判例要約:サーバーを海外に設置して特許侵害を免れることは出来るのか?
こんにちは。サラリーマン弁理士のnabです。本日は、サーバーを海外において特許侵害を免れることは出来るのか?がテーマです。
取り上げる判例は、通称ドワンゴ事件と呼ばれ、ニコニコ動画などでおなじみの、コメントがリアルタイムで水平移動するあのインターフェイスに関するものです。
この記事では、今回の裁判の要旨、争点やその結論について、図解でわかりやすく解説していきたいと思います。
参考文献は、「令和4年(ネ)第10046号 特許権侵害差止等請求控訴事件・判例要旨 及び 判例全文」です。
1.事件の要旨
この事件は、「コメント配信システム」に関する特許第6526304号の特許権者であるドワンゴが、FC2(米国法人)が運営するインターネット上のコメント付き動画配信サービスの実施行為を、特許侵害に該当するとして、東京地裁に訴訟を起こしました(本件は控訴され、知財高裁で争われました)。
2.特許6526304号の概要
では、ドワンゴの所有している特許権はどんなものなのでしょうか?対象特許のメインクレーム(請求項1)を要約してみます。
※説明のわかりやすさを重視し、構成要件を大幅に省略しています。詳細は、J-pratpatなどの検索サイトで、本特許を確認してみてください。
3.争点は海外に設置したサーバー
この訴訟での争点は、FC2の行為は日本国内での生産か否か!?でした。FC2の実施していた動画表示システムは、ドワンゴの特許の構成要件をすべて満たしていました。しかし、FC2は、その構成要件の一つであるサーバーを海外に設置していたのです。
日本は属地主義です。属地主義とは、法律の適用範囲を自国領域内に場所的に限定する考え方です。
被告のFC2側は、「構成要件のサーバーが海外にある以上、FC2の動画配信行為は日本で生産(実施)していることにはならない。」と特許権非侵害を主張し、原告のドワンゴ側は、「サーバーは、発明の主要な構成要件ではないからFC2の動画配信行為は日本での生産(実施)である。」と特許権侵害を主張したのです。
4.知財高裁が出した結論
知財高裁は、ドワンゴ側の主張を概ね認め、「FC2の動画配信行為は日本での実施である」とし、FC2の行為は、ドワンゴの特許6526304号を侵害していると結論付けました。
FC2の動画配信行為が、日本国内での実施であるとした主な理由は以下の通りです。
要するに、発明の重要構成は国内にある携帯端末なんだし、発明の効果は国内で完結しているんだから、FC2の動画配信システムは、国内での実施になりますよという見解が示された訳ですね。
5.まとめ
本件は、サーバーを含む特許権について、サーバを国外に設置さえすれば特許を容易に回避できるのは妥当ではないし、他方で、システムを構成する要素の一部である端末が国内に存在すれば、特許法の「実施」に該当するとすることは、特許権の過剰な保護となって、これも妥当ではありません。
今回の判決で、日本の属地主義における特許権の保護できる範囲が示唆されたといえます。
上記特許権の保護の観点から、サーバーを含む請求項はなるべく使いたくないという特許権利化の実務においても、今回の判例はおおいに参考になると思われます。興味のある方は、ぜひ下記の判決文に当たって理解を深めてみてください。
https://www.ip.courts.go.jp/vc-files/ip/2023/4n10046chizaisaishuu.pdf
最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。