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【料理エッセイ】はじめての夜釣りは悲しくなるほど釣れなくて、途方に暮れてしまったけれど、明け方、ようやくアジが釣れたとさ。サンキュー、東京湾!
先日、コロナ禍で釣りにハマって、横須賀へ引っ越した友だちに誘われて、人生初の海釣りにチャレンジした話を記事にした。
そのときは人もたくさんいたし、一匹も釣れなかったし、わたしの結論は「あんまり楽しくない」だった。だけど、友だちはそうなってしまったことがとても不本意だったらしく、今度は夜釣りを試してほしいと言ってきた。
なんでも、昼間はあふれんばかりに人が密集しているけれど、夜にはけっこう帰りだし、終電を過ぎた頃には快適に釣りを楽しめるというではないか。しかも、いまなら太刀魚やイカが狙えるらしい。魅力的なお誘いだった。
で、午後十時に家を出発。あと数分で日をまたぐ時刻に横須賀中央駅に到着。ひっそりとした道をテクテク歩き、友だちと合流。うみかぜ公園沿いの釣りスポットへと参上してみた。
すると、ふつうに人がたくさんいた笑
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「話が違うじゃん」
「うーん。なんか、いるねぇ」
「いや、幽霊みたいに言うなし」
とは言え、詳しく聞いてみれば、日中は数メートル間隔で人がいるらしく、その混雑具合と比べればだいぶマシ。釣り糸が隣近所と絡むリスクはなさそうだった。
正直、わたしにしてみれば、オールナイトで釣りをするなんて非日常もいいところ。まさか、それを楽しむ人がこんなにいっぱいいるなんて。想像もしていなかった。
いや、ぶっちゃけ、夜釣りなんて『水曜どうでしょう』の過酷な企画としてしか見たことがなく、その中では「寝釣り」と呼ばれるスタイルが紹介されていた。
曰く、釣ろうと思っているから釣れないのだ。眠ってしまって、無欲の境地に入った瞬間、魚はやってくるというもの。
要するに、夜中だし、つまらないし、眠くて仕方ないという話で、大泉洋たちが死んだように倒れてから姿が印象的だった。
なので、今回、わたしもジャージ姿になり、いつアスファルトで横になってもいいように準備してきたのだが、普通に人がいるし、月明かりで意外と明るいので、そんな恥ずかしいマネはできそうになく、標準な体勢で釣り針を海にぽーんっと投じた。
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イカが食べたいわたしのために、友だちはエギングという方法の準備をしてくれた。エギングとはなんなのか聞くと、餌木+ingの和製英語らしく、不思議な言葉だなぁと思った。
一説によると、むかし、夜の漁をしているとき、魚を集めるために船上で炊いていた炎の薪が海に落ちたことに由来しているらしい。なんと、その木を餌と勘違いして、イカが全身で絡みついてきたというのだ。
そのため、木のかけらを餌の代わりに使う形で、エギ(餌木)ングという釣り方が定着してしたんだとか。現在、餌木は魚の形をしたルアーみたいになっていて、それを水中でピョンピョン跳ねさせながら、リールを巻くのがコツっぽい。
結果、寝釣りなんてしている暇は全然なかった。投げては巻き取り、投げては巻き取り、手首にスナップを効かせて見えない餌木を躍動させ続けた。
その横で友だちは光るルアーを投げては回収、投げては回収を繰り返していた。太刀魚を釣るにはそうするみたいで、たしかに、まわりも光るルアーを使っていた。
こんな風にうんちくを教えてもらうと、なんだか釣れそうな気がしてくるものだけど、それから数時間、嘘みたいになにも釣れなかった。
空はだんだん明るくなってきた。もはや、わたしたちは魚のいないところに向かって、期待を捨てていただけだったのではないかと思われてくる。
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これはイカも太刀魚も無理だなって話になった。友だちは、
「次こそは当たるかも……」
と、パチンカスみたいなことをつぶやいていたけど、わたしは強引に方針の転換を求めた。
狙いを変えるなら、アジがよさそうとのことだった。友だちはこの時間帯にこの場所で釣ったことはないけれど、理論上、釣れるはずと言っていた。
その場合、サビキという餌をばら撒く方法に切り替える必要があり、餌となるアミエビを調達しなきゃいけないらしい。
時刻は午前3時をまわった頃。さすがに買い物は無理かと思ったら、最寄りの釣具屋さん、上州屋がすでに開いているというから驚きだ。
で、ささっとお店に行って、アマエビをゲット。今度こそ、魚を釣るぞと意気込んで第二ラウンドを開始した。
ただ、やっぱり、現実は甘くない。うんともすんとも反応がないまま、二、三時間が経過した。
もはや、魚なんて架空の存在なんじゃないかと疑わしくなってくるほど、なにも釣れなかった。徹夜で釣りをしていた周囲の人たちもいよいよ諦めモードらしく、徐々に帰り支度を始めていた。
わたしもダメかなぁって気がしていた。でも、友だちは、
「こういうときこそ、当たるんだよ」
と、ますますパチンカスさを増幅させて、瞳をギラギラさせているので、ひとまず付き合うことにした。
すると、突然、浮きがピュンッと沈み込んだ。
「キター!!」
友だちは叫び、わたしはリールを巻き取った。生命の抵抗が振動となり、手のひらに伝わってきた。ゆっくり、ゆっくり、逃げられないように引き寄せていくと、やがて、金色に輝くアジが姿を現した。
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六時間以上、粘ってよかった。これで満足して帰れるね。そんな風に喜ぼうとしたら、友だちは、
「魚群リーチ!」
と、いよいよ揺るぎなきパチンカスとして、釣り針を勢いよく投げ込んでいた。
ただ、その興奮もあながちで、それまでの静けさはなんだったのか。アジが釣れに釣れて、釣れまくった。
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あんまり多くても下処理が大変なので、6匹にセレクト。ナイフで活け締めにして、血を抜いた。その動作を流れるようにこなす友だちを見て、かつては虫一匹殺せなかったはずなのに、なんて逞しい人間になっているんだろうと尊敬の念が湧いてきた。
調理はわたしが担当した。帰り道の途中にある西友で野菜やパスタを購入。友だちの家で腕を振るった。
どう考えても朝8時に食べるものではないけど、疲れてもいるし、ビールで乾杯、アジのフルコースを完成させた。
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飲んで、食べて、おしゃべりした。そして、気がついたら、二人とも眠っていた。
目が覚めたとき、夕方になっていた。窓から差し込む赤い光を眺めつつ、わたしは魚を釣ることの大変さをしみじみと感じ入った。
これまで、お魚屋さんに行っても、丸々一匹の魚はさばくのが面倒臭いなぁと敬遠し、切り身ばかり買っていたけれど、この苦労を考えれば、むしろありがたいことではないかと価値観がひっくり返ってしまった。
以来、わたしは魚屋さんに行くたび、丸々一匹の魚を買っている。
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そのことを友だちに伝えたら、
「釣りにハマってほしかった笑」
と、言われた。
いやいや、楽しいは楽しかったけど、すごく過酷だったんだもの笑
でも、また、チャレンジはしたいかなぁ。次こそ、イカと太刀魚を釣ってみたい!
マシュマロやっています。
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