【ラストレター】

映像から感じる、温度とか、質感とか、埃っぽさとか、匂いとか。
五感を震わせてくる映画が好きな私は、観る前からも「絶対に、これは、好きだ」という確証があって、
やっぱり案の定、とても好きな映画だった。
そして、本編ではなくて、何か、もっと違う作品の、アナザーストーリー、もしくはエピローグなんじゃないかと想ったくらい。
大事に、大事に、「大切なここだけを、あなたにあげるね」と切り取られたような物語だった。

【ストーリー】
裕里(松たか子)の姉の未咲が、亡くなった。裕里は葬儀の場で、未咲の面影を残す娘の鮎美(広瀬すず)から、未咲宛ての同窓会の案内と、未咲が鮎美に残した手紙の存在を告げられる。未咲の死を知らせるために行った同窓会で、学校のヒロインだった姉と勘違いされてしまう裕里。そしてその場で、初恋の相手・鏡史郎(福山雅治)と再会することに。
勘違いから始まった、裕里と鏡史郎の不思議な文通。裕里は、未咲のふりをして、手紙を書き続ける。その内のひとつの手紙が鮎美に届いてしまったことで、鮎美は鏡史郎(回想・神木隆之介)と未咲(回想・広瀬すず)、そして裕里(回想・森七菜)の学生時代の淡い初恋の思い出を辿りだす。
ひょんなことから彼らを繋いだ手紙は、未咲の死の真相、そして過去と現在、心に蓋をしてきたそれぞれの初恋の想いを、時を超えて動かしていく―――



岩井俊二監督の優しい部分だけを、ぎゅっと詰め込んだような、煮込んだような、なんともすごい密度を感じる。
何度も沸騰させて、濾過して、上澄みをとって、掬い取って、大切に大切に磨いた、優しさのようなもの。
あんまり丁寧で優しくて、それを飲み込むのが苦しくなるくらい。

そういえば私の人生にはいつも「手紙」が傍にあって、とても身近なものだなと想う。
大人になってから、前よりも筆を執る機会は減ったものの、誰かの誕生日や贈り物には、なるべくメッセージカードをつけるようにしているし、
SNSも、メールアドレスも、電話番号も知っているけれど、あえて手紙のやり取りをしている友達もいる。
中学時代、携帯電話をもっていなかったので(PCからのメールや、チャットなんかはやっていたけれど)基本的に友達とのやりとりはルーズリーフにしたためた手紙だった。
口で話せばいいようなことを、大事に、大事に文字にした。
あの頃流行った丸文字だったり、その頃、無印良品のカラーペンが流行っていたので、ほぼ全色もって、毎回色を変えたりなんかして。
手紙をもらい、返事を書く、というのは、いまでもその中学時代を思い出して、浮足立ってしまう。


映画を見たあとから、松たか子さん、森七菜さん演じる裕理の気持ちは、心は、どこにあるんだろう、とぼんやり考えている。
自分の好きな人の目線に、いつだって自分はいなくて。
何十年越しに受け取れた、自分宛ての手紙だって、本当は自分宛ではなくて。
好きな人も、好きな人の好きな人も、大切で。
それでも、「あなたが結婚してくれてたら」と涙を流せる裕理を、抱き締めたくなった。

私は、未咲が嫌い、なんだと想う。たぶん。
人に愛されて、人を愛すこともできて、誰かの好きな人、の、目線にいるのが自分だと、無垢な気持ちで気づかない彼女を、私は多分、嫌いなんだと想う。
彼女が選択した人生の結末も、「自分本意」でしかない、と、物語が進むにつれて嫌悪感を感じた。
そんな彼女を、裕里も、鏡史郎も、阿藤だって、そんな「自分本意」も含めて、大切だと想うのか、と、嫌に想うのは、
多分、私があまりに、未咲のことを知らないからなんだろうな、と想う。
未咲のことが嫌いで、憎くて、それでも、私は鏡史郎と、裕里と…登場人物が描く「未咲」を、もっと知りたいと想う。

好きなシーンは沢山あるのだけれど、やっぱり神木くんと森七菜さんとシーンは、どこを切り取っても最高だった。
こんなに、青春の、光の匂いが強い映画は久しぶりだった。
いわゆる、そういう、わかりやすい恋心ではなくて、もっと純朴な、甘酸っぱい感じ。
神木くんはもう十分すぎる大人なのに、未だにこんなに学生服や「青春」の言葉が似合うなんて、すごい。
森七菜さんは、天気の子で名前は知っていたものの、演技をちゃんと見るのははじめてで、
こんなに、こんなに透明感のある表情をする子なんだな、とびっくりする。
誰にも傷つけることのできない、凜として透明感が、のちの「結婚してくれてたら」と言える、優しい裕里に繋がっているな、と、本当に心から想えた。


優しくて、優しくて、壊れやすくて。
登場人物が全員、誰かを想っては傷ついて、修復していく映画だと想う、それは大切に言葉を紡ぐ、という方法で。
それが、お願いだから真っすぐ届いてほしい、と願わずにはいられない、そんな映画でした。


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