魔物を呼び寄せたり、彼らの手足となって補助に徹したり、そういう場面で最も凶悪な力を発揮するのだと思う。今はまだ、犠牲を払って倒さなければならない相手ではない。


2005/12/8(木) 千年の呪いと貴族の夢
 教室で、私の周囲の顔ぶれが仲の良かった子供たちに変わっていた。長らく留守にしていたので机の中に大量の白紙のノートがたまっている。その下には、以前来た時に使っていた教科書。ああ、それもまだ終わっていないのだ。ノートは学校の好意で時期の節目ごとに配られていて、中身は生徒が好きに使って構わない。しかしこう多くては、いつになったら持って帰れるやら……年度が終わるまでに全て処理できるだろうか?
 私は席に座ってメモを読む。言葉というのは映像と違って、同時に過去と未来の広い時間軸を留めておける。それは、貴族の子女と仕え人の記憶である。リドリーさま、リドリーさん、リドリー……メモの様子から、主人と親しくなっていく様子がうかがえる。(私はイメージの世界へと向かう。)人ひとりが住むとは思えない、神殿のように荘厳で、だだっ広い空間だった。部屋を埋め尽くす、無数の彫像、壁画、天井画……彼女にこの部屋をどう思うかと訊ねられて、私はその数があまりに多すぎることを口にした。ピアノに向かう彼女をリドリーと呼んでいたが、夢み手の私にとっては見知らぬ少女だった(黒髪のマールか二条乃梨子に似ている?)。
 少女の話によればこれはすべて石にされた女たちで、彼女の一族の人々なのだという。代々の当主がこの部屋を継いで、石化の呪いを解く方法を探してきたらしいが……そのはじまりは気の遠くなるほど、それこそ何千年も昔からの話なのではないかと思われる。少女の背負ったものを知って、私はほんの少しだけ彼女の心を理解できたような気がした(この部屋に猫がやってくるというので楽しみにしていたら、ドアを開けた途端彼は去ってしまい、私はひどくがっかりした)。

【注解:個人的な印象であるが、恐怖や悲しみなど、古代から芸術作品に表現されるようなヌミノース(神的なものに揺り動かされる様)な感情が強すぎて心がひどく凍り付き動かせなくなると、夢の中の言語では「石になる」と表現される(たとえば無数の蛇の髪を持つギリシア神話のメドゥーサに睨まれると、その姿を見てしまった人間は恐ろしさのあまり石になるので、ペルセウスはメドゥーサを直視しないよう鏡の盾に映して影を見ながら首を獲った)。石になった女たちが芸術作品となる、というのはヌミノースな激情に囚われてこの世における「普通の」あるいは「自然な」人生が送れなくなっている状態か。つまりその何千年もの昔からの呪いを解く、というのはどうにかしてヌミノースな激情に囚われた状態から解放するかで自然な生命の流れの中に帰してやることか(ちなみに我が国の慣用句では石女と書いて産まず女(うまずめ)と呼ぶ)。それが男性の中の永遠の他者、すなわちアニマであるのか、女性自身が主体として生きる女性的生命どちらであるのかはわからないが(あるいはその両方を指しているのかもしれない)、その女性的存在に自然の生命を返してやることを言っているのか。】


2006/1/5(木) 光の玉を浄化する訓練の夢
 私はどこか懐かしさをともなう夜の空を疾駆していた。地平線の彼方から、満天の星星が広がっては流れ去り、私はやがて何もない、草も木もなく星ひとつ見えない虚無の荒野にやってきた。不安になりかけたころ、街も森もはるかに遠いその場所にぽつんと城が建っているのが見えた。飛行中は私が制動をかけるわけではないので速度を落とせない。強引に着陸してそばまで行くと、一人の男が現れて、私の前に二組の剣と盾を不思議な力で呼び出した。
 男は異国の王で、彼が言うにはこれから訓練をするのでまずはそれを拾ってこいとのことだった。私は迷った。最初は小さな盾を手にとって、それから立派な剣と普通の剣、どちらをとるかを選んだ。万全を期すならすべてを手に入れてしまえばいいのだが(王はそれでも構わないと思っていたらしい)、異国の財政から経費を賄っているのであまり彼らに費用の負担をさせたくなかった。
 ……私が装備を決めると、男は闇に覆われた光の玉を天高く放り投げた。暗い輝きをたたえたそれが私の掲げる盾に触れると、光の玉は徐々に本来の淡いグリーンの輝きを取り戻していく。黒い煤のようにこびりついた闇が浄化されているのだという。敵かと思ったが黒いのは表面だけだ。ガラス電球に似たそれに素手で触ると、煤のようなものが取れた。盾の力をためてなるべく多くの玉を浄化すれば、その分の強い恵みによって私たちの戦いを有利にしてくれるのだという(私は金銭をとらなかった。様々な宝を彼はくれたが、私は常に必要最低限のものしか選ばなかった)。


2006/1/10(火) 王子と魔法使いの少女の夢
 それはどこか街中の、しかしもう人が住んでいない広場で、私は草地を駆けて敵を薙ぎ払い、坑道から入る地下の入口へと向かった。薄暗い、ところどころ松明の灯された石壁の迷宮をしばらく進んだ頃、私たちは敵の姿のない休憩地点にたどり着いた。仲間の状態を確認すると、これまで別件で私たちの許を離れていた男が任務を果たして戻ってきていた。彼は冷静な龍騎士で、若く精悍な若者だったが、闇の勢力を探っている最中悪魔の呪いを受けて、彼の保持しておける生命力の限界が著しく低下してしまっていた(他の者の200に対し、たったの7)。戦いに出すには非常に危険だが、しかし能力は最強クラスであり、どうやら呪いを受けた時に回復薬も手に入れている。私は同行する三人の中の一人を、老戦士から彼に交代した。
 開かない扉、流れないトイレ――要するに調べても何の反応もないオブジェ。仲間はそれを無意味だと言うが、しかしこの世界を構築したプログラマは無意味なものなど何ひとつ作ってはいなかった。開かない扉は鍵がかかっているのであり、流れないトイレは詰まっているのであるが、隠された宝を得るためにはまた別の宝が必要だった。私はその部屋に近いもう一つの小部屋で、ネズミの群れに守られたいくつかの宝箱を発見した。そこは迷宮の最深部に近い物置だった。厄介な魔物を一掃したのち箱の中身を検分してみると、その大半は一見何の役に立つのかわからない、しかし他の場所に隠された宝を手に入れるための「鍵」となる道具だった。
 私はこれまでに通った場所との関連を思い返し、すべてのアイテムを回収してから先へ進んだ。狭く細い廊下を抜けると、そこには赤い棺のベッドに横たわる少女がいた。彼女には中間がなく、天と地、あるいは魂と肉体に分裂していた(エヴァンジェリンとマシロ・ブランを合わせたような感じ)。
 黒髪の幼女ともいうべき少女は一行が来ると起き上がり、すっかりなじみになった客人を出迎えて何事か話し始めた。主に言葉を交わすのは、先頭に立つ少年(先ほどまで私だった人物、某国の王子、鴇羽巧)とである。彼女はもともとこの国の住人ではなく、つい最近地下迷宮の主になったばかりなのだが、それはここが彼ら以外たどり着くことのない危険な場所だからだ。少女は神に遣わされた魔法使いであり、救世主としての使命を帯びていたが、強すぎる力が力を呼び、いい加減命を狙う輩を追い払い、殺すことにも飽きていた。何よりも……彼女はこの王子の他に、誰も人間を愛することができなかった。
 少年が以前少女に頼まれていた花束を手渡すと、それを受け取った少女は、ありがとう、と微笑んだ。こうして、訳のわからない命令でも何か意味があるのだろうと信じて従ってくれる。誠実で、少々お人好しが過ぎるきらいがあるが、彼は他の人間にはないしっかりとした育ちの良さを感じさせる。彼女が俗世間を離れて自ら囚われ人となることを選んだのも、自分が選んだこの王子を指導すれば、十分使命を果たせると考えたためである。いずれ彼が率いることになるだろう国が、立派なものとなればよい。そうすれば、世界は間違いなく安定への道をたどる。しかし少女はその一方で、決して叶わない、また許されない願いを抱きはじめていた。
(少年は風吹く丘に立ち、地平を見晴るかす。許されない願いとは、彼女が王子を導くだけでなく、王子の妻になりたいと願っているという意味である。)


2006/2/18(土) ジオラマの夢
 私の前に、おもちゃの小さな街がある。形を整え、配電線を必要な場所に繋ぐ。海岸から軍需施設、市街地へ。おもちゃといってもかなり精巧なつくりのシロモノで、そういった世界を構成する材料を集めた専門店で購入した、最初のプラモデルである。付属のキットには、種々雑多な、鮮やかな彩色を施されたモビルスーツの片面パーツも並んでいる。が、今は使う手立てがない。
 次は何を組み立てようかと思って、結局別の市街地を購入した。ロンド・ミナ・サハクの居留する、オーブの一部である。本当はその前に、ミナの機体を組み立てようと思ったのだが。一般的にはこういうサイドパーツ、戦争の背景となるジオラマや母艦よりも、個々のモビルスーツ群の方が人気があるようだ。ロンド・ミナは悪人とはいっても、いつでもそう呼べるとは限らない。
 私の友が、闇の中から語りかける。プラモ屋さんで見かけたガンプラの中では、ミナの闇色の機体がそのフォルム、外観ともに最も心惹かれた。しかし、市街セットを作るのは単品の機体を作るよりも時間がかかるのである。私がモビルスーツを作れるようになるのは、いつになることであろう?

【注解:私は個々のキャラクターよりも、キャラクターが活躍する舞台、つまり物語の背景やインフラなどのシステムを理解したり描くことに関心がある、という夢の指摘。一般論として、メカニズムの理解は「悪役の正義」についての理解、悪役の存在意義に対する理解を深めるように思う。だからこそ、オーブの存続のために国際協定を破って独自のモビルスーツを開発させた、一般に闇の支配者と受け取られがちであるガンダムSEEDアストレイのロンド・ミナの正当性や現実的な価値を見抜いてミナの個性に惹かれていた。】


2006/2/26(日) 老王の策略と簒奪の夢
 老王から王国を奪う守護戦士。エリート戦士団の長に導かれて王国にやってきた彼の少女の剣には、老王の策略によって毒が塗られていた。それはひとかすりしただけでも死に至る、恐るべき猛毒である。少女はそのことに気づいていた。だから、遠征から帰ってきた海のそばで仲間と訓練をするというとき、その剣だけをへし折って本体はけして傷つけないようにした。一撃で黒い二振りの細身の針のような剣を叩き折った。いつになくむきになっているというので笑われたが、少女は内心、戦々恐々としていた。
 その砂浜に老王がやってきて、少女は彼にとびかかり、こめかみに刃を突き立てた。彼自身に与えられた、猛毒の刃を。何をするか、と老王が叫ぶ。傷は浅いが致命傷である。骨まで達していなくても、毒が回れば……彼は少女が何も知らないと思っているようだが、だからこそ焦っていた。少女はとっさに彼に対して、この国を守るためだ、と叫び返した。この国を守るためにあなたを殺す、と。彼はそれ以上何も言わなかった。

【注解:この時期にちょうど「獣と鳥」の原版の決闘場面を書いていた。つまり少女はアーティで老王はリアンの別表現ということになる可能性が高いが、この夢は老王の少女を陥れようとする意図とは正反対になった顛末と、「獣と鳥」の、より一般神話的かつ個人心理的な意味を表現していると思われる。】


2006/2/28(火) 王の予言の夢
 私は、王以外にはなれない人間というものを見た。それは長い黒髪と黒ずくめの男で、いまだ出会ったことのない人物だった。外見は若いように見える。服装はカナード・パルスのそれに似ている。しかし身にまとった雰囲気、行動パターンは、ワイルドアームズのゼットに似ている。
 不必要なまでに自信と陽気さと誇りに満ちた彼は、一行の中ではただの同行者、つまり戦力外としてカウントされていた。ところが彼らが旅の途中訪れたある国で、彼が数年(数十年?)ののちにこの国の王となるだろう、どれ、試しにその未来を見せてやろう、と老婆に告げられる。
 平素からそう言い続けて相手にされなかった彼だが、実際名指しされると驚き、「本当か?」と喜びの表情をあらわにした。そして一行は、未来の世界へとやってきた。お祭り騒ぎ? 武闘大会? なんという派手さだろう。真っ先に目に入ったのは、巨大な看板である。巨大な王の似姿が、でかでかと街を見下ろしている。派手だが、何故か悪趣味さは感じられなかった。それはおそらく、権力者が立てたという匂いがしないからだ。単なる目立ちたがりだろうが、彼はその本性からあっという間に民衆の心をつかんでしまった。

【注解:老王を殺した後の内的な王の更新。ここでの王は自我コンプレックスの中心を表している。自我の明るい動物的な本性に、ジオラマの夢のロンド・ミナ的な闇の要素を統合した王の再生。】


2006/3/14(火) 緑をまとう踊り子の夢
 私は、虹色が好きだという少女に出会った。彼女は緑色のローブのような服を着ていて、舞乙-HiMEのニナ・ウォンのような黒髪だったが、雰囲気や声はローゼンメイデンの水銀灯のそれに似ていた。半ば低空を飛行しながら音楽学校の学友二人(二人は人物像としてはYUIと中島美嘉に似ていた)についていっていた私だったが、薄暗い夜道の外れにその少女を見た瞬間、あれは探し求めていた最後の仲間だということを悟った。
 ちょうどその時、学友の一人があれが自分の家なんだ、と言って道沿いの一軒家を指し示した。彼女ともう一人はそのまま玄関をくぐっていくが、私は招待を受けておきながらすっぽかし、例の少女の側へと降り立った。私は君のために歌おう、だから、君は私のために踊ってくれ。そう協力関係を結ぶことを申し出るのだが、「歌……? いらないわ」彼女は全く興味がないというふうに受け流した。おや、これは一筋縄ではいかないな、と出鼻をくじかれた私は、「君は夜の月が好きなのかい?」と訊ねてみた。
「月は好きだけど……青い月は嫌いだわ」では何色の月が好きなのかと訊くと、虹色にゆらめく月だという。「青い月は嫌い。だって、青い月が出ている間は虹色の月を見ることができないんですもの」と少女は吐き捨てた。青とは虹の中の一色だが、青以外のすべての色を排除して成り立っている色である。

【注解:この夢を見る前日、レザン(夢の時点から一年ほど前に心の中に生まれた新たな王、葡萄の木のフランス語から来ている)と法学についての対話編を書いていた。青とは虹の中の一色だが、青い月が云々、とは論理的整合性を完成させることにのみ血道をあげれば目の前の現実を見失う、法律も国家もそれが何故必要なのかを省みられなくなったとき、あらゆる意味での公式主義に陥る危険性が強まり、生きた意味・現実との関係を失い、退廃が始まるという話。なぜなら、現実と何のかかわりがなくても論理的整合性は完成・自己完結させることができる。むしろ自己完結的な論理的整合性を完成させるためには現実が邪魔に感じるから現実を無視する、ということにもなるため。一般に、ピーター・パン・シンドロームというか、顕著な「永遠の少年」型の心理を持っていると現世拒否的な傾向が強くなる傾向がある。それと公式主義への陥りやすさがリンクしているのかは私にはわからないが、「永遠の少年」型の心理と現世拒否的・自己完結的な論理的整合性の追求は明確にリンクしている。】


2006/3/25(土) 剣の夢
 敵を倒して強化する炎の剣。第二段階の青(白銀の鉄?)から虹へ、最終段階の闘気は周囲の空間を巻き込みながら放たれる、ゆらめく虹色。(闘気が)実体となっている間はわからないが、本体は短剣サイズで、刃の色は赤きナイフの灼熱色を呈する。一度炎がおさまると再び強化するには時間がかかり、雑魚相手でも苦戦は免れない。私は解除を自分の意志でできる分、長期的な戦況の見極めがより重要となってくる。


2006/4/1(土) 本屋の夢
 久しぶりに本屋の中を回った。特に何かを買うつもりもなく、めぼしい本を探して歩く。今は持ち合わせがないので、なるべく出費を抑えて雰囲気だけ味わうつもりだった。通路に近い本棚の下から二段目に、赤い表紙の「血の降る雨」といういかにもなタイトルの本があった。それから、少年漫画の単行本が平積みになった新刊コーナーへ行った。……種々雑多な本が粗製濫造されている現場に立ち会った気分だった。
 なんでこんなに発行数が多いんだ、思わず口にして、そこで売り物を整理しながら雑談していた店員さんの会話に加わった。二人の青年は、他の客が誰も話しかけなかったから二人で話していただけで、私が輪に入ることを気軽に応じてくれた。
「この〇〇ってさ、もう18巻まで出てるけど、かなり物語が行き詰まってきてるよな。せっかくこれだけの世界を持っているのに、もったいないと思うよ」展開が少年漫画に特有の堂々巡りになってきている、と青年は嘆いた。異界に進んだ戦いまでに大方の重要な素材は出ているんだから、作者が見落としに気づいて素材を研究しさえすれば、簡単に次の舞台を構築できるはずなのだ。するともう一人の青年が「股間に頼れば解決するんじゃないか」と茶化した。ラブコメ(正統派な恋愛もの?)にすればかなりの人気が出るというのだが、下品な言い回しだ。私はわずかに顔をしかめながら、苦手意識を悟られないように「いや、いっそのことファンタジーにしてしまった方がいいんじゃないかな」と提案した。
「ええ、ファンタジー?」と不満の声を上げる彼は、トールキンの指環物語のような(?)難解な用語の錯綜する複雑怪奇な物語を想像してしまったらしい。「うん。△△って知ってる? この人が前に描いてたやつで、十二の指環を集めてどうこう、っていう話なんだけど」
 もともとそっちの人だから向いているとは思うんだ、と言うと、最初の青年がそれに賛同した。「ああ、俺もそうした方がいいんじゃないかと思うよ。変な用語を一切使わないで、インドとか、ヒンドゥー教とか、その方面の神話から材料を集めてさ」その言葉に、星図の座や龍神の姿となった王様を想像した。青年が言うのは、自分の世界観に合った神話を選べということらしい。異教の要素を自分の言葉に同化できるだけの構造をこの世界は持っているから、と。


2006/4/20(木) 岩窟寺院、聖霊の大学の夢
 大洋に、島がひとつ浮いている。南西の海岸から上陸したところに、森の中に隠された国がある。陸地の中央の大部分を占めるその場所は、私が龍の国と呼ぶものと同じであったように思う。海岸を除く周りをいくつかの小国に囲まれており、周辺の都市とは陸続きなのだが、そこは峻険な地形の関係で、船を出してぐるりと海岸線を回る航路でないとたどり着くことができない。
 私は、おそらくその国のどこかなのだろう、岩窟寺院のような岩の割れ目から光のこぼれ差す教室で、幾人かの人々と机を並べ、何かの授業を受けていた。鍾乳洞の背後からは水平線がのぞき、振り返れば遥かな青い海を見渡すことができた。
 そこはさながら、レオナルド・ダ・ヴィンチの「岩窟の聖母」に描かれた情景のようだった。

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